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メディカルアフェアーズ情報

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そこが知りたい、移植医療の今 ~患者さんに寄り添うチーム医療

治療の選択肢として、移植医療は目覚ましい進展を続けています。
手術手技の向上や薬の開発のみならず、専門スタッフの自己研鑽に基づいたチーム医療は
治療成績に大きく貢献しました。
その最前線をレポートします。

ひとりでも多くの腎不全患者を救いたい
ー患者さんの人生に伴走する多職種チームが支える腎移植 

Interview
熊本赤十字病院 移植医療支援室(熊本県熊本市)
第一外科副部長 山永成美 先生

【プロフィール】
やまなが しげよし:2005年に熊本大学医学部を卒業し、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院 移植外科、カリフォルニア大学サンフランシスコ校 移植外科などを経て、2018年より現職。日本移植学会代議員、日本臨床腎移植学会評議員など移植関連学会で要職を兼任する。

日本赤十字社発祥の地と言われる熊本県。熊本赤十字病院は市中病院、救急病院としてだけでなく、国際救援事業の基地としての役割も担っている。そのため、どの科のスタッフにも「助け合う精神」が浸透しており、科や職種を超えた連携が非常にスムーズだという。移植医療支援室のメンバーも内科や外科、産婦人科など複数科のスタッフが所属しており、意見交換と情報共有を盛んに行っている。移植手術だけではない、多角的なケアで腎不全患者を支える腎移植について、同メンバーに話を聞いた。

内科医から始まった腎移植

当院の腎移植は、内科医が「腎移植を実施したい」と外科医をリクルートして始まりました。全国的にも珍しい施設だと思います。
当初はまだ「臓器移植ネットワーク」も存在せず、臓器提供の仕組みも整っていない移植医療の黎明期でした。そのようなときに当院に腎センターが開設されたことは、腎移植導入に向かう大きなきっかけとなりました。内科医が数多くの腎不全患者を診るようになり、「腎移植を含めたすべての腎代替療法を行いたい」と、外科に働きかけたのです。それに応えた外科が内科とタッグを組み、1988年に腎移植がスタートしました。
これまでの累積症例は384例に上り、現在は年間20〜30例の腎移植を手がけています(取材当時)。

多職種チームできめ細かくフォロー

われわれ移植医療支援室*のメンバーはそれぞれの所属が別にありながら、診療科や職種の垣根を超えたコミュニケーションを盛んに行っています。たとえば私も第一外科所属ではありますが、移植医療支援室の一員でもあるわけです。
(*移植医療支援室:熊本赤十字病院では臓器移植及び臓器提供の双方に対し支援を行っている)
多くの患者さんは内科と外科両方で診ていますので、何か問題が起こっても双方の視点によって看過されることなく、早めの介入ができています。なお当院は移植後の合併症管理を総合内科で行っていますが、それは内科医が全員、腎移植患者を診るトレーニングを受けているからです。
術前には臨床心理士も関わり、レシピエントとドナーの移植への思いなどを傾聴してチームで情報共有しています。ですから移植医療支援室のメンバーの頭の中には、すべての患者さんの家族構成や社会的背景に関するおおよその情報が入っているんですよ。その情報に沿ったきめ細やかなフォローアップができているのは、このチームの強みだと思います。

実は色白だった患者さん

移植手術では、ドナーから提供された腎臓をレシピエントに移植して血流再開すると、白かった腎臓がパーッとピンク色に変わるんです。そして初尿が出る瞬間はいつ見ても感動します。まさに命のリレーだと感じるんです。
ある患者さんは41年も透析を受けていて、顔色がくすんで土気色になっていました。腎移植を受けて元気になり、外来で会うたびに顔色がどんどん明るいピンク色になっていったんです。実は色白だったこともわかりました。この方は私たちに「移植の啓発活動を一緒にやっていきたい」とまで言ってくれたんですよ。嬉しかったですね。

アメリカとの比較に思う

私がアメリカで働いていたときに驚いたのは、移植が広く一般に受け入れられていたことです。みんな非常にカジュアルに「腎臓が悪くなったら移植。透析はそのブリッジのため」だと捉えていたんですね。
たとえば運転免許センターでは必ず、臓器提供をするか否かが免許証に印刷されますし、プロ野球やプロバスケットボールチームが移植に関するプロモーションを盛んに行うなど、移植医療自体が日常的に浸透していることを強く感じました。
一方、日本の腎移植は献腎移植の待機期間が成人で約15年と、とても長い現状にあります(2020年 日本臓器移植ネットワーク)。生体腎移植の治療成績も優れていますが、移植の本質はやはり臓器提供によるものです。ですから普及啓発は私のライフワークでもあります。

地域ぐるみで普及啓発を!

