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そこが知りたい、移植医療の今 ~患者さんに寄り添うチーム医療

治療の選択肢として、移植医療は目覚ましい進展を続けています。
手術手技の向上や薬の開発のみならず、専門スタッフの自己研鑚に基づいたチーム医療は
治療成績に大きく貢献しました。
その最前線をレポートします。

患者さんの「未来」に寄り添う腎移植
-きめこまやかなチーム医療と地域連携で、患者さんの笑顔を支えたい

Interview
愛知医科大学病院 (愛知県長久手市)
腎移植外科 教授/部長
小林  孝彰 先生

【プロフィール】
こばやし たかあき:1985年に名古屋大学医学部医学科を卒業し、アメリカ留学などを経て2015年より現職。ほかに日本移植学会理事、日本組織適合性学会理事、日本臨床腎移植学会評議員、日本臓器保存生物医学会評議員、日本異種移植研究会世話人、国際異種移植学会会長なども歴任。

年間20〜30例の生体腎移植を行っている愛知医大腎移植外科。所属スタッフは外科医や泌尿器科医、移植コーディネーターら、さまざまな領域から集まった専門家たちだ。年々増え続ける移植患者の長期ケアを丁寧に行っており、カンファレンスはそれぞれの意見で「熱く」なることも。そんなスタッフ全員の根底にあるのは「腎移植は前向きな医療である」と、誇りを持って活動していることだ。詳しく取材した。

腎移植に思うこと

日本の腎移植は生体移植が多くを占めていますが、生体ドナーは大きな覚悟を持って臓器を提供しています。それでも、術後に麻酔から覚めたドナーがまず口にするのは「レシピエントはどうですか?」、なんですよ。私たちが「大丈夫です。尿がしっかり出ていますよ」と答えると、涙を流して喜んでくれます。
そして腎移植を受けた患者さんが元気になって喜んでいる姿を目にすると、私たちのほうが元気をもらえるような気がするんですよ。

生体ドナー:臓器の提供を希望、もしくは提供した人。日本では原則として6親等以内の血族と3親等以内の姻族、事実婚のパートナーなどに限定されている。 
**レシピエント:臓器移植を希望する人、臓器移植を受ける・受けた人。

愛知医大の腎移植の実績は

当科は年間20〜30件の生体腎移植を行っており、累計298例に上ります。さらに献腎移植(累計4例)を加えると、開講以来約10年間の腎移植総数は302例です(2024年12月取材時)。
日本では腎不全になると90%以上の患者さんが血液透析を選択しますが、当科で行っている腎移植の半数は先行的腎移植です。
腎不全の患者さんを最初に診るのは腎臓内科なので、腎移植は腎臓内科医からの紹介がなければ始まりません。しかし残念ながら紹介してくれる医師は限られているのが現状です。
また、移植後の患者さんの日常診療を引き受けてくれる医療機関が少ないことも課題です。移植腎の機能が低下してしまうのは拒絶反応や原疾患の再発だけでなく、高血圧や肥満、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病が原因になることも多いんです。ですから患者さんの地元の医療機関で生活習慣病を管理してもらい、当科では免疫抑制など移植に関わる問題を診察する「交互診療体制」が理想的だと考えています。そうすれば患者さんは年に1回か2回、当院に来るだけで済むようになります。このような診療体制に協力してくれる拠点病院がすでに数か所ありますので、他の地域でも可能だと考えています。

先行的腎移植:末期腎不全となった際、透析療法を経ずに行う腎移植。

長期成績は「高止まりで維持」

腎移植の成績は1年生存率が98.5%、5年生存率が96.6%と非常に高い水準です(生体移植で計算)。薬や管理方法の進歩によって大きく向上した長期成績は、2000年代から高止まりで維持できています。
当科の特徴のひとつでもありますが、免疫抑制療法の管理を徹底していることも成績向上に寄与していると思います。入院中と外来で採血を5回ほど行い、TDM(therapeutic drug monitoring:薬物血中濃度モニタリング)でしっかり確認します。また、AUC(area under the blood concentration time curve:血中濃度-時間曲線下面積)を測定し、個別に免疫抑制剤の量を細かく調整しています。そして患者さんにもこれらのデータを見せながら説明しています。そうすると薬の重要性を実感してもらえますから、当科の患者さんはノンアドヒアランスが極めて少ないんですよ。
また、保険適用前から、移植後の患者さんのHLA抗体を年に1回モニタリングしています。抗体ができると、高い確率で慢性拒絶反応があるからです。それをいち早く見つけて治療しないといけない。腎機能が悪化してからでは遅いんです。そのためHLA抗体ができたり、変化があった患者さんには積極的に腎生検を行っています。このサブクリニカルリジェクション(無症状ながら病理的には拒絶反応が見られる状態)を見つけて治療を行うことも、成績向上の理由のひとつだと考えています。

