腎移植を受けた患者さんは、手術を含めてたった1週間の入院で劇的に回復します。術後はみるみる血色のよい顔色になって「私、元気になった!」と喜んでくれる。病院に来て笑顔になれるのは産科ぐらいですが、実は移植外科もそうなんですよ。生体腎移植ではドナー(提供者)とレシピエントのひと組の患者さんたちが、手術で痛い思いをしたはずなのに、2人ともニコニコしながら退院していきます。そんな姿を見るとやはり移植医療に携わってよかったと思います。
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治療の選択肢として、移植医療は目覚ましい進展を続けています。
手術手技の向上や薬の開発のみならず、専門スタッフの自己研鑽に基づいたチーム医療は治療成績に大きく貢献しました。
その最前線をレポートします。
Interview
自治医科大学附属病院 腎臓センター外科部門(腎臓外科)教授
岩見大基 先生
【プロフィール】
いわみ だいき:2000年に北海道大学医学部医学科を卒業後、関連病院泌尿器科に勤務。2012年よりメリーランド大学(アメリカ)に留学。アメリカ移植学会Young Investigator Awardなど国内外での受賞歴多数。2020年より現職。
腎移植を受けた患者さんは、手術を含めてたった1週間の入院で劇的に回復します。術後はみるみる血色のよい顔色になって「私、元気になった!」と喜んでくれる。病院に来て笑顔になれるのは産科ぐらいですが、実は移植外科もそうなんですよ。生体腎移植ではドナー(提供者)とレシピエントのひと組の患者さんたちが、手術で痛い思いをしたはずなのに、2人ともニコニコしながら退院していきます。そんな姿を見るとやはり移植医療に携わってよかったと思います。
私たちは栃木県で腎移植を実施している唯一の施設です。栃木県は2020年の「都道府県魅力度ランキング」で残念ながら最下位になってしまったのですが(笑)、当院は県をまたいで遠方から来院される患者さんもたくさんいますので、年間の腎移植は30~35件、ほぼ毎月2〜3例の手術を行っており、症例数は北関東1位、全国10位となっています。
このたびのコロナ禍で腎移植の件数は一時的に減りました。感染拡大当初は新型コロナウイルスの正体がよくわかっていなかったので、移植手術を控えていたためです。しかし院内でPCR検査を行う体制が比較的早く整ったのと、栃木県は感染者が爆発的には増えていなかったことも幸いし、ゴールデンウィーク明けから移植手術を再開できました。移植を休止した期間はひと月半にとどまり、以降は当院の方針にのっとってPCR検査で陰性を確認した上で、通常通りの医療を提供しています。2020年5月〜11月の腎移植件数は通常とほぼ変わらず計15件となり今に至っています。
遠隔診療については、4月頃はごく一部の方にファックスで処方箋を送るなどしましたが、最近は希望される方がいません。移植は採血の結果を気にされる患者さんが多く、採血をするためには受診する必要がありますし、私たちスタッフの顔を見ることで安心される患者さんも多いようです。
感染対策は日本移植学会が推奨している基本方針を参考にして、あとは臓器移植に限らず、手術のために全身麻酔をする患者さんは、入院前に全員PCR検査で陰性を確認しています。
当科ではさらに、腎移植を受ける方全員に入院2週間前から体温測定をしてもらい、その結果を記した体温表を持参してもらっています。
当院には腎臓疾患を総合的に診る「腎臓センター」があり、私たち腎臓外科と腎臓内科が共同で診療にあたっています。外来も入院もこのセンターに集約されていますので、透析・シャントの手術を受ける患者さんや移植を受ける患者さんが一緒に入院しています。患者さんを中心に、外科と内科がそれぞれ専門的な視点で対応しており、医師やスタッフはいつでも声を掛け合い、非常に密な連携を保っています。
腎移植の長期成績は年々向上していますが、レシピエントが高齢になればどうしても感染症や悪性腫瘍にかかりやすいので、早期発見と早期治療を心がける必要があります。それには内科的管理が非常に大きなウエイトを占めることは言うまでもありません。また、合併症はボディブローのように移植腎を弱らせてしまいますから、糖尿病やメタボリックシンドローム(MetS)、心疾患や血管性の疾患なども併発しないよう全身管理を長期にかけて行うことが重要です。
