肝移植の適応は、先天性疾患を除き「余命1年以内」と推定されるケースである。時間との戦いでもあり、まずは素早く的確な医療技術が求められ、移植後も長期経過を丁寧にみていかねばならない。慶應義塾大学医学部「肝胆膵・移植班」は、移植手術を行う外科医だけでなく、内科の肝臓専門医から薬剤師まで各専門職が集まり、それぞれの知識をフル稼働して移植にあたっている。患者さんのQOLを改善し、長期生存率を上げるための方策とは何か。詳しく聞いた。
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治療の選択肢として、移植医療は目覚ましい進展を続けています。
手術手技の向上や薬の開発のみならず、専門スタッフの自己研鑽に基づいたチーム医療は治療成績に大きく貢献しました。
その最前線をレポートします。
Interview
慶應義塾大学医学部 一般・消化器外科 肝胆膵・移植班 (東京都新宿区)
外科(一般・消化器)専任講師
長谷川 康 先生
【プロフィール】
はせがわ やすし:2002年に慶應義塾大学医学部を卒業後、静岡赤十字病院外科、独立行政法人 国立病院機構栃木医療センター外科、国際親善総合病院(神奈川県)外科医長などを経て、2019年に岩手医科大学医学部外科学講座講師となる。2021年より現職。専門領域は肝移植、腹腔鏡下肝切除。
肝移植の適応は、先天性疾患を除き「余命1年以内」と推定されるケースである。時間との戦いでもあり、まずは素早く的確な医療技術が求められ、移植後も長期経過を丁寧にみていかねばならない。慶應義塾大学医学部「肝胆膵・移植班」は、移植手術を行う外科医だけでなく、内科の肝臓専門医から薬剤師まで各専門職が集まり、それぞれの知識をフル稼働して移植にあたっている。患者さんのQOLを改善し、長期生存率を上げるための方策とは何か。詳しく聞いた。
肝移植は致命的な病を抱えた患者さんに実施し、移植後も生涯にわたるケアを要します。手術を行う外科医だけでなく多職種がチームを組み、知識と技術を総動員させなければ成り立たない医療なのです。当院では血管の外科治療を専門とする「血管班」や消化器内科、集中治療部、感染制御部、薬剤部、移植コーディネーターらが関わっていますが、このチーム医療が肝移植の質と成績の向上に大きく貢献していると考えています。
私たちがこれまでに行ってきた成人肝移植は18歳から68歳まで230例で、うち38例が脳死移植です(1995年〜2021年5月24日)。男女比はほぼ半々ですが若干男性の方が多いですね。
成人肝移植の術後成績は1年生存率が86.0%、5年生存率77.6%、10年生存率75.1%となっています(1995年〜2019年)。
コロナ禍においては、移植を希望している患者さんの大半から「こういう(COVID-19が蔓延している)ご時世なので、移植を先に延ばしたほうがいいでしょうか」と聞かれます。
しかし肝移植の対象となる患者さんは、ほとんどが進行性肝疾患の末期状態にあり、このままでは余命いくばくもない方ばかりなのです。COVID-19を恐れて移植をせずにいたら、命を危険にさらすことになりかねません。ですから私たちは日本移植学会の指針に則って感染対策を徹底し、移植を実施しています。
肝移植の長期成績は全国的に向上していますが、その理由は診断や治療技術の進展とともに、周術期の管理が改善しているからでしょう。
生体部分肝移植の場合は、脳死移植と違って肝臓全体が移植されるわけではありませんので、移植した小さなグラフトを大きく肝再生させるために、粘り強い術後管理が必要です。こうした取り組みも長期成績の向上につながっているのではないかと考えています。
成人血液型不適合移植は、当院が先駆けて行った分野です。まだ移植医療が成熟していなかった時代に動物実験などから知見を得て安全性を確かめ、成功させていきました。
現在は日本全国の移植施設でも実施されるようになっています。
内科のかかりつけ医の先生方は、どのタイミングで患者さんを移植施設に紹介していいのか悩まれることもあるでしょう。そんなときは、どのようなことでもまずはご相談いただければと思います。「肝移植の適応かどうか」や「肝移植をしたほうがいいのか否か」の判断がつかない段階で構いません。
肝移植は、実は希望した患者さん全員が受けられるわけではないのです。移植に向けた検査の結果がよくなかったり、移植手術に耐え得る体力が残されていない患者さんもいます。
ですから肝機能があまりに悪化してしまう前に、少しでも患者さんの状態がいいタイミングで早めにご相談いただきたいのです。
