インフルエンザQ&A

Q:小児におけるインフルエンザHAワクチンの用法及び用量と有効性・安全性について教えてください。

A

インフルエンザHAワクチンの接種量は、生後6カ月以上3歳未満で0.25mL、3歳以上で0.5mLであり、13歳未満は2回接種です。このワクチンは、小児にも有効性を示しています。

解説

1. 用法及び用量

わが国のインフルエンザHAワクチンの小児の接種量・接種回数・接種間隔はのようになっています。すなわち、6カ月以上3歳未満の者には0.25mLを2回、3歳以上13歳未満の者には0.5mLを2回、いずれもおよそ2~4週間の間隔をおいて接種します。13歳以上の者は、0.5mLを1回またはおよそ1~4週間の間隔をおいて2回接種します。接種間隔は、13歳未満と13歳以上では電子化された添付文書上の記載が異なりますが、免疫効果を考慮すると4週間おくことが望ましいとされています。早期産であっても、歴年齢に従って接種します1)
出生時体重別の接種量もありません。3歳で接種量が変わるので、3歳をまたぐ場合には、初回0.25mL、2回目0.5mLとなることがあります。

表 インフルエンザHAワクチンの接種量・接種回数・接種間隔

(公財)予防接種リサーチセンター「インフルエンザ・肺炎球菌感染症(B類疾病)予防接種ガイドライン2022年度版」p.36-37から転載(一部改変)

2.用法及び用量から見た有効性

インフルエンザHAワクチンの免疫原性の評価として、欧州医薬品庁(EMA)の3基準が用いられています。

3基準とは、抗体陽転率>40%、平均抗体価上昇率>2.5倍、抗体陽性率>70%です2)。EMAは、季節性インフルエンザワクチンでは含まれる4種類のインフルエンザウイルスすべてに3基準のうちひとつ以上を満たすことを求めています。

インフルエンザHAワクチンの接種が1回でよいのは、1回の接種でインフルエンザウイルスA(H1N1)型、A(H3N2)型、B型(山形系統)、B型(ビクトリア系統)の4種類とも、上記の基準を満たす場合であり、2回接種を必要とするのは、1回の接種では基準を満たさず、2回の接種で基準を満たす場合です。免疫記憶がある場合、季節性インフルエンザワクチンを1回接種して免疫が賦活されると、2~4週後に追加接種しても更なる抗体価の上昇は認められません。また、不活化ワクチンでは、初回接種でも追加接種でも、接種する1回の抗原量が多いほど高い抗体価を得られることが期待できます。
免疫の基礎を作るためには強い刺激(多い抗原量)が必要です。

わが国では、インフルエンザHAワクチンを製造している4社が、3価インフルエンザHAワクチンを用いて、ワクチン接種量の見直し研究を行いました。海外の標準接種量で接種すると、3~13歳未満群では、1回の接種でA(H1N1)2009型、A(H3N2)型、B型のいずれもEMAの3基準を満たしましたが、6カ月~3歳未満群では、A(H1N1)2009型、B型で2回接種を必要とする結果でした3)

米国では、2022/2023シーズンの推奨として、2022年7月1日以前に2回以上の接種歴がある場合には、乳幼児(生後6カ月~8歳)であってもその年の接種は1回でよいとしました。接種歴が2回未満や不明の者には、インフルエンザウイルスに対する免疫記憶が十分でないため、初年度には2回接種が必要であるとされています4)

3.用法及び用量から見た安全性

インフルエンザHAワクチンの接種量を変更した後の市販後の特定使用成績調査において副反応発現率は、6カ月以上1歳未満13.58%、1歳以上3歳未満28.18%、3歳以上6歳未満49.69%、6歳以上9歳未満51.74%、9歳以上13歳未満50.63%と、3歳未満群のほうが低率でした。副反応の多くは注射局所の反応であり、発熱は全年齢での合計が3.67%と低率で、既知および未知の副反応ともに重篤な例は認められませんでした5)

4.実際の有効性

年齢、型、ワクチン株と流行株との抗原性の一致不一致によって毎年大きく異なりますので、毎年評価が必要です。ワクチンの効果X%とは、ワクチンを接種しないで発症した者のうち、そのX%の方はワクチンを接種していれば罹患しないで済んだはずであることを示します。

近年よく使用されるTest-negative case-control design(症例対照研究の亜型)という手法を用いた厚生労働省の研究では、2013/2014~2017/2018シーズンの6歳未満児における1回接種の有効率は33~57%、2回接種の有効率は41~63%であり、2回接種の有効率はすべてのシーズンで統計学的に有意であったと報告されました6)。また、B型では2回接種でのみ有意な効果を認めることもあります7)。一方で、2018/2019~2019/2020シーズンで、接種量の少ない3歳未満児においては、1回接種の有効率は73~83%で、統計学的に有意であったと報告されました8)。同じ手法で、臨床現場で迅速抗原検査を用いた場合、A(H1N1)pdm09が流行の主流であるときのA型の効果は60%前後、A(H3N2)が主流であるときのA型の効果は40%前後、B型の効果は35%前後でいずれも有意でした7, 9-13)
2013/2014~2019/2020シーズンをまとめて調整を加えた解析(N=29,400)においても、A型全体で44%(95%信頼区間:41-47%)、A(H1N1)pdm09で63%(95信頼区間: 51-72%)、B型で37%(95%信頼区間:32-42%)でした14)

