日本におけるCKD(慢性腎臓病)の患者数は年々増え続け、1,330万人に上っている(2018年)。東邦大学の腎センターは外科と内科、小児科の医師が診療科の枠を超えて集まり、たんぱく尿から透析・移植まで、小児から高齢者までの腎臓疾患に対応している。年間約100例の透析導入に対応し、腎移植は約50例、中でも小児腎移植の年間症例数は日本一と言う。併設の小児腎センターは小学校の検尿から関わり、移植のハイリスクケースも積極的に受け入れているそうだ。教授とスタッフに話を聞いた。
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治療の選択肢として、移植医療は目覚ましい進展を続けています。
手術手技の向上や薬の開発のみならず、専門スタッフの自己研鑽に基づいたチーム医療は
治療成績に大きく貢献しました。
その最前線をレポートします。
Interview
東邦大学医療センター 大森病院 腎センター (東京都大田区)
教授 酒井 謙 先生
【プロフィール】
さかい けん:1986年に東邦大学医学部を卒業し、2011年より現職。日本腎臓学会や日本移植学会など多数の学会で要職を兼任。主な執筆・編著書に『腎代替療法選択ガイド2020(ライフサイエンス出版 2020年)』、『CKD(慢性腎臓病)の最新食事療法のなぜに答える(医歯薬出版 2021年)』ほか。
日本におけるCKD(慢性腎臓病)の患者数は年々増え続け、1,330万人に上っている(2018年)。東邦大学の腎センターは外科と内科、小児科の医師が診療科の枠を超えて集まり、たんぱく尿から透析・移植まで、小児から高齢者までの腎臓疾患に対応している。年間約100例の透析導入に対応し、腎移植は約50例、中でも小児腎移植の年間症例数は日本一と言う。併設の小児腎センターは小学校の検尿から関わり、移植のハイリスクケースも積極的に受け入れているそうだ。教授とスタッフに話を聞いた。
当センターの腎移植件数は年間約50例と多く、通算では1,000例を超えました。小児腎移植が多いことも特徴です。
ハイリスクケースと言われる、他施設での腎移植や術後管理が難しい症例を積極的に受け入れています。これは内科と外科、小児科の専門性を集約したワンチーム医療のなせる技で、科の枠を超えた医師たちがひとつのセンターで診療しているのは日本の大学医学部講座では私たちだけです。
腎移植は通常、泌尿器科のサブスペシャリティとして行われることが多く、腎不全の治療は腎臓内科や透析センター、小児科などがそれぞれ別に診ています。当センターではそれらをひとつにまとめ、小児から高齢者まで、たんぱく尿から移植までのすべてを包括して診ています。
各科の医師がセンターの医局で隣り合って座っていることもプラスに働いているでしょう。医局のコミュニケーションは潤滑で雰囲気が温かく、入局者は自然と腎不全治療を内科的、外科的、小児科的側面から捉えられるようになります。
腎移植はかつて、透析の限界が近づいている方を透析クリニックから紹介されるケースもありました。しかし現在は「先行的腎移植」として透析導入前に移植を希望するケースの紹介が増えてきました。
先行的腎移植にメリットがあることはメタアナリシスでも示されてきましたので、透析を経ずに移植をする選択肢のあることが内科医の間に浸透してきたことを実感しています。
末期腎不全となった患者さんに「透析をしない・やめる選択(保存的腎臓療法:CKM)」が存在することも事実です。症状や苦痛を軽減する保存的治療で、内科的な管理から緩和医療までを含みます。これまでタブー視されてきたこの選択ですが、現場では存在を無視することができず、最近は研究班によるガイドブックも刊行されました。
その方の人生や暮らしを考えながら、どんな選択がご本人にいいのかを考えた場合、ときには移植や透析をしないことも苦渋の選択としてはあり得ると思います。末期がんで透析そのものの利益が得られないとき、あるいは超高齢者でいわゆる寝たきり状態の方々にも、透析以外の選択肢があるはずです。
2021年、新たに「腎代替療法専門指導士」制度が立ち上がりました。これは移植に関わる各施設にひとり、腎代替療法すなわち血液透析、腹膜透析、腎移植すべての知識を持ったスタッフを配置しようとするものです。
これまでもその3つの選択肢については「患者さんに平等に説明すべき」と推奨されてきましたが、スタッフに知識がなければそれも難しく、これまでは血液透析に目が向かいがちでした。しかしこれからは腎代替療法について等しく説明するよう改めて国が方針を表明したのです。
そして2022年4月の診療報酬改定によって、移植手術を行う施設から透析クリニックまで各施設がさらに連携を深め、症例検討を行うことが必須になりました。今まではたとえば透析クリニックから移植希望者を紹介されたときに、動脈硬化の進行により移植に資する血管がないような難しいケースは移植施設と紹介施設が1対1で対応していましたが、今後は複数の施設でWebを使って「こんなケースが問題になっている」、あるいは「こういうケースはご紹介いただきたい」などの情報を共有していけるようになったのです。
日本は今まで欧米や韓国・台湾に比して「透析大国、移植貧国」と言われてきましたが、その状況が変わっていくことを願って止みません。