チーム医療がもたらすもの

そして高水準の移植成績を維持できているのは、チーム医療の貢献が大きいですね。腎移植には医師や移植コーディネーターだけでなく、事務職員、薬剤師、栄養士など、さまざまな職種が関わっています。特に薬剤師の役割は重要で、最近ではリハビリの専門家も加わり、多様な分野が協働しています。
他科も非常に協力的ですよ。移植手術を行うために手術枠の確保は比較的容易ですし、ICUや感染症科なども熱心に対応してくれます。検査も迅速で、必要であれば1日ですべて終わらせることも可能なんです。
院内の連携が非常にスムーズな理由は、病院全体が移植に対して深い理解があるからだと感じています。

異種移植の未来

日本では生体ドナーが見つからなければ、献腎移植まで約15年も待たねばなりません。そのような中、動物の臓器を使う異種移植は「希望の星」と言っていいのではないでしょうか。もちろんベストな方法は再生医療で臓器を作れるようになることですが、まだ細胞組織にとどまっている段階です。
一方、遺伝子組み換えブタの臓器に関する研究は非常に進展しています。ゲノム編集技術CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)や洗練された免疫抑制療法などによって、霊長類の移植成績は向上しており、アメリカと中国ではヒトへの臨床も始まりました。
ただ、現状では異種移植は緊急避難的な処置(compassionate use)として行われています。つまり他に治療法がない場合に限られるのです。2025年1月現在、4例の腎移植、2例の心移植が行われ、2か月生存したとの結果も出ていますが、いずれCliniical Trial(治験:医薬品、医療機器、再生医療等製品の承認申請のための効果、副作用などのデータを集める臨床試験)を行い、年単位を目指さなければなりません。そうすれば腎代替療法の新たな選択肢となる可能性もあるでしょう。

腎移植を頭の片隅に……

海外では、若い人が血液透析を始めると「どうして腎移植をしないの?」と聞かれます。一方、日本では透析を受けている人は身近にいても、腎移植を受けた人はなかなか見当たりませんよね。
腎移植について皆さんにもっと知っていただきたいと切望しています。現在は治療成績が非常にいいことを、ぜひ頭の片隅に置いていただければと思います。

移植チームのスタッフから

腎移植をもっと知って欲しい

准教授(特任)
石山 宏平 先生

海外と比較して

日本の献腎移植は実施数において海外に大きく遅れをとってはいますが、それはドナー数の問題であって、移植管理については日本はトップクラスです。
生体ドナーに依存している状況は、保険や一般教育システムなど施策の問題なので、難しい課題ですね。
私も以前は「命の教室」と題して、移植を受けたレシピエントの方と、移植医療の現状などについて講演していました。参加者の反応は「家族で話し合ってみます」、「命のリレーを知ることができた」と、とてもポジティブでしたよ。これからも現場にいる限り発信し続けたいと思っています。

腎移植の魅力とは

私は移植手術だけでなく、退院後の長期のケアにも関わっていますが、移植の魅力は「元気になれない人が元気になれること」にあると感じています。
医療者がどんなに奮闘しても、助けられない病気はあります。しかし腎移植は、ほとんどの患者さんが私たちの奮闘に応えて元気になってくれるんです。大変やりがいがありますね。

数値に出ない結果は会話から

腎移植は、少量の飲酒も旅行も楽しめる健康な人とほぼ変わらない生活を送ることができます。
ですから診察室では「数値に出てこない“精神的な幸福度”」について、必ず聞くようにしています。たとえば旅行できているか、宿泊時に困ったことはないか、スポーツや趣味はできているか、苦労はないか等々ですね。そこで「ドナーと旅行してきました!」などと聞くと、もう本当に嬉しいんですよ。

