東海地方の移植拠点病院として、年間20〜25件の肝移植を行う名古屋大学医学部附属病院。累積症例数の約3分の1が小児生体肝移植、約3分の2が成人症例である。目覚ましい回復とともに成長していく小児患者や、社会復帰を果たしていく成人患者の力強い姿は、肝移植チームの大きなやりがいにつながっている。多職種チームがライフステージに応じて生活管理やメンタルケアを行い、QOLと治療成績の向上を図る中、移植を受けた子から「医療従事者になりたい」と言われることもあるそうだ。教授とスタッフに話を聞いた
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治療の選択肢として、移植医療は目覚ましい進展を続けています。
手術手技の向上や薬の開発のみならず、専門スタッフの自己研鑽に基づいたチーム医療は
治療成績に大きく貢献しました。
その最前線をレポートします。
Interview
名古屋大学医学部附属病院 移植外科 (愛知県名古屋市)
病院教授/診療科長 小倉靖弘 先生
【プロフィール】
おぐら やすひろ:1991年に京都大学医学部を卒業し、京都大学医学部附属病院、米国Stanford大学、神戸市立中央病院(当時)勤務等を経て、2012年に現病院の診療科長となり、2017年より病院教授に就任。ほかに日本外科学会や日本移植学会など多数の学会で要職を兼任している。
東海地方の移植拠点病院として、年間20〜25件の肝移植を行う名古屋大学医学部附属病院。累積症例数の約3分の1が小児生体肝移植、約3分の2が成人症例である。目覚ましい回復とともに成長していく小児患者や、社会復帰を果たしていく成人患者の力強い姿は、肝移植チームの大きなやりがいにつながっている。多職種チームがライフステージに応じて生活管理やメンタルケアを行い、QOLと治療成績の向上を図る中、移植を受けた子から「医療従事者になりたい」と言われることもあるそうだ。教授とスタッフに話を聞いた
名古屋大学の肝移植は1998年に始まり、累計で377例(うち脳死70例)となりました(〜2022年9月27日)。現在も東海地域の拠点病院として年間20〜25件の肝移植を手掛け、移植のアクティビティーとしては全国5位以内に入っています。2022年8月には東海北陸地域初となる肝腎同時移植を実施しました。
移植成績は5年生存率が89.4%、10年生存率が86.5%(2012年8月〜)で、それ以前に比べ向上し続けています。
肝移植は、末期状態の患者さんがみるみる回復して社会復帰を果たすドラスティックな医療です。ただ、中には何かしらのトラブルを乗り越えなければならないケースもあります。
10年前、私が着任して間もない頃でした。当時はまだ移植に携わるスタッフが少なく、着任直後の院内の移植システムも未整備な中で、脳死肝移植を行うことになりました。
レシピエントは劇症肝炎の女性。術前からの合併症で下半身まひになることがわかっていました。術後にどの程度まひが進行するのか不明で、多職種チームをどう編成して手術を行うか等々、判断を要する事項が山積みでした。そもそも移植を実施するかどうかも問題となっていたのです。それでも「日常生活に戻れる可能性はある」との結論が出て、課題をひとつずつクリアして肝移植に踏み切りました。
それから10年経ちましたが、その女性は車椅子で外来を訪れては元気な姿を見せてくれています。
移植医療は日を追うごとに進歩しています。術式や免疫抑制剤も大幅に改善されました。中でも大きく変わったのは、多職種の関わるチーム医療が当たり前になったことです。そしてチーム医療が進展するとともに、管理方法が徹底され治療成績も向上していきました。
25年前、私が肝移植に携わるようになった頃は戦場のような現場だったんですよ。外科医が術前も術後も孤軍奮闘しなければならず、いつも徹夜でした。当時は月に2件ほど肝移植を行っていたのですが、経過がよくないと2週間ぐらい帰宅できなかったですね。
ですが実際、外科医だけでは多数の症例やさまざまなトラブルに対応しきれないのです。たとえばかつては外科医が、ご家族やドナー候補者への連絡も含めてさまざまな役割をこなさなければなりませんでした。しかし私たち外科医はどうしても「手術」の視点で話をしますので、拾い上げられる情報が限られてしまい、ご家族の不安など気づかずに対応してしまっていたこともあったと思います。
それが今はコーディネーターら多職種がそれぞれの専門的視点できめ細かくケアしてくれるようになりましたので、チーム全体の総合力がグッと上がったと思います。