2022年は臓器移植法施行25周年に合わせ、さまざまな啓発事業を展開しました。県民・市民公開講座や、熊本県のPRマスコット「くまモン」と一緒にイベントを行ったり、医療者に向けた教育などを行ったのです。公開講座は好評で例年500名から800名近い方がオンラインで視聴登録してくれるんですよ。
また、当院は厚生労働省による「臓器提供施設連携体制構築事業」にも選ばれており、県内の施設に生理検査技師や看護師を派遣するなどして臓器提供を支援しています。こうしたお互いに助け合うモデルが少しずつ広がり、実際に臓器提供が増えてきたことを実感しています。
また、臓器移植ネットワーク主導の「全国GREEN LIGHT-UP Project」は、さまざまなランドマークを移植医療のシンボルカラーである緑色にライトアップするイベントですが、2022年はさまざまな企業が続々と協賛してくれて、熊本城をはじめ各医療機関や一般企業、飲食店など20か所で行いました。

後進の育成で人脈を全国に

今後は移植医療の裾野を広げるために移植外科医と、移植医療に関わる内科医をたくさん育てていきたいですね。
私たちは国内留学を推奨しており、当院での研修が終了した卒業生たちは、全国あるいは海外の移植施設で武者修行をしています。九州だけでなく東海地域や関西、関東の移植外科に請われて行った後進もいます。すると彼らがさまざまな情報や人脈を広げて私たちを助けてくれますので、とても助かっています。
現在、各地で人材が足りず移植施設の継続が難しいとの話を耳にしますが、私たちは長い目で見て移植医療が持続可能な環境にしていきたいと考えています。

移植チームのスタッフから

小さな傷で腎摘を行うために

副院長/第一産婦人科部長/総合鏡視下手術センター長
荒金 太 先生

産婦人科医として

私は産婦人科医ですが、2007年から当院の腎移植に関わりました。現在は移植医療支援室の室長を務めています。
私が関わるようになったきっかけは、当院が小さな傷で腎臓を摘出する鏡視下手術を始めたことです。当時、病院側はレシピエントの「生体ドナーの傷を少しでも小さくしてあげたい」という思いを汲み、低侵襲で行う腎摘を検討していました。そこで鏡視下手術の経験が豊富だった産婦人科医の私に、白羽の矢が立ったのです。
私としても非常に名誉なことなので「手伝わせてください」と、当時の泌尿器科医らと一緒に生体ドナーの腎摘を行うようになりました。おそらく100例ほど関わったと思います。単に腎臓を摘出するだけでなく、生着率と機能をいかに保ってレシピエントに渡すかを心掛けてきました。
現在はインターネットで検索すればすぐ「○○病院は鏡視下手術だから傷が小さい」などと情報が出てきますので、それを調べて来院される患者さんもいます。

今後は産婦人科医も

産婦人科医が腎移植に関わるのは非常に珍しい……いや、いないのではないでしょうか。
移植学会で私が発表したときに座長の先生から「なぜ産婦人科医が?」と言われたことを覚えています。そのときは慶應大学が初めて子宮移植について発表した学会で、プログラムに載っていた産婦人科医は私を含めて2名しかいませんでした。子宮移植はまだ国内では計画段階ですが、海外ではすでに実施されて出産に至った例も報告されていますので、今後は産婦人科医も移植医療に関わる機会が増えていくのではないかと思います。

幾重にもクロスしたチーム医療

当院は腎移植チームと鏡視下手術チーム、手術室や泌尿器科チーム、ほか多職種らがクロスして腎移植に取り組んでいます。この協力体制は非常に頼もしいですよ。

ひとでりでも多くの患者さんを救いたい

何よりのやりがいは、移植を受けた患者さんから「透析を離脱できて元気になった」と聞くことです。
これからも移植医療支援室のスタッフをバックアップし、移植以外に助かる道のない患者さんをひとりでも多く救いたいですね。そのためには啓発活動も積極的に行っていきたいと考えています。

腎臓内科医として、移植の選択肢を

腎臓内科部長/腎センター長
豊田麻理子 先生

腎臓内科医としての思い

私は腎臓内科医として、透析を受けている患者さんをいつも診ていますから、その大変さがとてもよくわかります。
腎代替療法はその患者さんがもっとも望む方法であることが一番です。それが移植であれば最善策だと考えますが、透析継続を希望する方にとっても選択の過程で後悔がないようにと思います。
最近は透析導入前に先行的に行う腎移植が半数近くに上ります。若い患者さんもいますが、透析導入の平均年齢は約70歳ですので60代で移植の相談に来られる方が多いですね。私は高齢であるほど先行的腎移植を行ったほうが合併症も少なくていいと考えています。

経験値が積み重なっていく症例

ある50代の患者さんは夫婦間移植を希望していました。ですがレシピエントは糖尿病を合併しており、冠動脈や脚などさまざまな箇所で動脈硬化が進んでいたのです。ハイリスクケースですが、私も「合併症の進行を抑制するためにも移植したほうがいい」とはわかっていたので、早い段階で外科医と情報共有しながら一緒に診ていきました。最終的にその方は移植を受けて大変元気になり、仕事にも復帰されたんです。
ほかにも心筋梗塞でステントが入っていたり、動脈閉塞によって脚を切断している症例でも、腎移植をして予後がいい様子を目の当たりにしました。内科医として「(こういう状態の患者さんでも)移植できるんだ」という経験を積み重ねつつ、移植の選択肢を奪ってはいけないと改めて思っています。

