メディカルアフェアーズ情報
情報提供に関する留意事項
こちらのエリアでは、メディカルアフェアーズ部門が医学的・科学的な専門性に基づき、弊社製品および関連する疾患情報などを提供しています。
こちらに掲載しているコンテンツは、弊社の市販製品の安全で効果的な使用、及び開発中のアステラスの医薬品又は製品の治療対象疾患に関する理解のために情報を提供するものであり、アステラス製品の処方の創出や需要拡大等を目的に弊社製品並びに当社製品の効能・効果を宣伝、広告するものではありません。
また、こちらのエリアでは弊社製品の臨床試験や研究結果の提供にあたり自社以外の製品について本邦では未承認の医薬品や効能・効果、用法・用量の情報が含まれていることがあります。
医療行為におけるご判断は、医療従事者の裁量と責任のもとに行っていただきますようお願いいたします。
製品のご使用にあたっては、その製品の最新の添付文書をご確認ください。
上記の本エリアの目的および留意事項をお読みいただき内容に同意いただきましたら、以下の「同意する」をクリックして本エリアにお進みください。
妊娠中の母体は胎児という一種の外来抗原を寛容するために、免疫機構に変化が起こり非妊娠時に比べ易感染性となります。さらに、妊娠初期では悪阻による体力低下、中期以降は子宮の増大に伴う横隔膜の挙上と胸郭の側方への拡大、一回換気量の増加、必要酸素量の増加による肺への負荷、循環血漿量の増大による心臓への負荷が加わり、心肺機能の低下が示唆されています1)。これらのことより、妊婦のインフルエンザ感染症は重症化する傾向にあり2-4)、さらに、母体の感染による胎児へのリスクの増加に関する報告もされていることから4)、積極的な不活化インフルエンザワクチン接種が世界的に勧められています6, 7)。
国内では、インフルエンザHAワクチンの電子添文上、妊婦への接種は有益性投与とされています。十分な説明をし、同意を得られた上で接種することが重要です。
妊娠中のインフルエンザHAワクチン接種については、免疫原性と安全性という二つの視点から考察する必要性があります。免疫原性については、前述した理由により、妊娠という免疫機構の変化した状態での免疫応答で感染防御に十分な抗体を獲得することが可能であるか否かの評価であり、安全性については、母体への副反応、流・早産、催奇形、胎児の成長への影響についての評価です。免疫原性については、非妊娠時と変わらず被接種妊婦は十分な免疫を獲得することができるという報告があり8, 9)、安全性についてはワクチン非接種妊婦と変わりがないという報告がなされています9, 10)。
しかし、この結果はアジュバントを含まないインフルエンザHAワクチンに限られています。生ワクチンを妊婦へ接種することはできませんし、今後登場してくると思われるMDCK細胞(イヌの腎臓由来の細胞)もしくはVero細胞(アフリカミドリザルの腎臓由来の細胞)由来のHAワクチンや孵化鶏卵由来の全粒子ワクチン、アジュバントを含むものなどについては、まだ安全性に関する情報は十分でなく、現時点では評価できていません。
Q 妊婦・授乳婦がインフルエンザHAワクチンを接種するメリット・デメリットについて教えてください。
A 妊婦のインフルエンザHAワクチン接種によるメリットは、完全な感染防御は行えませんが、感染しても重症化することを防ぐ点で有効と評価されていることが一つです12)。また、母体の免疫獲得により、胎盤を介して胎児へも抗体が移行するため、妊娠中のインフルエンザHAワクチン接種は出生後の乳児のインフルエンザ感染の防御や重症化防止へのメリットもあります5, 12-14)。この乳児への免疫は約6カ月持続すると評価されており13)、ちょうど、乳児へのワクチン接種が有用でないと考えられている時期をカバーすることができます。また、妊婦へのインフルエンザHAワクチン接種により、生後3カ月までの児のインフルエンザ感染に続発して起こりやすい下気道感染症(細菌性・ウイルス性)による入院率を減少させることも報告されています15)。
授乳婦のインフルエンザHAワクチン接種によるメリットは、母親自身の発症、重症化を防ぐことに加えて、直接的ではありませんが母親が感染予防することにより、乳児への伝播を防ぐことも一つでしょう。
妊婦のインフルエンザHAワクチン接種によるデメリットは、母体の副反応、アレルギーであると考えられますが、その発生頻度は妊娠の有無にかかわらず同等とされています。また、接種による自然流産、早産、胎児発育異常、奇形などのリスクに関しても増加するという報告はみられていません9, 11)。
授乳婦のインフルエンザHAワクチン接種のデメリットは、妊婦同様、授乳婦自身の副反応やアレルギーと考えられます。
Q インフルエンザHAワクチンの電子化された添付文書*は有益性での判断ですが、最終的には誰の判断でしょうか?