円滑な連携に必要なのは……

院内他科である腎臓内科や糖尿病内科などとの連携は、非常によくできていると思います。「働き方改革」で主治医制でなくチーム制であることも功を奏しているようです。
私が円滑なチーム医療のために心がけているのは「自己主張に気を付け、協調性を心がけること」です。それから細かいことでも報告し、勝手な判断はしない。スタッフには「こういうことがあったのですが、これでいいですか」と細かく確認しています。円滑な連携に必要なのはコミュニケーションですから。
今は電子カルテのメッセージ機能ですべて済ませることもできますが、顔を見て一言声をかけるのは大切ですね。たとえばカルテ上で親しくなった他科の医師がいたら、院内で名札を見て挨拶をするようにしています。

優秀な技術を誇る日本の移植

私は基本的に「移植ありき」という考え方ではないんです。原疾患を治せたり、人工臓器や異種移植で代替できれば、それが一番いいと思っています。
しかし現状では、腎移植という手段を選ばないといけない患者さんがいるわけです。ですから私はそういう方々に医療を安全に提供するために、移植技術のトレーニングを受けた立場から貢献しなければと思っています。
医療技術は国際的に見て日本が劣っているとは思えません。腎移植後の長期管理も手厚く成績も優秀ですしね。ですから移植についてもっと世間に知って欲しいんです。

前向きな医療「腎移植」

准教授(特任)
安次嶺  聡 先生

一見してすぐわかる元気な様子

私は臨床実習で移植医療に触れたとき、とても前向きな医療であると感じて移植外科医を志しました。実際、ほとんどの患者さんが移植後にとても元気になるんですよ。それはもうデータや理屈でなく、一見してわかる元気さです。表情や佇まい、コメントもポジティブなものになって、いきいきとした様子が伝わってきます。

泌尿器科医として

私たち愛知医大の腎移植外科は外科のチームですが、私は泌尿器科医として所属しています。ですから外科単独のチームでは難しいケースに貢献できたときは、やりがいを感じますね。たとえば、移植後に尿路感染を繰り返したり、尿管の通りが悪かったりすると移植腎機能が低下する恐れがありますが、泌尿器科的アプローチでよい結果が得られたときなどです。
このように多職種でチーム医療が実践できているため、さまざまな状況に対応し得る態勢にあると思います。

チームの信頼関係が長期成績に貢献?

チームは、カンファレンスなどを通してすべての移植患者の情報を共有しています。そうすることで一人よがりの医療ではなくなります。また、カンファレンスではどんなに議論が白熱しても、冷静な判断をするスタッフがいてくれる。たとえば私はチーム内でシリアスになりすぎないようにしていますが、それでも熱くなってしまったときは、クールダウンしてくれる仲間がいます。スタッフがお互いに考えていることを何でも言い合えるのは、信頼関係ができているからだと思います。

アメリカと日本の移植医療を比べると

アメリカへ留学していたとき目の当たりにしたのは、日本とは比べ物にならないほど移植数が多かったことです。腎移植がごく一般的な医療として日常的に行われており、私の留学先では年間約350 例の腎移植が行われていました。そのうち生体腎移植が150 例ほどで、献腎移植のほうが多かったんです。生体腎移植では、親兄弟以外がドナーとなることもありました。さらに、生涯で3~4 回腎移植を受けているケースもありました。残念ながら日本は同じ状況にはありません。

移植を特別視しないで……

移植医療について幅広い方に知って欲しいですね。メリット、デメリットも含めて。私は、自分が移植医だから「移植はいいです」とことさら強調するつもりはまったくありません。ですが、あくまでも腎代替療法のひとつとして適切に提示したいと考えています。そもそも移植には、なんとなく特殊なイメージがつきまとっているように感じています。
移植外科医は、手術後は血圧や血糖値を管理したり、感染症などに対応したりして、総合内科医のように患者さんに関わります。その中に免疫抑制剤が含まれるだけですので、あまり特別視しないでいただけたらと思います。
これからも日本で移植医療が正しく世の中に認識されていくよう、できることをしていきたいですね。

