2020年10月から、異なるワクチンの接種間隔の規定が変更され、インフルエンザHAワクチンと他のワクチンとの接種間隔に制限がなくなりました。
例外とされていた新型コロナワクチンについても、2022年7月から、インフルエンザHAワクチンとの接種間隔の制限がなくなりました。同時接種も可能です。
2020年9月までわが国では、2種類以上の異なるワクチンについて同時接種を行うのでなければ、生ワクチン接種後は27日以上、不活化ワクチン接種後は6日以上の間隔をあけて次の異なるワクチンを接種すると定められていました1, 2)。その理由としては、ワクチン同士の干渉作用の可能性や有害事象が発生した場合の因果関係評価への影響が考えられていました3)。
一方、海外では、注射する生ワクチン同士は27日以上の間隔をあけますが、2種類以上の不活化ワクチンあるいは不活化ワクチンと生ワクチンはどんな間隔でも接種可能とする国が大多数です4, 5)。注射する生ワクチン同士以外は、接種間隔の差異はそれぞれのワクチンの反応にほとんど影響をおよぼさないと考えられているわけです。
2020年10月のロタウイルスワクチン定期接種化に際して、その他にも接種するワクチンの多い乳児期において確実な接種機会を確保する観点からも、接種間隔の規定変更に関する検討が行われました。その結果、注射する生ワクチン同士以外は、有効性や安全性の観点から接種間隔の規定変更について懸念される研究報告は見当たらず、制限が緩和されました6)。
現在の基本的な接種間隔として、生ワクチン接種後にインフルエンザHAワクチンを接種する場合、間隔についての制限はありません。不活化ワクチン接種後にインフルエンザHAワクチンを接種する場合も、同様に制限なしです。また、インフルエンザHAワクチンの接種後、次に異なるワクチンを接種するまでの接種間隔にも、制限はありません(図)。なお、インフルエンザHAワクチンを2回接種する場合は、適切な間隔を守ってください。
図. インフルエンザHAワクチンと他の予防接種との接種間隔
文献6,7)より作成
2022年7月から、新型コロナワクチンと他のワクチンとの接種間隔の規定が変更されました。新型コロナワクチンとインフルエンザHAワクチンとの接種間隔に規定はありません。同時接種も可能です。
なお、インフルエンザHAワクチン以外のワクチンと新型コロナワクチンは、これまで通り13日以上の間隔をあけます7)。
医師が必要と認めた場合、2種類以上の予防接種を同時に行うことができます(注:新型コロナワクチンとインフルエンザHAワクチン以外のワクチンとの同時接種はできない)。同時接種の利点には、接種率の向上、複数の疾患に対する免疫の早期獲得、被接種者や保護者の経済的・時間的負担軽減、医療者の時間的負担の軽減が挙げられます。「医師が必要と認めた場合」の具体的な指針はありませんが、「安全な予防接種を維持し、被接種者の健康を守るためには、実施する医師の医学的に適切な判断に委ねられる」8)ならば、複数の疾患に対する免疫を急いでつけたい場合なども該当するでしょう。
同時接種を行う際には、次の点について留意する必要があります。①複数のワクチンを1つのシリンジ(注射器)に混ぜて接種しない、②接種部位を変える、③近い部位に接種する際は、少なくとも2.5cm以上あける9)。
同時接種するワクチンの組み合わせや可能なワクチンの本数について、「予防接種ガイドライン」10)で特に規定されていません。同時接種は医師が判断して実施するものですが、被接種者や保護者には単独接種も可能であることを説明し、相談のうえ決定することが大事です。Hibワクチンおよび沈降13価肺炎球菌結合型ワクチンの電子化された添付文書の「重要な基本的注意」の項には、「本剤と他のワクチンを同時に同一の被接種者に対して接種する場合は、それぞれ単独接種することができる旨の説明を行うこと。特に、被接種者が重篤な基礎疾患に罹患している場合は、単独接種も考慮しつつ、被接種者の状態を確認して慎重に接種すること」との記載があります9)。
同時接種の有効性や安全性については、インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンとの同時接種に関して、海外の無作為化比較試験(単独接種群との比較)で有効性と安全性が確認されています11)。不活化インフルエンザワクチンと肺炎球菌多糖体ワクチン(PPSV23)との同時接種では、米国CDCは、「有害事象の発生率や重度を増加させることなく十分な免疫応答を誘導する。これらワクチンの適応がある者への同時接種は推奨される」としています。また、2010/2011シーズンに乳幼児において、不活化インフルエンザワクチン(IIV)と結合型13価肺炎球菌ワクチン(PCV13)の同時接種後、熱性けいれんの安全性シグナルがサーベイランスシステムで検知されたことから調査を行いました。その結果、熱性けいれんのリスクは生後16カ月がピークであり、2種類のワクチンを同時接種した際により起こりやすく、発生頻度はワクチン接種児2,200人に1人でした。リスクとベネフィットを勘案して、CDCの予防接種諮問委員会(ACIP)は「IIVとPCV13の同時接種が推奨される場合には勧められる」としています12)。国内でもエビデンスがさらに集積されることが必要です。
なお、「同時接種」は「同じ医療機関で続けて同時に接種を行うこと」ですが、「同じ日に、異なる医療機関において、違う種類のワクチンの接種を行うこと」は「同日接種」と一般的に呼ばれます。接種間隔の制限が緩和されたことで、注射する生ワクチン同士や新型コロナワクチン以外では、同日接種の制限も緩和されたことになります。ただし、現場で最も大切なことは、より有効でかつ安全・安心な接種を行うことです。その原則をふまえて実践いただければと思います。
(中野 貴司)
文献
1)予防接種ガイドライン等検討委員会: 予防接種ガイドライン2020年度版. 公益財団法人予防接種リサーチセンター. 2020.
2)予防接種ガイドライン等検討委員会: インフルエンザ・肺炎球菌感染症(B類疾病)予防接種ガイドライン2019年度版. 公益財団法人予防接種リサーチセンター. 2019.
3)中野貴司: 小児科. 54(12): 1651-1660, 2013.
4)American Academy of Pediatrics: Red Book 2018-2021. 2018.
5)CDC: The Pink Book: Course textbook. 14th edition. 2021.
6)厚生労働省: ワクチンの接種間隔の規定変更に関するお知らせ.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/rota_index_00003.html(アクセス2023年4月25日現在)
7)厚生労働省: 新型コロナウイルス感染症に係る臨時の予防接種実施要領.
8)竹中郁夫: 日本医事新報. 4542: 64-65, 2011.
9)岡部信彦, 多屋馨子: 予防接種に関するQ&A集 2022. Q13 p.54-55, 一般社団法人日本ワクチン産業協会. 2022.
10)予防接種ガイドライン等検討委員会: 予防接種ガイドライン2023年度版. 公益財団法人予防接種リサーチセンター. 2023.
11)第33回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会. 資料1. 2022年7月22日.
12)CDC: Timing and Spacing of Immunobiologics. General Best Practice Guidelines for Immunization. Updated February 10, 2023.
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