A 妊娠中のインフルエンザHAワクチン接種の安全性に関しては十分な情報が蓄積してきており、母子ともにその有用性が明らかとなっています。すでに世界的に接種が勧められてきており、近年ではわが国においてもその認識が高まり、有用性を重視した判断が一般的となっています。
最終的に、インフルエンザHAワクチン接種の有益性の判断は接種医が行い、被接種者に下記のような助言をします。①インフルエンザに罹患すると妊婦は重症化しやすい、②インフルエンザHAワクチンの接種により、母子ともに免疫を獲得できる、③インフルエンザHAワクチンを接種した場合、胎児への影響は自然発生的なリスクと変わらない、④インフルエンザHAワクチンの副反応の発生率は非妊娠時と変わらない。このような説明に対して、被接種者の理解および接種の同意が得られた場合に、接種を実施することが大事です。
*インフルエンザHAワクチンの電子化された添付文書の記載事項
9. 特定の背景を有する者に関する注意(抜粋)
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。
なお、小規模ながら、接種により先天異常の発生率は自然発生率より高くならないとする報告がある。
Q インフルエンザHAワクチンを産後すぐに接種できますか?
A 妊娠中にインフルエンザHAワクチンの接種を受けなかった場合、産婦はインフルエンザに罹患すると産後2-6週間は重症化しやすいため、接種を検討するとよいでしょう16)。ただし、出産直後は、出産に伴う合併症(細菌感染症など)や乳腺炎で発熱することがあり、ワクチンの副反応と混同する場合がありますので、十分な問診を行い接種することを勧めます。
Q 乳児に卵アレルギー†の既往がある場合、その授乳婦への接種は可能でしょうか?
A 孵化鶏卵由来のインフルエンザHAワクチンでは、ロットによって差はみられますが、数ng/mL程度の卵白アルブミンが混入する可能性があります17)。しかし、母親への皮下接種後、卵白アルブミンが母体血流を介して母乳中へ移行する量や、母乳から児へ吸収される量はさらに少ないと推測されます。
授乳婦への接種に関しては、国内では新型インフルエンザワクチン(季節性インフルエンザワクチンと同様に製造過程で鶏卵を使用)の場合ですが、「授乳中に予防接種を受けることはできる。ワクチン成分が母乳を通じて乳児に影響を与えることはない」とされていました18)。米国疾病対策センター(CDC)の「インフルエンザと母乳」の項でも、授乳婦への不活化インフルエンザワクチン接種の安全性の記載があります19)。
†インフルエンザHAワクチンの電子化された添付文書の記載事項
9. 特定の背景を有する者に関する注意(抜粋)
9.1 接種要注意者(接種の判断を行うに際し、注意を要する者)
被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合は、健康状態及び体質を勘案し、診察及び接種適否の判断を慎重に行い、予防接種の必要性、副反応、有用性について十分な説明を行い、同意を確実に得た上で、注意して接種すること。
9.1.6 本剤の成分又は鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに対してアレルギーを呈するおそれのある者
Q 保存剤(チメロサールなど)の妊婦に対する影響について教えてください。
A 保存剤は細菌の繁殖を防ぐ目的で添加されます。わが国のインフルエンザHAワクチンには、エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム(チメロサール)が含まれている製品と含まれていない製品があります。
チメロサールに関しては、以前、発達障害との因果関係が指摘されていましたが、最近の疫学研究では、関連性は示されておりません20, 21)。米国CDCは「チメロサール含有ワクチンは長年、安全に使用されており、多くの研究において、ワクチンに含有されたチメロサールが健康被害を引き起こしたエビデンスはない」22)としています。WHOでも「ワクチンに含まれる微量なチメロサールと神経性副反応との因果関係を見出すことは困難」23)とコメントしています。
Q 不妊治療中でも接種は可能ですか?