特に当院の肝移植チームは、精神科医と臨床心理士がドナー候補者の判断に関わるだけでなく、移植後もこれまで外科医が診てこれなかったメンタル面を支援してくれています。精神科領域のスタッフがここまで深く関わる移植チームは珍しいのではないでしょうか。
日本は生体肝移植に大きく依存しているため、重症度の高いケースへの手術が多いんです。今後、脳死肝移植が増えれば重症度がやや低い患者さんへも移植手術を提供できるようになるはずです。そうすればより回復も早く、治療成績のさらなる向上も期待できるでしょう。
それには一般の方々への啓発が必要です。日本はコロナ禍で臓器提供が減ってしまいました。ですが、感染者が日本よりも圧倒的に多かったアメリカでは臓器提供が増え続けているんです。臓器提供数を人口100万人あたりで比較すると、日本はアメリカの約62分の1しかありません(2020年 日本臓器移植ネットワーク)。
これからは家庭で臓器提供について話し合ったり、身内が脳死になったときに提供するのか否かを考えておけるよう、広く移植について知ってもらうことが必要だと考えています。そうして社会全体の押し上げが進めば、移植医療もさらにいい方向へ進むのではないでしょうか。
病院助教/外科医
城原幹太 先生
夢のある医療
肝移植は多くの患者さんを劇的に回復させる、ドラマティックで夢のある治療だと思います。肝不全で患者さんの状態が悪く、凝固能異常で出血が止まりにくい中での手術であったり、拒絶反応や感染症等の合併症や、メンタルの問題など乗り越えながら、患者さんは元気になり退院していきます。そのために専門性の高い多職種の力が必要で、術前術後もチームで力を結集しつつその患者さんをずっと診ていくことになります。
多職種のチーム医療
多職種によって編成された肝移植チームの最終目標は、患者さんの社会復帰です。それに向けて各職種がさまざまな時期に関わっていきます。
移植手術は10~12 時間、場合によってはそれ以上かかることもあります。かつては術後も外科医がそのまま継続して診ることもありましたが、今はICUチームが循環管理や抜管、人工呼吸器離脱等などに対応してくれています。またリハビリチームには周術期のリハビリを継続して実施してもらっています。
このような多職種チーム医療による周術期管理において、当院では精神科のリエゾンチームも術前術後を通して積極的に関わってくれています。毎週のカンファレンスで患者さんの経過やメンタルに関する情報を相互共有しながら、外科医だけではなかなかできないメンタル面もサポートできていますので、移植という普段とは違う状況下でストレスを感じている患者さんにとってもとてもよいシステムだと思います。
心に残るエピソードは
子どもの肝移植ではご両親のどちらかがドナーになることが多いです。子どもの生命力には感嘆させられます。移植して肝臓が働きだすと劇的に回復し、厳しい合併症が起こっても乗り越えられる。長い入院生活から学校に通えるようになっていく。本当に素晴らしいと思います。
増えつつある脳死肝移植
日本は脳死の臓器提供がまだまだ足りず、家族間の生体肝移植が多い状況です。健康な方から臓器提供を受けるのは、やはり大変なことですよね。それでも移植をしないと生命の危険がある患者さんが目の前にいますので、重い責任を感じながらドナーの手術を行っています。
各方面の努力もあって、徐々に脳死の臓器提供は増えつつあります。これからもっと多くの患者さんが脳死の臓器提供を受けられるようになって、社会復帰できるようになってほしいですね。
精神科 准教授/精神科医
木村宏之 先生
精神科医として肝移植に関わるように
私は精神科医として肝移植チームに参加し、ドナーとレシピエントのQOLも含めた精神的、心理社会的サポートを行っています。
移植医療において精神科医が関わらなければいけない場面は多々あります。ドナーとレシピエント双方が抱えている心の問題や家族の問題を避けて通ることができない医療ですから。
心の問題とは
移植医療は、本人も家族も「完全によくなること」を望んでいます。ですが望みが高ければ高いほど100%そうなるとは限らず、気落ちしてしまうこともあります。そんなときは時間をかけて現実を受け入れてもらうプロセスが必要で、不眠や抑うつ気分に処方するケースもあります。
機能的な多職種連携
どんなに仲がいい医療チームでも、患者さんの経過が思ったほど順調でない等、さまざまなアクシデントやトラブルがあるとお互いに疑心暗鬼になってしまうことがあります。しかし当院の肝移植チームはそうした逆境に強いんですよ。その理由は仲のよさだけでなく、機能的でそれぞれの専門性や技能水準を保っていることではないでしょうか。