腎移植をもっと身近な存在に

医師
雫  真人 先生

腎移植の研究も

腎移植では朝夕の回診、手術、外来と幅広く関わりつつ、研究にも力を入れています。
移植領域は研究対象の幅が免疫から異種移植まで、非常に幅広いんです。海外では新薬の臨床応用への研究が進んでいますし、拒絶反応をいかに克服するか、そもそも起こさないようにするにはどうしたらいいのか、研究する余地がたくさんあるんです。

消化器外科との違い

私はかつて消化器外科に所属していたこともありますが、実際に腎移植に関わってみて、消化器外科とはだいぶ違うと感じています。もちろん、がんの手術もやりがいはありましたが、腎移植で手術中に尿が出た瞬間は外科医としてとても達成感があります。患者さんもすぐ元気になってくれますし。そして移植外科は手技だけでなく、外来で内科的な管理も同時進行する必要があります。

他院との連携を深めたい

移植は医療業界でなじみのない分野のままなのだと、痛感することがよくあります。腎移植後の患者さんが風邪をひいて地元の病院に行ったら、「移植患者は診られないと断られてしまった」とはよく聞く話です。一般的な内科診療と変わりませんので、ぜひ近くの病院でも診てあげて欲しいんです。もちろん免疫学的な問題が起これば私たちが対応しますが、患者さんが近医を受診した場合でも、どう対応したらいいか気軽に聞いていただければお伝えすることも可能です。いずれオンラインツールで連携していくことも必要でしょう。医療者にとって移植がもっと身近な存在になるように努力したいと思います。

チーム医療で心がけていること

チーム医療は非常によく機能していると思います。特に移植コーディネーターは、患者さんの名前を見たらすぐ「どこに住んでいて何の仕事をしている」とわかるほど把握しているので、心強い存在ですね。
チーム医療において私が心がけているのは、他のスタッフとお互いにストレスなく、嫌な気持ちで一日を終えないようにすることです。スタッフに「こうして欲しい」と思ったときは、それがクレームに聞こえないよう言葉を選んでいます。

後進に向けて

今、外科は若い医師に人気がないと言われていますが、中でも移植外科はさらに馴染みのない領域かと思います。それは触れる機会が圧倒的に少ないためでしょう。市中病院で移植を手がけているところはあまりないですから。若手医師が移植医療に触れないまま卒後10年くらい経ってしまうと、そこから新たに移植に携わろうとは考えにくいと思います。それが5年目くらいまでで触れていれば、進路の選択肢に入る可能性もあるのではないでしょうか。
これからも若手医師のリクルートに力を入れたいですね。移植領域は手術以外に、術後管理として一般的な内科に近い技術も学ぶことができます。さらに基礎研究もできますので、ぜひ一緒に仕事ができたらと思っています。

研究も臨床も全力で

医師
河田  賢 先生

ちょっとした変化を見逃さない

移植免疫の研究に興味があり、長崎から国内留学中です。もちろん研究だけでなく、移植手術から周術期の管理、術後の外来まで移植医療全般に関わっています。
臨床で心がけているのは「患者さんのちょっとした変化を見逃さないこと」です。私は若手と呼ばれる年代でもありますので、どんなささいな情報でも移植腎や免疫に影響があるのかないのかを判断する材料にしたいんです。
そのために定期的な外来診察では、まず診察前にカルテを見て前回の診療内容はもちろん、詳細な日時、会話の内容などを確認し、患者さんには「前回の受診から今までの間で、何かお変わりはないですか?」と聞いています。「お変わりないですか?」だけですと、皆さん「変わりありません」と言うことが多いのですが、「ここ1か月で」などと期間を区切ると、「ああ、そういえば新しく整形外科にかかり始めました」などと思い出してくれるんですね。さらに加えて「どんなに小さなことでもいいので教えてください」と伝えると、「抜歯をして、食事をこう変えました」などと具体的に教えてくれます。こうした情報を把握することで、検査結果の解釈や治療方針に役立てています。また、患者さんの性格や生活習慣、こだわりなどに合わせて説明の仕方を工夫するようにしています。