日本の肝移植数は年間400件前後で推移しています。一時期は500〜600件ほどだったのですが、2019年は400件を切ってしまいました。C型肝炎の新しい治療法が普及してきたことも影響しているでしょう。それは喜ばしいことですが、肝機能の低下はウイルス性肝炎によるものだけではなく、日本にはまだ年間約2,000人の患者さんに肝移植が必要だと推定されています*。
また、2019年に全国で行われた肝移植395件のうち、脳死移植は88例でした*。脳死ドナーが少ないためにやむなく生体ドナーから移植しているのが現状なのです。
患者さんは肝移植によって長期予後が劇的に改善し、それまであった黄疸や腹水、むくみ、かゆみ、だるさから解放されるなど、QOLも格段に上がります。
肝移植を受けられる患者さんが少しでも増えるよう、啓発活動を行っていきたいですね。たとえば私が医学生や看護学生に授業を行う際は、臓器提供の意思表示カードについても話すようにしています。
*2020臓器移植ファクトブック(日本移植学会)
肝移植を行った患者さんは一例一例、すべてが心に残っています。最近はコロナ禍で患者さんと触れ合うことはできませんが、かつては退院時に患者さんと握手をしたりハイタッチをしたりして喜び合っていました。ベッドから起き上がれないほど具合の悪かった方が、見違えるほど元気になって……本当に嬉しいですね。
最近は移植外科医を目指す若手医師が減ってしまいました。手術は長時間におよびますから「仕事がきつい職場だ」と敬遠されてしまうようです。しかし患者さんが劇的に回復する非常にやりがいのある仕事です。私自身がそうした思いを持って日々働いている姿を、後進たちに見せていければと思っています。
内科(消化器)専任講師
褚 柏松(ちょ はくしゅう) 先生
移植前と移植後、内科医はどう関わるか
われわれ内科医は基本的に移植前の患者さんを診ています。移植後の急性期は外科医がメインで対応しますが、一部の患者さんはもともとの疾患、たとえば特殊な難病のひとつである原発性硬化性胆管炎などが再燃してしまうこともありますので、そうした際には内科医も一緒に診療にあたります。
確実な診断と丁寧な診察
移植の適応となる疾患で多いのは非代償性肝硬変、肝細胞がん、急性肝不全の3つです。当院の内科医がかかりつけの患者さんについて移植の適応を考え、外科医に相談することもありますが、他院から移植を目的として紹介されるケースもあります。このタイミングでもっとも重要なのは確実に病態を判断することです。どのケースも肝臓が大きなダメージを受けていることに違いはありませんが、内科治療によっていい状態にできるのか、もしくはもう少し移植を待てるのか、丁寧に診ていきます。もちろん肝機能だけでなく他臓器の機能を維持することも重要ですから、場合によってはわれわれ消化器内科だけでなく、腎臓内科や感染制御部の力を借りることもあります。
肝移植における内科医と外科医
内科と外科の連携では、タイムリーな情報共有ができるよう心掛けています。移植適応を考慮する段階から移植後まで、外科の長谷川先生を中心にもうひとりの肝臓専門医と私が毎週ミーティングを行っていますし、外来でも外科医と一緒に患者さんを診ています。
内科医と外科医の視点に大きな違いは感じません。もちろん移植手術後の胆汁の流れや吻合部の問題などはなかなか内科医が介入できる領域ではありませんが、移植後にまた肝障害が起こった場合、それが拒絶反応によるものなのか、もしくは原病の再燃なのかの診断や、いかに現在の肝機能を維持するかといった点は内科医が対応しますので、お互いに補完しあっている形と言えるでしょうか。
日本の移植医療は肝臓専門医から見て、移植外科医に非常に負担がかかっています。われわれ肝臓専門医が一緒に診ていける体制は大切だと思います。
劇症肝炎、時間と納得と
ご家族も含めドナーもレシピエントも納得できる肝移植ができるよう、内科医として関わっていきたいですね。特に劇症肝炎は短時間で急激に悪化しますので、ご家族がドナーになる際も、丁寧な説明を心がけています。
内科治療の尽きた患者さんが……
これまで診てきた患者さんはすべて、最終的に移植に至らない症例も含めて、忘れ難い方ばかりです。中でも他院で治療の尽きたある患者さんが、当院で内科治療を行って何とか3週間を過ごし、最終的に移植できた症例は強く印象に残っています。
感染制御部 助教
宇野俊介先生
移植後の日和見感染症に対応