暴れていた10代の女の子
患者さんが病気を受け入れることについて、強く印象に残っているケースがあります。劇症肝炎で生体肝移植を受けた10代の女の子でした。緊急手術でしたので、本人は移植されたことがわからないまま目が覚めたんです。
主治医から精神科医に対応してほしいと連絡が入ったのですが、主治医いわく「(その子は)医療スタッフを蹴っ飛ばしたりして、ひどいんです」とのこと。驚いて病室に行くと、ご本人は「何でこんなに不自由なんだ! 移植なんて納得がいかない!」と怒っていました。突然直面した自身の状態を受け入れられなかったのでしょう。もっともなことだと、彼女のつらさに耳を傾けました。
元気になって退院した後もしばらく精神科の外来にも通ってもらいましたが、身体の回復とともにだんだん落ち着いていき、精神科に通う必要もなくなりました。その後、就職して結婚もしたと伺っています。彼女にはずいぶんと叱られましたが、そう聞いたときに、しみじみよかったなと思いました。
精神科医がやれることは多い
移植は全人的な医療ですから、精神科医がやれることはドナー候補者の意思確認以外にもたくさんあります。ですから当院のように、移植チームに精神科医療従事者が違和感なく参加できる土壌がこれからも広がっていけばいいですね。
臨床心理士
岸 辰一 さん
術前の評価だけでなく
僕がメインに行っている仕事は、肝移植手術を前にしたドナーとレシピエント双方の精神的評価です。特に生体肝移植におけるドナー候補者の自発性評価には第三者の目が必要ですので、まずは少し距離を置いた状態で会います。ですが当院ではその後も心理士が周術期のサポートをすべく肝移植チームの一員に加わっているんです。
心理士としてどう関わっているか
臨床心理士としてメンタルの問題を気軽に相談してもらえるよう、また予防的な視点を持って関わっています。
僕は常に、その方の独特な考え方に気付けるよう意識しています。たとえば幼少期の出来事など昔の経験にアセスメントすることで、強い不安や心配の原因に気付くこともあります。
ご家族がドナー候補者の場合、自発的な意思によるものだとしてもやはり葛藤があるなど、複雑な思いが渦巻くことはあります。中でも「自分の提供する臓器で本当に大丈夫なんだろうか」と不安に思う方は少なくありません。そんなときは関係性を築きつつ、何度か面接をして揺れ動く気持ちや独特の考えを傾聴していきます。
気軽に話し合えるチームで
この肝移植チームはコミュニケーションが非常に取りやすいんです。毎週定刻にカンファレンスで集まり、みんな顔を合わせながら話をしていますので気安い雰囲気があります。普段からちょっとしたことでも気軽に話しかけられるんですよ。
忘れられたほうがいい存在?
僕は求められた所へ臨機応変に行くことを心がけていますが、最終的には忘れられたほうがいい存在だと思っています。ドナーやレシピエントから「心理士さんに相談しなくても大丈夫になりました」と言われることがゴールだと考えていますから。
たとえば肝移植を受けて入院していたある患者さんは、病棟で僕を見つけるとさまざまな不安を吐露してくれました。当初は切迫した様子だったため時間をかけて傾聴しながらサポートしましたが、不安がある程度解消されると前向きな話題が多くなり、次第に面接時間も短くなっていったんです。心理士として「患者さんが困ったときに支えることができた」と感じ、嬉しかったですね。
普段は忘れられていても、困ったときに「相談してみよう」と思い出してもらえる存在でありたいと思います。
移植に関わる心理士が増えるように
移植に関わっている心理士はまだ少なく、学会で発表すると珍しがられてしまいます。ですが心理士としてもさまざまな背景にアセスメントする複眼的な力がつきますので、これからもっと仲間が増えていけばと思います。
レシピエント移植コーディネーター/准看護師
山口尚子 さん
患者さんの一生に関わっていく
私は肝移植チームのレシピエント移植コーディネーターとして、患者さんの初診の面談時から関わっています。肝移植をして回復したら業務が終わるわけではなく、手術以降も継続して患者さんを支えていきます。生存率の向上には、生活管理や免疫抑制剤の服用管理が大きく関係していますから。
当院が行ってきた肝移植は、その約3分の1が小児肝移植です。赤ちゃんがご家族から肝臓をもらう生体肝移植を乗り切り、その子が大きくなって小学校に入るなど成長していく姿を見ると、いつも感激します。
肝移植チームは……
患者さんのライフステージに応じた悩み事を聞き、チームで話し合いながら支援していけるのは、移植医療ならではの醍醐味と言えます。チームのメンバーは非常に心強い存在で、さまざまな準備や対応に備えることができています。