6カ月から1歳未満の乳児は、2018/2019シーズン13)を除き、統計学的に有意な効果は示されませんでした7, 9-13)が、COVID-19流行直前の7シーズンをまとめて解析すると、A型については36%(95%信頼区間:10-55%)で有意でした14)。また、基礎疾患や免疫抑制状態によって、効果は減弱する可能性があります15)。近年では、発育鶏卵中で増殖中に、元の野生株と比べて抗原性が変化してしまうこと(p2「卵馴化」参照)も報告されています16)

このように、インフルエンザHAワクチンの有効性は、さまざまな条件により毎年変動がみられ限界もあります。
しかし、ワクチン株と流行株の抗原性が一致したときには効果が高いこと、乳幼児はインフルエンザに罹患すると重症化しやすいですが、ワクチンには重症化や死亡の予防にある程度の効果があること17)(米国では、小児のインフルエンザによる死亡に対するワクチン効果は65%という報告があります18))、また、より多くの方が接種することにより、接種できない方も守る「集団免疫効果」の観点からも、可能な児に対しては接種によって予防することが重要と考えられます。

なお、生後6カ月未満の児には接種しません。しかし、妊娠中の母親へインフルエンザHAワクチンを接種することで、妊婦のみならず、出生後約6カ月までの児に対しても効果的であることが報告されています19)

5.小児の熱性けいれんについて

日本小児神経学会の見解(2022年10月)によれば、「現行の予防接種はすべて行って差し支えない」ですが、「保護者に対し、個々の予防接種の有用性、副反応(発熱の時期やその頻度他)、などについての十分な説明と同意に加え、具体的な発熱等の対策(けいれん予防を中心に)や、万一けいれんが出現した時の対策を指導」しておくことが必要とされています20)。さらに詳細については、「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」21)を参照してください。

( 新庄 正宜)

文献

1)Bonhoeffer J, et al.: Arch Dis Child. 91(11): 929-935, 2006.

2)The European Agency for the Evaluation of Medicinal Products: Harmonisation of requirements for influenza vaccines. CPMP/BWP/214/96, March 1997.
http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Scientific_guideline/2009/09/WC500003945.pdf(アクセス2023年3月6日現在)

3)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構: 審議結果報告書(平成23年8月2日).
http://www.pmda.go.jp/drugs/2011/P201100137/47003800_16100EZZ01207_A100_1.pdf(アクセス2023年3月6日現在)

4)Grohskopf LA, et al.: MMWR Recomm Rep.70(1): 1-28, 2022.
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/rr/rr7101a1.htm(アクセス2023年3月6日現在)

5)デンカ生研株式会社: インフルエンザHAワクチン「生研」特定使用成績調査 集計結果のお知らせ. 2013年8月.

6)福島若葉, 他:IASR. Vol. 40 p.194-195: 2019年11月号.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2471-related-articles/related-articles-477/9236-477r07.html(アクセス2023年3月6日現在)

7)Shinjoh M, et al.: Vaccine. 37(30): 4047-4054, 2019.

8)福島若葉, 他:IASR. Vol. 42 p.255-257: 2021年11月号.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2545-related-articles/related-articles-501/10787-501r06.html(アクセス2023年3月6日現在)

9)Shinjoh M, et al.: PLoS One. 10(8): e0136539, 2015.

10)Sugaya N, et al.: Euro Surveill. 21(42): 30377, 2016.

11)Sugaya N, et al.: Vaccine. 36(8): 1063-1071, 2018.

12)Shinjoh M, et al.: Vaccine. 36(37): 5510-5518, 2018.

13)Shinjoh M, et al.: PLoS One. 16(3): e0249005, 2021.

14)Shinjoh M, et al.: Vaccine. 40(22): 3018-3026, 2022.

15)CDC: MMWR Recomm Rep. 62(RR-07): 1-43, 2013.

16)Kishida N, et al.: Clin Vaccine Immunol. 19(6): 897-908, 2012.

17)厚生労働省: 令和4年度インフルエンザQ&A. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkakukansenshou/infulenza/QA2022.html(アクセス2023年3月6日現在)

18)Flannery B, et al.: Pediatrics. 139(5): e20164244, 2017.

19)Takeda S, et al.: J Infect Chemother. 21(4): 238-246, 2015.

20)予防接種ガイドライン等検討委員会: 予防接種ガイドライン2023年度版. 公益財団法人予防接種リサーチセンター. 2023.

21)日本小児神経学会 監修: 熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023. 診断と治療社. 2023.


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