患者さんの言葉

腎移植の一番の魅力は、透析から離脱し、健康な人に近い生活を送れることです。ある患者さんから退院するときに「移植してよかった。普段通りに生活できるようになりました」と言ってもらえたときは嬉しかったですね。
医療関係者、そして一般の方々に知っていただきたいのは、腎不全にはこうした腎移植という治療選択肢があること、そして移植後は健康な方に近い日常生活を送れることです。
ぜひ実際に腎移植を受けた患者さんの話を聞いてみて欲しいと思います。

チーム医療の力を発揮

どの医療現場でもそうだと思いますが、特に移植医療はチームの力が大いに発揮される場なんです。当科の在籍スタッフは毎日顔を合わせて密に連絡取り合っていますが、その上でカンファレンスを頻繁に行い、その都度全員で情報を共有しています。また、腎臓内科医や精神科医、公認心理師など他科のスタッフとも連携し、移植前カンファ、病理カンファ、リエゾンカンファなどが定期的に開催されています。
患者さんが移植を終えて退院するときは必ず、「困ったことがあれば、何でも連絡してください」と伝えています。腎移植とは一見関係なさそうな訴えがあれば、必ず専門医に診察を仰ぎ、他科に治療や検査で入院した際は私も担当医として関わり、回診して状態を確認しています。

待機患者を減らしたい

腎移植を受けた患者さんが通院を負担に感じないよう、日本全国に移植を管理できる施設と人材が増えていくことを期待しています。同時に、腎不全の患者さんのチャンスを広げるために移植への理解が進み、献腎移植も増えていくことも願っています。
また移植に関する研究がさらに進み、代替の治療法開発に携わることができればと思っています。たとえば異種移植の研究において当科教授は日本の第一人者です。海外では遺伝子改変されたブタを用いた動物実験が積極的に行われており、実際にヒトに移植された例もあります。しかし日本では法制度や研究体制が海外に及んでいません。何年先になるかわかりませんが、異種移植を含めて新たな腎代替療法が展開され、待機する患者さんが減ればと考えています。

対話を重ねて理解を促す

レシピエント移植コーディネーター/慢性腎臓病療養指導看護師
渡邉 恵  さん

さまざまな移植の相談、共通しているのは

当科が立ち上がった2012年から移植コーディネーターとして、患者さんやドナー候補の相談を受けています。
意外かもしれませんが、初めて当科を訪れる患者さんは、移植を決意している方ばかりではありません。「移植について話だけ聞きたい」と言う方もいますし、移植か透析か悩んでいる方、ドナー候補を決めている方、ドナーが見つからない方、先行的腎移植を希望する方など、実にさまざまです。ただ、全員に共通しているのは「移植について具体的に知りたい」という一点です。来訪でなく電話による相談も受けていて、30分ほど話し込むこともあるんですよ。
コーディネーターも含め、移植関係の医療者は患者さんの心理面に深く関わりますので、通常の医療と比較して、患者さんとの距離が近いように感じることがあります。それは私にとってのやりがいでもあります。

納得して移植が受けられるように

患者さんが腎移植を希望し、ドナー候補も決まっている場合は、移植を進める前に別々に話を聞く機会を設けています。両者が同席していたら話しづらいことがあるかもしれませんので、慎重に確認するようにしています。
また、ドナー候補が移植に積極的でも、患者さんがそうではないこともあります。親から子どもに移植をするケースで多いですね。そんなときは話を深めつつ、患者さん本人が「移植をしたい」と積極的になれるまで待ちます。とりあえず透析に入ってもらうこともありますし、最終的に精神科医に診てもらうこともあります。なぜなら、患者さんがあまりにも受け身だった場合、移植がうまくいかなかったときに「自分は望んでいなかったんだ」と、その後のケアがスムーズに進まないことがあるからです。
ですから私たちコーディネーターは、たとえばドナー候補がこんな表情をしていた、レシピエントはこういう仕草だった等々、細やかに感じ取ることを心がけていて、医師や他職種にも自分が感じた患者さんの様子をその根拠も含めて共有しています。カンファレンスなども、お互いに意見を述べやすい雰囲気で開催されています。

“知らないがために”移植できないケースをなくしたい!