ドナーのフォローを大切に

生体ドナーのフォローも大切にしていますので、術後の健康状態に問題がないか、毎年必ず受診していただいています。ただ、ドナーが遠方在住だったり高齢になったり、レシピエントが透析導入となって当院に通わなくなったりすると、フォローが途絶えやすいので気を付けています。そういう場合は地元のかかりつけ医に「何かあったらすぐ相談に乗りますので」と、日頃の管理をお願いしています。

移植医療が「当たり前」になるように

現在、当院に通っている腎不全患者は300名ほどですが、これから移植を受ける患者さんが増え、移植腎の生着率が向上していけば当然、移植施設だけで診ていくことは難しくなります。
当院の内科医は透析患者や腎移植患者も診られるよう指導していますので、そうしたトレーニングを受けた医師が全国に羽ばたいていき、移植医療を「当たり前」とする医療機関が増えていけばと思います。

長期生着を目指して

外科
日髙悠嗣 先生

多職種チームで多角的なケアを

最近は糖尿病性腎症から透析を経て移植を受ける方が多く、もともと心血管疾患を抱えているようなハイリスクケースも増えています。周術期の合併症によってせっかく移植した腎臓が機能しなくなってしまうこともありますので、細心の注意を払わねばなりません。当院の腎移植チームには内科医がいますから、私たち外科医が片手間にはできない術前術後の合併症管理に十分対応することができています。
またチームには臨床心理士もいて、メンタルケアが必要な患者さんにもすぐ対応できています。たとえば「職場の理解がない」などで、患者さんが精神的に落ち込んでしまうケースは意外とあるんですよ。

長期生着には、患者さんの生活を理解すること

移植腎の長期生着には、患者さんの生活環境の変化を把握することが大切です。患者さんは仕事を始めるとノンアドヒアランスに陥りやすいので、私は外来診察時に「もうすぐ大学卒業だね。就活しているの?」などと世間話をしながら確認するようにしています。

印象に残っている会話

透析と移植との大きな違いを実感したエピソードがあります。長く透析を受けた後に腎移植を受けた方から、「頭がとてもすっきりしました。脳内の霧が一気に晴れたようです」と言われたんです。似たようなことを複数の方から聞きました。
透析でも命はつなぎ留められるし生活もできるのですが、腎不全がよくなるわけではありません。ですが、移植をすると腎不全は急速に改善します。患者さんが「やってよかった」と実感できる医療を提供できることが僕のモチベーションとなっています。
これからも腎移植が腎代替療法の選択肢のひとつであることを、多くの方に知っていただけたらと思います。

患者さんの思いと葛藤に寄り添う

レシピエント移植コーディネーター/看護師
杉本美保 さん

コーディネーターとして「本音」を引き出す

私はコーディネーターとして、移植を希望する患者さんが初めて来院されたときから関わっています。最初の面談では患者さんもご家族も緊張されていますので、まずは話しやすい雰囲気を心掛け、患者さんが日常生活で大切にしていることなどを伺っていきます。特にドナー候補者は葛藤を抱えていることも少なくありませんので、本音を引き出すために一対一でお会いすることもあります。
私が得た情報を医師など他職種にも話しておいたほうがいい場合は、チームで情報共有して対応しています。

気になることはすぐ相談

当院の移植チームは気になることは何でもすぐ相談できます。
以前、小学校3年生で生体腎移植を受けた子が成人してから、「小さい子であっても自分の意思で移植を選択できるようにしてほしい」と言われたことがあります。それを小児科医に伝えると、その後は小児であっても医師や多職種でわかりやすく説明し、本人にも「どうしたいか」と投げかけるようになりました。

患者さんが泣き崩れた

長年透析をして、献腎移植を受けた60代の女性がいます。透析中はシャントの取り扱いにとても厳しい方で、私が担当した当初は「命綱の大切なシャントを、新人のアンタなんかには触らせないわよ!」と言われてしまったんです。それでもケアを続けていたある日、「今日はアンタが刺してもいいわよ」と言われ、手が震えたことを覚えています。
主治医から献腎移植の連絡があったとき、その方は「自分より若い子に譲ってあげたほうがいいのではないか」と泣き崩れてしまいました。レシピエントにも葛藤があるんです。その気持ちに寄り添って、何とか移植に向かう気持ちになってもらえたときはホッとしました。
移植して元気になるとその方は「今は感謝しかない。あなたにも厳しくして悪かったわね」と言ってくれました。移植は人の気持ちも優しく変えてくれる、すごい医療だと改めて思いました。

地域連携で顔の見える関係を!

これからは腎不全を診ている各施設のスタッフと、顔が見える関係づくりをしていきたいですね。施設同士で気軽に移植について相談することができれば、救われる患者さんも増えていくのではないでしょうか。

(2022年9月取材)
〈取材・編集:ライフサイエンス出版株式会社〉
 ※所属・役職は2022年9月時点の情報です。


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