そのためにはチーム医療が大きな役割を果たします。まずは移植コーディネーターが患者さんの「よろず相談所」の窓口として不安や悩みに答えつつ、受診の必要な状態かどうかを確認します。たとえば「海外出張に行くので、薬を多めに欲しい」などと相談されれば、チームの薬剤師につなげ、出先での服薬に不便がないようにします。また、管理栄養士も移植チームの一員で、患者さんへの栄養指導を定期的に継続して行っています。
他科との連携は非常にスムーズで、腎臓内科はもちろんのこと、小児科や精神科など、さまざまな科と頻繁に交流し、合同カンファレンスを行うなどしています。
また、他科には私たち腎臓外科の「移植で患者さんを元気にしたい」という思いを、客観的に判断してもらっています。腎臓内科はドナーの状態を臓器提供して問題がないかどうか評価してくれますし、精神科はドナーの意思を再確認してくれます。ちなみに当院は必ず2名の精神科医がドナー面接を行っています。他施設では1名での診察が通常ですが、当院は診察ではなく面接という形で2名の精神科医がドナーに意思決定の過程などを聞き取り、評価しています。
移植前の検査でも多くの科と連携することになります。当院には他科の検査を手配するシステムがありますので、検査予約も非常にスムーズです。
私たちがドナーとレシピエントに行っている事前検査は20項目近くあり、外来を4〜5回受診して各科で検査を受けてもらうことになります。遠方の方には地元の医療機関による検査結果をご持参いただくこともありますが、年齢や既往症によっては検査が追加となることもあります。検査は主に悪性腫瘍と活動性の感染症を除外するためで、移植施設によって検査項目数は違いますが、私たちはかなり詳しく検査していますので、手術までに早い方で2〜3か月、仕事や家庭の事情などでゆっくり準備する方は半年〜1年ほどかかります。
【移植前の検査一覧】
・採血 → 腎機能、感染症、腫瘍マーカー、凝固異常など
・採尿 → 腎機能を評価
・検便 → 腸疾患の有無
・HLA検査 → 白血球の血液型
・リンパ球クロスマッチテスト → ドナーのリンパ球とレシピエントの血清の反応
・胸部レントゲン、心電図、肺機能、心臓エコー → 全身麻酔のため心肺機能を確認
・消化管内視鏡(上部・下部) → 潰瘍や悪性疾患の有無
・造影CT、腹部エコー → 悪性腫瘍など内臓の器質的異常の有無、手術部位の血管について
・頸部動脈エコー → 頸動脈の確認
・マンモグラフィー、乳腺エコー、婦人科検診(20歳以上の女性) → 悪性腫瘍の有無
・腎シンチグラム(ドナーのみ) → 総腎機能および左右の腎機能比を評価
・腎臓内科受診(ドナーのみ) → 腎機能を総合的に評価
腎移植はこうした事前準備に問題がなく、手術をすればうまくいって当たり前の時代になりました。もはや実験的な医療ではありません。
私は医師になってちょうど20年ですが、この間に腎移植は大きく変わりました。症例数は増え、移植腎の生着率は年を追うごとに改善しています。手術のテクニックは確実で侵襲の少ないものになり、たとえばドナー手術は私が医師になった頃は開腹手術でしたが、現在は腹腔鏡手術が99%近くで、入院期間も5日ほどで済むようになりました。レシピエントの手術も侵襲の少ない術式が一般的になり、術後8〜9日で退院しています。
腎移植は「何だか得体の知れない医療だ」といった誤解が解ければ、もっと増えるのではないかと考えています。
そのために取り組んでいることが2つあります。ひとつは情報共有です。腎移植を行うにはまず保存期腎不全を診ている医療機関や透析施設からの紹介が必要ですから、私は赴任間もない頃、そうした施設にあいさつに伺い、県内のCKD(慢性腎臓病)の傾向などの情報を共有するようにしました。
もうひとつは地域医療機関への対応です。地域の医療機関からの依頼は、本当に簡単な相談から手術見学まで何でも対応していきたいと考えています。腎移植の実際を知らないと、患者さんに選択肢を説明するときに腎移植については躊躇してしまうと思うんです。ですから実際に移植手術を見学してもらい、術後管理を一緒に行うなどして、術後の回復ぶりも見てもらっています。
腎移植のメリットは、生命予後の劇的な改善にあります。
私がかつて診ていた女の子は1歳で腎不全となり、お父さんの腎臓を移植したのですが6歳で拒絶反応から移植腎が機能しなくなり、透析を開始しました。ただ、その2年後に幸いにも献腎移植を受けることができました。
