インフルエンザQ&A

Q:妊婦・授乳婦や妊娠を考えている方がインフルエンザワクチンを接種する意義について教えてください。また、接種にあたって注意すべき点について教えてください。

A

妊娠中の母体は胎児という一種の外来抗原を寛容するために、免疫機構に変化が起こり非妊娠時に比べ易感染性となります。さらに、妊娠初期では悪阻による体力低下、中期以降は子宮の増大に伴う横隔膜の挙上と胸郭の側方への拡大、一回換気量の増加、必要酸素量の増加による肺への負荷、循環血漿量の増大による心臓への負荷が加わり、心肺機能の負担が非妊娠時と比べ大きくなります。これらのことより、妊婦のインフルエンザ感染症は重症化する傾向にあり1-4)、さらに、母体の感染による胎児へのリスクの増加に関する報告もされていることから5)、積極的なワクチン接種が世界的に勧められています6, 7)

解説

妊娠中のインフルエンザワクチン接種について

妊娠中のインフルエンザワクチン接種については、免疫原性と安全性という二つの視点から考察する必要性があります。免疫原性については、前述した理由により、妊娠という免疫機構の変化した状態での免疫応答で感染防御に十分な抗体を獲得することが可能であるか否かの評価であり、安全性については、母体への副反応、流・早産、催奇形、胎児の成長への影響についての評価です。免疫原性については、非妊娠時と変わらず被接種妊婦は十分な免疫を獲得することができるという報告があり5, 8, 9)、安全性についてはワクチン非接種妊婦と変わりがないという報告がなされています10, 11)

しかし、この結果はアジュバントを含まない不活化インフルエンザHAワクチンに限られており、今後登場してくると思われる孵化鶏卵由来のスプリットワクチン以外のMDCK細胞(イヌの腎臓由来の細胞)もしくはVero細胞(アフリカミドリザルの腎臓由来の細胞)由来のHAワクチンや孵化鶏卵由来の全粒子ワクチン、アジュバントを含むものや、生ワクチンなどについては、まだ安全性に関する情報は十分でなく、現時点では評価できていません。

【質問1】
妊婦・授乳婦がインフルエンザワクチンを接種するメリット・デメリットについて教えてください。

【回答1】
妊婦のワクチン接種によるメリットは、完全な感染防御は行えませんが、感染しても重症化することを防ぐ点で有効と評価されていることが一つです5, 12, 13)。また、母体の免疫獲得により、胎盤を介して胎児へも抗体が移行するため、妊娠中のインフルエンザワクチン接種は出生後の乳児のインフルエンザ感染の防御や重症化防止へのメリットもあります5, 12-14)。この乳児への免疫は約6カ月持続すると評価されており、ちょうど、乳児へのワクチン接種が有用でないと考えられている時期をカバーすることができます。また、最近では、妊婦へのインフルエンザワクチン接種により、生後3カ月までの児のインフルエンザ感染に続発して起こりやすい下気道感染症(細菌性・ウイルス性)による入院率を減少させることも報告されています15)

授乳婦のワクチン接種によるメリットは、母親自身の発症、重症化を防ぐことに加えて、直接的ではありませんが母親が感染予防することにより、乳児への伝播を防ぐことも一つでしょう。

妊婦のワクチン接種によるデメリットは、母体の副反応、アレルギーであると考えられますが、その発生頻度は妊娠の有無にかかわらず同等とされています。また、接種による自然流産、早産、胎児発育異常、奇形などのリスクに関しても増加するという報告はみられていません9, 11)

授乳婦のワクチン接種のデメリットは、妊婦同様、授乳婦自身の副反応やアレルギーと考えられます。なお、不活化ワクチンですので、ワクチン接種で母乳を介して乳児が感染することはないとされています。

 

【質問2】
製品添付文書は有益性での判断ですが、最終的には誰の判断でしょうか?