ある患者さんは80代の男性で、若い頃からずっと透析を受けていました。その配偶者の方から聞いた話が忘れられません。
そのご夫婦は地方に住んでいて、遠隔地にある透析施設に長く通い続けていました。実際に腎移植を受けた経験者の話を聞いた後、その配偶者の方からこう言われたんです。
「当時、通っていた病院では血液透析の説明しかなかったので、血液透析を選びました。でも年をとり車で透析に通うのがつらくなってきました。もう少し若い頃に夫婦間でもドナーになれると知っていたら、私が夫に提供できたのに。もう移植をするには年を取りすぎました」
そうして肩を落として帰られました。
移植医療については少しずつ一般に知られつつはあると思いますが、まだ地域格差があります。どの地域に住んでいる方でも、腎臓が悪くなった場合は腎移植の話も含めて説明を聞く機会があるといいなと思います。
私たちが相談を受ける中でも、「夫婦間では移植できないと思っていた」と言う方もいますし、血液型が違うとできないと思っていた方もいます。そうではないことを知って欲しいのです。
今でも「主治医に血液透析と言われたが、ここ(愛知医大)で腎移植をした人から勧められて来た」と言う患者さんが来院します。今後、私たち医療者は、必要な方には腎移植の話が聞ける体制を整えていく必要があると思います。

患者さんと長いお付き合いを

レシピエント 移植コーディネーター/腎代替療法専門指導士
長屋 さつき さん

コーディネーターの重要な役割とは

コーディネーターの認定を受けて1年少しですが、腎臓・リウマチ膠原病内科と腎移植外科病棟に所属して10年ほどになります。
当科は生体腎移植が圧倒的に多く、倫理的な面も含めてドナー、レシピエント双方の話を聞くのはコーディネーターの役割です。患者さんが置かれている環境や家族関係などについても把握します。
また移植医療は関わる職種が他科にも多く、腎臓内科医から精神科医、メディカルソーシャルワーカーや臨床工学士、透析センターの看護師まで、実にさまざまです。そうした専門家たちをまとめるのもコーディネーターの仕事です。それぞれ見解に相違があるときは、私たちコーディネーターが間に入って「こういうことが言いたいのではないでしょうか」等々、上手く伝えられるよう調整しています。

心がけている大切なこと

移植は「手術すれば終わり!」ではないんです。移植腎を長く保つためにも、私は移植後がスタートだと考えています。ですから患者さんには「困ったことがあれば何でも相談してください」とお伝えしています。
そして免疫抑制剤を怠薬してしまうことのないように、自己管理状況を確認し、患者さんの性格や生活環境などを見極めています。

やりがいは「幸せそうな患者さん」

当院は夫婦間移植が多いんですね。これから定年を迎えてようやく2人で旅行でも楽しもうというときに腎機能が悪化、透析は週3回通院しなければならない、時間もかかる、でも腎移植なら……。移植を受けた患者さんから「移植してよかった」、「残りの人生を楽しめている」、「やりたいことをやれる時間ができた」等と聞くと、本当によかったと思います。
中には20〜30代の患者さんもいるので、腎移植をしたことで仕事に復帰したり、結婚したり、新しい家族が増えたり、そんな人生が目の前に広がっている様子を見ると、こちらも嬉しくなります。
もちろん医療ですから100%うまくいくことはありません。ただそういう方が多くいることは、日々のやりがいにつながっています。

腎移植について知って欲しい

当科を訪れた患者さんに、腎移植が「絶対」だと勧めることはありません。患者さんにとって何が一番いいのかは、私たちが決められることではないですから。ただ、患者さんが腎移植について知らないがために、受けられなかったということは、あってはならないと思うんです。患者さんの中には「莫大な費用がかかる」、「アメリカに行かないとできない」などと思い込んでいる方もいましたから。
患者さんもぜひ主治医に「移植について話を聞きたい」と訴えて欲しいですし、移植実施施設でお話だけでも聞いて欲しいんです。どんな医療かを知ってもらえればと思います。
そして心身ともに元気なときに、家族と自分の思いを伝え合う人生会議(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)をして欲しいんです。将来の変化に備え、医療やケアについて意思表示をしておくこと、そして同時に臓器提供について考えることも大切ですから。

(2024年12月取材/被取材者兼監修者の所属と肩書は取材時のものです)
〈取材・編集:ライフサイエンス出版株式会社〉 


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