その子の成長曲線は腎臓の状態によって大きく違っていました。移植腎が生着しているときは身長が伸びているものの、腎不全で透析となった瞬間から急に伸びなくなってしまっていたのです。それが2回目の移植を受けたらまたぐぐっと身長が伸び始めました。
現在この子は思春期になりましたが、ほぼ平均的な身長で元気に過ごしています。
こうした例を診ていると、腎移植のチャンスがもっと増えるといいな、特に子どもは、と思いますね。
日本の腎移植は海外と比べてもトップレベルの成績を誇っています。背景に国民皆保険があることは間違いありませんが、チーム医療や連携システムによって移植後のケアが手厚く行われていることも大きな理由でしょう。そして何よりも移植に携わる医療従事者一人ひとりが心を込めて、「患者さんの全体像」を診ているからだと私は思っています。
これからも「移植を受けてよかった」という患者さんを増やしていきたいですね。
レシピエント移植コーディネーター/看護師
横塚 幸代 さん
認定レシピエント移植コーディネーターとして、腎移植に携わって10年になりました。
患者さんとはほぼ一生のお付き合いになりますね。若いレシピエントであれば就学・就労など人生の節目にも関わりますし、特に女性は妊娠・出産を念頭に腎移植を受ける方が多いので、日々の服薬や食生活などについて気軽に相談していただけるよう努めています。
生体腎移植の場合、精神科医との面談を経てドナーが臓器提供の意志を変えるようなことはまずありませんが、再面談となったケースを10年で2例、経験しました。ドナーの揺れ動く気持ちに寄り添うのも私たちの大切な仕事です。いつでも本音を話していただけるよう、関係性を築いていくことを心がけています。
このたびのコロナ禍で、患者さんから「病院に行って大丈夫でしょうか?」といった問い合わせが何件かありました。そうしたときは入院と外来はエリアが完全に分かれていることなど、感染対策を徹底していることをお伝えしています。外来と入院は出入口が別で、接点になる場所はまったくありません。職員の専用通用口も別にしています。こうした対策についてご説明すると安心していただけるようで、患者さんは通常通り通院しておられます。
現在、日本で年間に行われる腎移植2,000例のうち、献腎移植は1割に過ぎず、9割は生体腎移植です。医療関係者の中には、生体腎移植で健康な人の身体に傷を付けることに賛同できない方もいらっしゃることでしょう。ですが、ぜひ移植とはどのようなものなのかを実際に見学していただけたらと思います。なぜ移植手術を望む患者さんがいるのか、そして術後はどうなるのか、その実際を体感してほしいのです。
レシピエント移植コーディネーター/看護師
篠﨑 弘美 さん
2020年4月に泌尿器科から現部署に配属されました。現在は移植について自己研鑽を重ねつつ、移植相談外来の初診から術後の外来通院まですべてのプロセスの患者さんに関わっています。
患者さんに接するときはその方の本心を汲み取れるよう努めています。たとえばドナーが「私の腎臓を提供したい」「自分が若いうちに、腎不全の子どもに腎臓をあげたい」等と希望されたときは、さらに詳しくお聞きするようにしています。具体的には、移植を受けた後レシピエントにはどうなってほしいのか、腎臓を提供した後の自分の身体や生活についてイメージができているのか、移植した腎臓が生涯生着し機能する保証はないことなど、すべて理解した上で提供しようとしているのか等ですね。レシピエントには、移植を受けることに対しての思いや、移植後の自己管理を含めた生活をイメージできているかなどをお聞きします。そこで、少しでも不安やわだかまりがあれば、その思いを表出できるようお手伝いしたいと思っています。
移植コーディネーターはさまざまな職種と連携して、ドナーとレシピエントに密に接していかねばなりません。病気だけに着目することなく、ドナーとレシピエントのお二人ともが社会に戻ってその人らしく過ごせるようにお手伝いしていきたいと思っています。
移植コーディネーターは自分自身も成長させてくれる、やりがいのある仕事だと思っています。
(2020年11月取材)
〈取材・編集:ライフサイエンス出版株式会社〉
※所属・役職は2020年11月時点の情報です。
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