現在、日本移植学会は内科系医師に向けた全臓器移植のハンドブックを作成中です。これによって全国どこの内科・小児科でも、移植の患者さんが来たときに、その病状対応に備えられるのではないかと期待しています。
韓国や米国では移植後の患者さんを腎臓内科レジデントが診ていますし、移植後の維持期は腎臓内科医の力を活かせる分野です。移植手術の成績が向上し、維持期の患者さんがどんどん増え続ける中、その受け皿をぜひ全国の医師たちと共有できればと思います。
移植の成功体験を、ぜひ全国の医療従事者と共有していきたいですね。
私は内科医ですので透析前から移植後もずっと診ていますが、移植を受けた患者さんは実に元気になるんですよ。たとえばネフローゼ症候群で診ていたある女の子はさまざまな治療が奏功せず腹膜透析になってしまいましたが、親御さんの腎臓を移植して元気に退院していきました。その子が結婚して出産したなどと聞くと、心から「ああ、よかった」と思えるんです。
患者さんが透析に至ってしまうことは腎臓内科医として非常に残念に思います。ですが病の過程を含めて生涯を診ているからこそ、幸せに暮らしている姿を見られることは無上の喜びなんです。
小児腎センター 准教授/小児科医
濱崎祐子 先生
小児腎移植は国内最多
小児腎センターは、腎センター内の一部門として2009 年に立ち上がりました。小児のCKD(慢性腎臓病)に対する内科的・泌尿器科的治療から透析、腎移植までを行っており、小児腎移植件数は全国の約20%を占め国内最多です。
小児が末期腎不全となった場合、身体の成長や心の発達、社会環境を考慮すると治療の第一選択は腎移植になります。ですが小児を専門とした移植施設は少ないため、当センターは全国から紹介をいただいています。
成長過程も診ていく小児腎移植
当院は身体の小さい5歳未満の子や、下部尿路系に異常がある子たちの腎移植にも対応しています。患者さんが安心して医療を受けられるよう、小児循環器医・内分泌医、栄養科、チャイルドライフスペシャリストなどとも連携して全身管理を行っています。
腎臓病は慢性疾患ですから、小児が成人した後も一貫した管理が必要となります。成人後は当センターの成人担当医にスムーズに引き継げることも利点だと思います。
小学校の検尿にも参加
私たちは当センターのある大田区の小学校で1年生から毎年行われる学校検尿の3次健診を担当しています。1日100人ほどの検査を行い、血尿・たんぱく尿の経過観察や、 急性・慢性腎炎およびネフローゼ症候群の診断をしています。
小児で献腎登録をするケースも
小児腎移植はご両親のどちらかがドナーになることが多く、次いで多いのが祖父母、おじ・おばです。ですが適格なドナーが見つからず、献腎登録をして待たなければいけないケースがあります。成人の待機期間が約15年であることに比べ、小児は優先ポイントがあるため待機期間は短くなっています。2018年を例に挙げますと、16歳未満の待機日数は1.6年でした(日本移植学会ファクトブック2020より)。それでも欧米に比べるとまだまだ長いと言わざるを得ません。
ご家族のQOL向上も
赤ちゃんの頃から透析をしていた患者さんのお母さまから、「睡眠時間が2時間しか取れない」と聞いたことがあります。毎日自宅で透析を行い、ミルクを経鼻チューブで注入し、おしめを替えて、洗濯や炊事などの家事もすべて担っている。非常に大変な毎日を過ごされています。腎移植はこうしたお母さまをはじめとしたご家族のQOLも大幅に改善します。これも非常に重要な点だと考えています。
腎移植が成功すればそれに勝る腎代替療法は今のところ存在しません。子どもたちは移植を受けると、経鼻栄養だった子がご飯を食べ始め、身長がどんどん伸びていきます。立てなかった子が歩き始め、話せなかった子がおしゃべりするようになり、医療者として感動する場面に多々立ち会えます。そうしてその子たちが社会に出て就職し……、医学部に入った子もいますし、医療従事者になった子は結構いるんですよ。そうした姿を見られることは何よりも嬉しいです。
これからも若い先生たちと一緒に頑張っていきたいですね。
腎センター 准教授/外科医
村松真樹 先生
移植の治療成績を向上させるチーム医療
小児は腎移植後、長い人生をひとつの腎臓で過ごすことになりますので、移植腎を少しでも長く維持できるようチーム医療は欠かせません。私は外科医で移植手術を手がけていますが、移植後は薬の調整や合併症を含めた内科疾患、小児科疾患が問題になりやすいので、内科医や小児科医が同じセンター内にいるのはとても心強いです。
移植腎の生着率はなぜよくなったか
昔に比べると、移植腎の生着率は飛躍的によくなっています。免疫抑制剤の発展もその理由のひとつですが、移植腎を守るために医療従事者と患者さんがより一層、生活習慣病などの内科疾患に気を付けるようになったことも大きいと思います。
小児腎移植におけるサイズミスマッチ
小児腎移植は親御さんの腎臓を移植することが多いため、成人サイズの腎臓が小さなお腹の中に入りづらい「サイズミスマッチ」がどうしても多くなります。本来は年齢が近い献腎移植が理想的なことは間違いありません。
ただ、移植して1年も経つと成人の移植腎が本来の血流に馴染んで小さくはなってきます。また、成人ドナーも腎臓をひとつ摘出すると、残った腎臓が少し大きくなると言われており、お子さんも成長するに従って体重と血流が増えれば、恐らく移植腎のサイズがまた大きくなっていくのではないかと期待しています。
移植後の元気な患者さんを!