肝移植チームが集まる毎週のカンファレンスでは思ったことを何でも言えますし、他の立場からの意見や感想もスムーズに集約されていきます。もちろんカンファレンスだけでなく、何か懸念することがあればどの職種もすぐに電話で応じてくれるのでとても助かっています。たとえばドナーになる準備をしていた方から、このまま進めていいのか迷うような発言があれば、すぐ精神科医や心理士に意見を聞くことが可能です。
忘れられない言葉
印象に残っているのは、脳死肝移植で待機していた子です。小学校低学年でしたが急性の疾患で、本人はもちろんのこと親御さんもなかなか「移植をしなければ助からない」という状況を受け入れることができませんでした。結局、親御さんは理解してくれましたが、本人に移植をすることをどう伝えるか大変悩まれていました。さらに本人も全身状況が悪化していて、話を聞いてもよく理解できるかわからない状態だったのです。
ですが私以外にもチャイルドライフ・スペシャリストなど多職種が関わって、無事移植を終えることができました。
移植後はとても元気になって、退院から1か月半で学校に通えるようになりました。移植連携室に作文を持ってきてくれたことがあったんです。「移植ができてよかった」と書いてあって感動しました。さらに「将来は移植コーディネーターになって、一緒に働きたい」とまで言ってくれて。涙が出てしまいました。
レシピエント移植コーディネーターの仕事は患者さんやご家族に深く関わっていきますので、精神的なタフさを求められることもありますが、大きなやりがいと自分の成長を感じることができます。これからは後進の育成にも力を注いでいきたいですね。
レシピエント移植コーディネーター/看護師
坪井千里 さん
まずは患者さんとの関係づくりを
レシピエント移植コーディネーターの仕事は、まず患者さんに電話を一本かけることから始まります。そこで初回面談設定の相談をするのですが、「肝臓を移植するなんて」と構えられてしまい、関係づくりに悩むことがあります。
肝移植について情報提供を行い、本人と家族が十分考えた上で治療選択をして肝移植を受け、元気に回復していく様子を見ると「本当にすごい医療だ。よかった!」と思いますし、最初の苦労も忘れてしまうほどのやりがいを感じます。
レシピエント移植コーディネーターの強み
私たちレシピエント移植コーディネーターの強みは、医学領域以外に目を向けられる点だと思います。たとえば患者さんや家族の不安を拭うために、患者さんと配偶者家族との関係や、入院している間のお子さんの世話をどうするかなどを確認するのも大切な仕事です。移植の治療選択から準備中、移植後まで、本人や家族、親族から不安な点や質問などがあれば、その都度丁寧に説明しています。
層の厚いチーム医療
当院の肝移植チームは、私たちレシピエント移植コーディネーターの視点で気づいたことをまず同じ職種間で共有し、他職種の意見を聞いた上で、さらにカンファレンスでも医師を交えて話し合うことができます。このように何段階にも層を厚くしたミルフィーユのように検討を重ねていけるのが、このチームの長所ではないかと思っています。
高圧的な態度だった患者さんが……
ずいぶん昔の話ですが、当院の内科に入院していた成人男性で、高度の黄疸があり早急に肝移植を検討する必要のある方がいました。すぐ病室へ行って肝移植の面談設定のお話をしたところ、その方から「移植なんて考えていない!」と、高圧的な強い口調で言われてしまいました。
病状がかなり進んでいたので私も必死でしたが、ご本人はお子さんがいる家庭のことを心配しているのがわかりました。自分が病気になってしまい不安だったのだと思います。本人と家族の希望で脳死肝移植を待機することになりましたが、不安を傾聴しながら前向きに待機できるよう支援を続けました。
その後、無事に脳死肝移植を受けることができ、とても元気に回復されました。
今では外来で会うと笑顔で子どもの話をしてくれるんです。よかったなと思いますね。
全人的に関わっていく魅力ある仕事
レシピエント移植コーディネーターは移植手術のみに関わるのでなく、その方の生活全般、就学や就労、家族関係や悩みなども聞き、全人的に関わっていきます。患者さんの傍らで人生を見守ることができる、とても魅力ある仕事だと思っています。
(2022年9月取材)
〈取材・編集:ライフサイエンス出版株式会社〉
※所属・役職は2022年9月時点の情報です。
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