【回答2】
妊娠中のインフルエンザワクチン接種の安全性に関しては十分な情報が蓄積してきており、母子ともにその有用性が明らかとなっています。すでに世界的に接種が勧められてきており、近年では本邦においてもその認識が高まり、有用性を重視した判断が一般的となっています。

最終的に、接種の有益性の判断は接種医が行い、被接種者に下記のような助言をします。①インフルエンザに罹患すると妊婦は重症化しやすい、②インフルエンザワクチンの接種により、母子ともに免疫を獲得できる、③ワクチンを接種した場合、胎児への影響は自然発生的なリスクと変わらない、④副反応の発生率は非妊娠時と変わらない。このような説明に対して、被接種者の理解および接種の同意が得られた場合に、接種を実施することが大事です。

*電子添文の記載事項
9. 特定の背景を有する者に関する注意
9.5 妊婦

妊婦又は妊娠している可能性のある女性には予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。なお、小規模ながら、接種により先天異常の発生率は自然発生率より高くならないとする報告がある。

【質問3】
わが国の妊婦へのインフルエンザワクチン接種に関する情報を教えてください。

【回答3】
産婦人科診療ガイドライン - 産科編2020では、「妊婦へのインフルエンザワクチン接種はインフルエンザの予防に有効であり、母体および胎児への危険性は妊娠全期間を通じてきわめて低いと説明する」16)とされています。

また、季節的なワクチン接種のタイミングに関しては「インフルエンザワクチンの効果は、接種後約2週間後から約5か月とされている。わが国の流行は通常、1月上旬から3月上旬が中心であり、ワクチン接種時期は10~12月中旬を理想とする」16)とも記載されています。

 

【質問4】
産後(出産直後を含む)すぐに接種できますか?

【回答4】
可能です。不活化ワクチンですので、産後すぐに接種しても母体へ感染することはありません。ただし、出産直後は、出産に伴う合併症(細菌感染症など)や乳腺炎で発熱することがあり、ワクチンの副反応と混同する場合がありますので、十分な問診を行い接種することを勧めます。

 

【質問5】
授乳婦へのインフルエンザワクチン接種に関する情報を教えてください。

【回答5】
産婦人科診療ガイドライン - 産科編2020では、「授乳婦にインフルエンザワクチンを投与しても乳児への悪影響はないため、希望する褥婦にはインフルエンザワクチンを接種する」16)とされています。したがって、授乳婦がインフルエンザワクチン接種後に児に母乳を飲ませることは差し支えないといえます。

 

【質問6】
乳児に卵アレルギーの既往がある場合、その授乳婦への接種は可能でしょうか?

【回答6】
孵化鶏卵由来のスプリットワクチンでは、ロットによって差はみられますが、数ng/mL程度の卵白アルブミンが混入する可能性があります。しかし、母親への皮下接種後、卵白アルブミンが母体血流を介して母乳中へ移行する量はごく微量と推測され、その母乳から児へ吸収される量はさらに少ないと考えられます。したがって、乳児に卵アレルギーの既往がある場合に、その授乳婦へ接種をしても特にリスクの増大へは至らないと思われます。一方、妊娠期と同様に卵アレルギーがあり日常的に鶏卵の摂取を控えている授乳婦の方は、ワクチン接種を避けるのが妥当と考えます。

 

【質問7】
保存剤(チメロサールなど)の妊婦に対する影響について教えてください。

【回答7】
保存剤は細菌の繁殖を防ぐ目的で添加されます。わが国には、エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム(チメロサール)が含まれている製品と含まれていない製品があります。非妊婦に対する情報は多く、国内外でその安全性は報告されていますが、妊婦に対する情報は少なく、現時点では可否の判断は難しい状況と考えます17)

チメロサールに関しては、以前、発達障害との因果関係が指摘されていましたが、最近の疫学研究では、関連性は示されておりません18, 19)。米国では接種可能としており20)、WHOでも「ワクチンに含まれる微量なチメロサールと神経性副反応の因果関係を見出すことは困難」21)とコメントしています。

 

【質問8】
妊婦への保存剤含有ワクチン接種の位置づけについて教えてください。

【回答8】
保存剤がなくともワクチン製剤の有効性、安全性が保持できるのであれば無添加のほうがよりよいとの考え方から、各国ともワクチンから添加剤を除去する方向で努力を行っており、実際、添加剤非含有の製剤が存在します。したがって、保存期間は制限されますが、添加剤非含有の製剤を使用するほうが妥当と考えます。

産婦人科診療ガイドライン - 産科編2020では、「わが国のインフルエンザワクチンには、防腐剤としてエチル水銀(チメロサール)を含有している製剤と含有していない製剤がある。チメロサールを含んでいる製剤もその濃度は0.004~0.008mg/mLと極少量であり、胎児への影響はないとされている。懸念されていた自閉症との関連も否定された。したがって、チメロサール含有ワクチンを妊婦に投与しても差し支えない」16)とされています。

 

【質問9】
不妊治療中でも接種は可能ですか?