私はもともと内科医として造血幹細胞移植などに関わっていました。そこで移植後に免疫を抑制している患者さんには実にさまざまな感染症を含めた合併症が起こることを経験し、何とかできないかと移植関連感染症に専門医として関わるようになりました。
移植後の患者さんによく見られる感染症は、肺アスペルギルス症など難治性の真菌感染症やサイトメガロウイルス感染症など、健康成人であればまずかからない日和見感染症と言われるものです。もちろんすべての移植患者が日和見感染症を発症するわけではありませんが、免疫を抑えている以上、感染の問題は念頭に置かねばなりません。
また、他の合併症も起こり得ますので、果たしてそれが感染症なのかどうかの診断を行い、診断がついたら専門家としてマネジメントを提案しています。
私たちは直接患者さんを診療するわけではありませんが、各種文献などをもとに専門性を活かし、チーム内で情報を共有することで、患者さんのよりよい予後に役に立てればと思っています。
感染症の発症、悪化を防ぐために
感染症を回避するために気をつけているのは、移植の主治医である外科医にリスクアセスメントを共有することです。たとえば肺のCT画像を提示して「こうしたケースは肺アスペルギルス症のリスクが高い」などと、移植前のカンファレンスで話しています。しかし予測不能な事態も多いので、何か異変があったらすぐ感染制御部にご連絡くださいと伝えています。
感染症専門医も移植チームの一員として
日本では、移植後に起こった感染症を外科医が診ている医療機関が多いと思います。感染症専門医が深く関わる移植チームは珍しいのではないでしょうか。
コロナ禍においても感染症専門医の少なさは指摘されていますが、これからはぜひ移植に関わる感染症専門医も増えてほしいですね。
陰で患者さんを支えたい
かつて、ある患者さんが肝移植後に肺アスペルギルス症になってしまったのですが、抗真菌薬ではなかなか改善しませんでした。そこで移植の主治医である外科医に、肺の部分切除による治療を勧め実施したところ回復したのです。その患者さんが退院するときは、自分たち感染制御部も役に立てたかなと思えて嬉しかったです。
私たちは患者さんと直接触れ合うことのない、日陰の存在でいいんだと思うのです。これからも縁の下の力持ちと言いますか、陰からそっと、いやしっかりと患者さんを支えていきたいと思っています。
看護部 レシピエント移植コーディネーター
高岡千恵さん
レシピエントとドナー、双方の気持ちに寄り添って
肝不全の患者さんが移植を受け、驚くほど元気になる姿をたくさん見てきました。コーディネーターとして、その過程をお手伝いできることにやりがいを感じています。
レシピエント移植コーディネーターは、生体移植であればレシピエントもドナーも両方担当しますので、レシピエント側に偏らず、ドナーの気持ちにも寄り添うよう気を付けています。仕事内容をひと言で表すのはとても難しいのですが、肝移植に関するあらゆる相談窓口であり、調整役と言えるでしょうか。移植を受ける患者さんだけでなく、ご家族やドナー、院外のかかりつけ医などさまざまな方に関わっています。
移植施設ごとにコーディネーターの業務は少しずつ違うと思いますが、当院は初診の予約を受ける段階からコーディネーターが相談に乗っています。そして体調や移植に関する質問、レシピエントとドナーへの対応、移植待機中のさまざまな相談、脳死移植待機中の患者さんはかかりつけが他院であることが多いので、血液データや体調の把握なども行います。
移植後は免疫抑制剤の内服や体調管理などについての相談業務を行います。体調が悪い場合は主に私が窓口になって医師に相談し、スムーズに受診できるよう調整しています。
また、脳死移植の場合はレシピエントやご家族に、ドナーやそのご家族へのサンクスレターを書いていただき、レシピエントやご家族の思いをドナーのご家族や関係者にお届けする橋渡しをしています。
相談内容は……
レシピエントからよく受ける相談は、移植までの流れや準備、体調相談などですが、中でも移植費用については多くの方が心配されます。そこで利用できる制度についてご紹介するなどし、ソーシャルワーカーと一緒に手続きをお手伝いすることもあります。
一方、生体部分肝移植のドナーとなる方は、ご自分の仕事の合間に検査に来てもらうことが多いので、そのスケジュール調整や、入院から復帰までにかかる時間、復帰までの準備などの相談にのっています。ときにはドナーの不安や心配が大きかったり意思が揺らぐこともあり、精神科医らと慎重にやり取りしながら気持ちに寄り添うようにしています。
対応は迅速に!