A インフルエンザHAワクチンは、不活化ワクチンで生ワクチンではありませんので感染性はない24)ため、不妊治療中の接種により、妊娠成立後に胎児へ感染し影響を与える可能性はないと考えられます。仮に妊娠成立後にインフルエンザHAワクチンを接種したとしても、前述のとおり妊娠初期を含めた妊娠全期間での接種の危険性は低いと評価されています9, 11)。むしろ、妊娠初期に母体がインフルエンザに自然感染することによる胎内環境の悪化が、胎児へ影響する可能性があります。
妊孕性に対しては、インフルエンザHAワクチン接種による免疫賦活という点ではマイナスとなる推論は考えられますが、不活化ワクチン接種による妊孕性の低下や妊娠の中断を示唆する報告はなく、不活化ワクチンでの局所の免疫応答が妊孕性へ影響する可能性は低いと考えます。
なお、インフルエンザワクチンのうち、生ワクチンの使用に関しては、妊婦は全妊娠期間を通じて接種不適当者となります。生ワクチン接種前後の避妊期間は、理論的リスクを避けるために、あらかじめ約1カ月間避妊した後、妊娠していないことを確認して接種し、接種後は約2カ月間の避妊が必要であるとされています25)。
(山口 晃史)
※インフルエンザHAワクチンのご使用にあたっては、電子化された添付文書をご参照ください。
文献
1)山口晃史ほか:インフルエンザ. 11(1): 69-74, 2010.
2)Neuzil KM, et al.: Am J Epidemiol. 148(11): 1094-1102, 1998.
3)Irving WL, et al.: BJOG. 107(10): 1282-1289, 2000.
4)Hartert TV, et al.: Am J Obstet Gynecol. 189(6): 1705-1712, 2003.
5)Takeda S, et al.: J Infect Chemother. 21(4): 238-246, 2015.
6)CDC: MMWR Recomm Rep. 62(RR-07): 1-43, 2013.
7)Committee on Obstetric Practice and Immunization Expert Work Group; CDC(ACIP), ACOG: Obstet Gynecol. 124(3): 648-651, 2014.
8)Yamaguchi K, et al.: J Med Virol. 81(11): 1923-1928, 2009.
9)Horiya M, et al.: Obstet Gynecol. 118(4): 887-894, 2011.
10)Munoz FM, et al.: Am J Obstet Gynecol. 192(4): 1098-1106, 2005.
11)山口晃史ほか: 感染症学雑誌. 84(4): 449-453, 2010.
12)Zaman K, et al.: N Engl J Med. 359(15): 1555-1564, 2008.
13)Hisano M, et al.: Expert Rev Vaccines. 11(8): 903-905, 2012.
14)Benowitz I, et al.: Clin Infect Dis. 51(12): 1355-1361, 2010.
15)Nunes MC, et al.: Clin Infect Dis. 65(7): 1066-1071, 2017.
16)ACOG: Influenza in Pregnancy: Prevent and Treatment. August 2025.
https://www.acog.org/clinical/clinical-guidance/practice-advisory/articles/2025/08/influenza-in-pregnancy-prevention-and-treatment
(アクセス2026年5月26日現在)
17)予防接種ガイドライン等検討委員会: 予防接種ガイドライン2026年度版. 公益財団法人予防接種リサーチセンター. 2026.
18)厚生労働省: 新型インフルエンザ対策(A/N1H1)妊娠中の人や授乳中の人へ.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/ninpu_1217_2.pdf
(アクセス2026年5月28日現在)
19)CDC: Influenza (Flu) and Breastfeeding.
https://www.cdc.gov/breastfeeding-special-circumstances/hcp/illnesses-conditions/flu.html
(アクセス2026年5月28日現在)
20)Institute of Medicine(US) Immunization Safety Review Committee. Immunization Safety Review ― Vaccines and autism. The National Academies Press, 2004.
21)Price CS, et al.: Pediatrics. 126(4): 656-664, 2010.
22)CDC: Vaccine safety: Thimerosal and Vaccines.
https://www.cdc.gov/vaccine-safety/about/thimerosal.html?CDC_AAref_Val=https://www.cdc.gov/vaccinesafety/concerns/thimerosal/faqs.html
(アクセス2026年4月6日現在)
23)WHO: Thimerosal in vaccines(Wkly Epidemiol Rec. 87(30): 281-287, 2012).
24)CDC: Key Facts About Seasonal Flu Vaccine.
https://www.cdc.gov/flu/vaccines/keyfacts.html
(アクセス(2026年5月26日現在)
25)岡部信彦、多屋馨子:予防接種に関するQ&A集2025. p.43-44, 一般社団法人日本ワクチン産業協会. 2025.
http://www.wakutin.or.jp/medical/pdf/qa_2025.pdf#page=1
(アクセス2026年4月6日現在)
会員になると以下のコンテンツ、サイト機能をご利用いただけます。