【回答9】
国内で承認されている季節性インフルエンザワクチンは、不活化ワクチンで生ワクチンではありませんので感染性はないため、不妊治療中の接種により、妊娠成立後に胎児へ感染し影響を与える可能性はないと考えられます。仮に妊娠成立後の接種であっても、前述のとおり妊娠初期を含めた妊娠全期間での接種の危険性はきわめて低いと評価されています16)。むしろ、妊娠初期に母体がインフルエンザに自然感染することによる胎内環境の悪化が、胎児へ影響する可能性があります。

妊孕性に対しては、ワクチン接種による免疫賦活という点ではマイナスとなる推論は考えられますが、不活化ワクチン接種による妊孕性の低下や妊娠の中断を示唆する報告はなく、不活化ワクチンでの局所の免疫応答が妊孕性へ影響する可能性は著しく低いと考えます。

胎児へ感染すると影響を与えうる感染症として、麻しん、風しん、水痘、おたふくかぜが挙げられ、これらに対する生ワクチンの使用に関しては、妊婦は全妊娠期間を通じて接種不適当者となります。生ワクチン接種前後の避妊期間は、添付文書に記載のない生ワクチンでも理論的リスクを避けるために、あらかじめ約1カ月間避妊した後、妊娠していないことを確認して接種し、接種後は約2カ月間の避妊が必要であるとされています22)

(山口 晃史)

※インフルエンザワクチンのご使用にあたっては、電子化された添付文書をご参照ください。

文献

1)Mullooly JP, et al.: Public Health Rep. 101(2): 205-211, 1986.

2)Neuzil KM, et al.: Am J Epidemiol. 148(11): 1094-1102, 1998.

3)Irving WL, et al.: BJOG. 107(10): 1282-1289, 2000.

4)Hartert TV, et al.: Am J Obstet Gynecol. 189(6): 1705-1712, 2003.

5)Takeda S, et al.: J Infect Chemother. 21(4): 238-246, 2015.

6)CDC: MMWR Recomm Rep. 62 (RR-07): 1-43, 2013.

7)Committee on Obstetric Practice and Immunization Expert Work Group; CDC (ACIP), ACOG: Obstet Gynecol. 124(3): 648-651, 2014.

8)Yamaguchi K, et al.: J Med Virol. 81(11): 1923-1928, 2009.

9)Horiya M, et al.: Obstet Gynecol. 118(4): 887-894, 2011.

10)Munoz FM, et al.: Am J Obstet Gynecol. 192(4): 1098-1106, 2005.

11)山口晃史, 他: 感染症学雑誌. 84(4): 449-453, 2010.

12)Zaman K, et al.: N Engl J Med. 359(15): 1555-1564, 2008.

13)Hisano M, et al.: Expert Rev Vaccines. 11(8): 903-905, 2012.

14)Benowitz I, et al.: Clin Infect Dis. 51(12): 1355-1361, 2010.

15)Nunes MC, et al.: Clin Infect Dis. 65(7): 1066-1071, 2017.

16)公益社団法人日本産科婦人科学会, 公益社団法人日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン-産科編2020, p.54-56, 2020.

17)Eldred BE, et al.: Med J Aust. 184(4): 170-175, 2006.

18)Institute of Medicine (US) Immunization Safety Review Committee. Immunization Safety Review―Vaccines and autism. The National Academies Press, 2004.

19)Price CS, et al.: Pediatrics. 126(4): 656-664, 2010.

20)CDC: Vaccine safety: Thimerosal FAQs. http://www.cdc.gov/vaccinesafety/concerns/thimerosal/faqs.html(アクセス2021年5月24日現在)

21)WHO: Thiomersal in vaccines(Wkly Epidemiol Rec. 87(30): 281-287, 2012).

22)岡部信彦,多屋馨子:予防接種に関するQ&A集. Q17-18 p.29-30, 一般社団法人日本ワクチン産業協会. 2020.


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