(2)口腔内崩壊錠の長所と短所
口腔内崩壊錠の長所、短所を以下に挙げます。
(1)口腔内崩壊錠の種類
口腔内崩壊錠は、通常錠の剤形追加であることが多く、口腔内崩壊錠と通常錠が市販されているケースが多くあります。表1に示すような速崩壊性を示す略語が商品名の後につけられていることが多く、最近ではOD錠に統一する動きもみられています。
表1 口腔内崩壊錠に用いられている略語の一例
口腔内崩壊錠は、欧米でCardinal Health社より口腔内速溶剤(Zydis)が最初に(1980年代前半)製品化されています。日本においては、ガスターOD錠(アステラス製薬)が1997年に始めて製品化され、その後、多くの製品が上市されてきました。2010年では、先発品が26製品、後発品が93製品、上市されています1)。
口腔内崩壊錠の技術は大きく分けて3つに分類されます。
1つ目は薬物等の懸濁液をPTP等鋳型に精密充填し凍結乾燥、通風乾燥等により乾燥固化する鋳型錠製剤で「Zydis」、「Lyoc」、「WOWTAB-Wet」などに代表されるもの
2つ目は薬物・糖類等の混合物をアルコール・水溶液等で湿潤し,低圧成形後乾燥する湿製錠製剤に代表されるもの。
3つ目は一般の錠剤の製造法を基本として速やかな崩壊を達成するために様々な工夫(崩壊剤の添加,外部滑沢法,多孔質体の成型など)がなされたものです2)3)4)。
例)ベシケアOD錠(剤形写真)
現在では、自動分包調剤機に対応できるような硬度を有し、通常の錠剤と同様に取り扱いができるものが多く上市されています。
(2)口腔内崩壊錠の長所と短所
口腔内崩壊錠の長所、短所を以下に挙げます。
嚥下障害の患者さんに対しては、薬物を粉砕したり、液剤にとろみをつけた上で服用するという試みがなされますが、薬によっては大変苦かったり、味が悪かったりします。そのため、味覚障害をきたしたり、心理的に食欲不振へつながることも懸念されます。口腔内崩壊錠は、口の中で崩壊して服用するという性質から、薬物の苦味をマスキングしたり、味を工夫しており、こうした患者さんに対する配慮もなされております。
嚥下障害の患者さんが、口腔内崩壊錠を服用し続けた場合、従来の錠剤を服用する場合に比べて、薬の嚥下に要する力が減少するため、口腔内崩壊錠を好むという報告があります5)。
口腔内崩壊錠は易服薬性を目指した製剤であることから、通常錠に比べ、飲水量が減るという報告があります6)。特に加齢に伴い服用薬剤数が増加する傾向にあり、少ない水で服用できることは、透析患者さんなど飲水制限のある患者さんのメリットになると考えられます。
場所を選ばず服用が可能なため、すぐに飲むことができるのも特徴の一つです。特にアレルギー疾患などの患者さんでは外出してから症状が出てしまったということが多くありますが、そういったときに水なしで飲むことができるというのはとても便利であるとともに、安心感を与えることができます。
患者さんの中には他人に病気を知られたくない、薬を飲んでいるところを見られたくないという方が最近では特に多くなっています。口腔内崩壊錠は場所を選ばず、水なしでも飲めるということから利便性が高く、服薬アドヒアランス向上が期待されます7)。
高齢者の中で服薬時に「薬を飲むときに飲み込めなかった経験の有無」および「薬剤が喉から胸にかけてつっかえてしまった経験の有無」はそれぞれ19.0%および27.1%もありました8)。こうした患者さんの服薬方法の特徴を見てみると、「カプセルを外して服用した」、「錠剤をつぶして服用した」頻度は、上記経験のない患者さんに比べて高いという報告があります。もし、脱カプセルやすりつぶしを患者さんが行った場合、効果が期待されなくなる心配があるばかりか、錠剤やカプセル剤が服用回数を減らす目的や、副作用を軽減するための徐放性あるいは腸溶性などの特殊製剤だった場合には、重篤な副作用が起こる可能性もあります。脱カプセルや、錠剤をつぶす必要のない口腔内崩壊錠は服薬時のリスクを回避できる製剤といえます。
口腔内崩壊錠そのものに苦み等があり、そのマスキングなどの対応が行われていない場合、口腔内崩壊錠としてのメリットがいかせなくなる可能性がでてきます。また、味覚は個人差があり、好みが分かれるため、口腔内崩壊錠の味は一つのキーポイントとなっています。特に小児の患者さんでは、苦味のマスキングやフレーバーなどの味の工夫が大切となってきます。味が悪い口腔内崩壊錠では通常錠の方がよいという意見もあります9)。一方で、味に特徴のある口腔内崩壊錠は、患者さんが製品名を忘れた時にも味は覚えており、それがコミュニケーションのツールとして役立つ時もあるそうです。
高齢者は唾液の分泌量が低下しており、高齢者の37.8%がドライマウスという報告10)があります。そのため、ざらつきを感じたり、入れ歯に挟まってしまうとの意見もでており、今後の口腔内崩壊錠開発の課題となると考えられています。
口腔内崩壊錠以外の併用薬を処方されている患者さんの場合、口腔内崩壊錠は別途「水なしで飲む」と誤解している患者さんもいます。そのため併用薬と別々に飲まなければならないという煩わしさを感じる患者さんもいらっしゃいます10)。
多くの利点を持った口腔内崩壊錠を、短所を理解してうまく使用することで、幅広い患者さんのアドヒアランス向上につながると考えています。
参考文献
1)増田義典、クスリが変わる口腔内崩壊錠の大潮流・展望、ファーマテックジャパン、26(13)、2467-2473、(2010)
2)対馬勇禧、口腔内崩壊錠の製剤化技術(上)、製剤機械技術研究会誌、13(1)、11-17(2004)
3)対馬勇禧、口腔内崩壊錠の製剤化技術(下)、製剤機械技術研究会誌、13(2)、90-95(2004)
4)森田豊、バリアフリー製剤の現状:速崩壊型錠剤を中心に、薬剤学、64(5)、294-299(2004)
5)藤島一郎:嚥下患者における薬剤投与、Pharma Medica、25(5)、125-128 2007
6)松里軒浩一他:速崩壊錠に対する軽度嚥下障害患者の評価、医療薬学、29(5)、648-651(2003)
7)並木徳之、飲みやすい製剤の豆知識を処方設計支援や服薬指導に活かす、薬事、50(11)、1735-1743(2008)
8)橋本隆男、高齢者の服薬の実態と剤形に対する意識調査、Therapeutic Research、27(6)、1219-1225 (2006)
9)鳥谷 尚史他:小児通年性アレルギー性鼻炎に対するエバスチン口腔内崩壊錠の効果と服用感、耳鼻 53 46-54、2007
10)長見 晴彦他:逆流性食道炎患者を対象としたオメプラゾール錠とランソプラゾール口腔内崩壊錠の患者満足度調査、Prog. Med 27 1007-1013、2007
(2016年2月)
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