肝移植で心掛けているのは「対応は迅速に」です。私の仕事は患者さんの病状悪化や治療選択に深く関わってくるので、相談や問い合わせにはいち早く対応するよう心がけています。
他の医療機関から肝移植を希望する患者さんをご紹介いただくこともよくあるのですが、すでに肝不全がかなり重症化しているケースでは、患者さんとご家族が移植について説明を受けてから十分考える時間がとれないことや、準備している間に患者さんの病状がさらに悪化し移植までたどり着けない場合があります。ですからかかりつけ医の先生方にはなるべく早い段階で、移植が適応かどうか悩まれていたとしてもお問い合わせいただければと思います。
移植医療の発展に向けて
これからは国内で臓器提供がもっと増えるよう、まずは院内でできることをしていきたいですね。患者さんやご家族の臓器提供の意思が尊重されるような体制整備の必要性を感じています。
それから、移植に興味を持ってくれる看護師を増やしたいです。ゆくゆくはコーディネーターとなって活躍して欲しい。
看護師の皆さん、コーディネーターの仕事は大変やりがいがあります。ぜひ仲間になっていただけたらと思います。
薬剤部
福田正悟(ふくだしょうご)さん
服薬アドヒアランスが大きく影響する肝移植
移植を受けた患者さんは、拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を生涯飲み続ける必要があります。術後の管理はもちろんのこと、その服薬アドヒアランスを維持させることが移植医療の成功につながると言っても過言ではないのです。そこで私たち薬剤師が移植チームの一員として病棟に常駐し、移植を受けた患者さんのそばで服薬指導や副作用の確認、アドヒアランスの評価などをしています。
薬ひとつが患者さんの命を左右してしまう
服薬指導は患者さん個々の理解度や年代に合わせて変えていますが、術後は免疫抑制剤だけでなく複数の薬を飲み始めますので、まずはその薬がどんな働きをし、なぜ必要なのかを理解をしてもらうことから始めます。また、免疫抑制剤は他剤ばかりでなくサプリメントとの相互作用も報告されているので、サプリメント摂取の有無なども確認しています。
移植後の患者さんに接する際、特に心がけているのは「とにかく慎重に」ということです。薬ひとつが患者さんの命を左右してしまうことがありますので、薬歴を記載するときはさまざまな検査値を見て、薬の選択に問題がないか確認しています。
患者さんが退院した後は、外来調剤で関わることになります。ある患者さんは肝移植後にしばらく入院していたのですが、無事退院して外来通院に移行しました。外来で初めて投薬窓口を訪れたとき、処方薬を渡そうとした私を見て「ありがとう」と言ってくれたのです。あのときは嬉しかったですね。病棟でもずっと関わっていた方でした。
不明点はぜひ連絡を!
当院で移植手術を受けて退院し、地元のクリニックや病院にかかる患者さんもたくさんいます。ですから全国の薬剤師の方には、移植手術を受けて免疫抑制剤を飲んでいる患者さんが訪れた際、もし何かわからないことがあれば移植手術を受けた病院に連絡をして欲しいのです。相互作用ひとつをとっても患者さんの命に関わってきますので、どんなに些細なことでもぜひお問い合わせください。私たちも丁寧にお答えしたいと思っています。
これからも患者さんのそばで
移植領域においては現状、認定薬剤師のような専門資格はありません。しかし、移植医療において活躍している薬剤師がいることを、もっとたくさんの人に知っていただけたらと思います。
通常、薬剤師と言えば主な業務は調剤ですが、近年では働き方が大きく変わり、病棟で患者さんと近い距離で対応することは、非常にやりがいを感じられます。薬がどのように服用されているのかを見ることによって、薬剤に関する専門知識をさらに活かすことができます。
移植チームにおいて、これからも薬剤師としての力量を十分発揮できるよう努めていきたいと思っています。
(2021年5月取材)
〈取材・編集:ライフサイエンス出版株式会社〉
※所属・役職は2021年5月時点の情報です。
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