私は患者さんに「移植が終わったら、紹介してくれた元の主治医のところへ挨拶に行って元気な顔を見せてくださいね」と伝えています。
全国で腎臓を診ている医師は「こういうケースは移植できるのか、できないのか」など、悩まれることも多々あると思います。われわれも悩むことはたくさんありますが、とにかく悩んだときには気軽にご相談いただければと思います。移植できない理由を探すのでなく、移植を受けて元気になった姿を想像していただければと思うのです。
患者さんとのやりとりで感じることは
ある患者さんから「先生、(移植手術を)担当してくれますよね?」と言われたときは、改めて気持ちが引き締まるとともに、とても嬉しかったことを覚えています。
そして移植を受けた女性の患者さんが妊娠出産したり、高齢の方が透析を離脱して夫婦2人で旅行をしたなど、人生の質が変わっていく様子を聞けることは何よりのやりがいです。
腎センター 講師/内科医
小口英世 先生
同じ目標を目指すチーム医療
私は内科医ですが、腎臓内科において外科的・小児科的対応は避けて通れません。ですが以前は外科医や小児科医がどんな点を大事に思っているか、わからないことも多かったんです。
現在のセンターに入局してからは外科医と小児科医が身近にいますので、何でも気軽に話せるようになりました。もちろんそれぞれの専門性によって考え方に違いが出ることもありますが、「腎不全の患者さんを救うこと」が目的として共有できていますから、お互いの考えを尊重しながら、私も内科医として意見をしっかり伝えています。
献腎移植による長い待機期間
現在、献腎移植の待機期間は約15年と非常に長い状態にあります(16歳以上の献腎移植の平均待機期間は16.3年。日本移植学会ファクトブック2020年より)。そのため内科医としては待機期間中の心血管系疾患のリスク管理や、悪性腫瘍のスクリーニングがますます重要な課題になりつつあります。
長期ケアはさまざまな視点で
長期生着においては拒絶反応をケアする以外にも管理すべき点が多く、生活習慣病や腎炎の再発、免疫抑制剤の副作用など、移植腎を守るための内科的視点が重要となります。また尿路系の問題など外科処置が必要になることもあるので、外科医との長期的な連携も必要です。
若い内科医はぜひ移植医療に目を向けて
研究を視野に入れると、移植医療は腎臓内科医にとって非常に興味深い分野でもあります。通常はなかなか診ることがない腎生検の組織や病態を診ることができ、医師としての幅を広げられることは間違いありません。ぜひ若い内科医にトライしてほしいですね。
臨床も病理も
移植医療に携わるやりがいは日々感じています。私は移植前後の患者さんを診察するだけでなく、移植腎生検を行うすべての症例の読影と病理レポートも作成しています。このように患者さんも診て、病理診断もしている内科医は珍しいのではないでしょうか。経過と病理組織を見ていると、なぜ腎機能が低下していくのか、何が問題なのかが、臨床的かつ病理学的に理解を深められるんです。それを各科の医師とカンファレンスで共有できることは大きな喜びです。
これからも患者さんに「移植を受けてよかった」と喜んでいただくために、内科医として何ができるのかを常に考えながら、日々謙虚に患者さんと向き合っていきたいと思います。
(2022年6月取材)
〈取材・編集:ライフサイエンス出版株式会社〉
※所属・役職は2022年6月時点の情報です。
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