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インフルエンザQ&A

Q1:2025/2026シーズンのインフルエンザHAワクチンとその有効性について教えてください。インフルエンザの予防には、ワクチン接種を毎年継続したほうがよいですか?

A

インフルエンザHAワクチンの有効性は、被接種者の年齢や免疫応答・流行株とワクチン株との抗原性の一致度など種々の条件により異なりますが、インフルエンザの発症・重症化・死亡の予防に一定の効果があるとされています1)

インフルエンザHAワクチンの効果の持続期間は約5カ月であること、ワクチン株は世界および国内のインフルエンザウイルスの流行状況から毎年のように変更が行われることから、毎年接種することが勧められます2)

解説

インフルエンザHAワクチン株の選定プロセス

インフルエンザHAワクチンに使用されるウイルス株は、毎年選定が行われています。WHOは、世界におけるワクチン推奨株を毎年2回(南半球のシーズン前に1回、次いで北半球のシーズン前に1回)選定して発表しており3)、わが国では、2018/2019シーズンから以下のプロセスで、インフルエンザHAワクチンの国内製造株が選定されています。

まず、国立健康危機管理研究機構で(外部専門家を交えて)、WHOの推奨株を参考にしながら、国内での流行状況・流行株の解析情報・国民の血清抗体保有状況などから、次シーズンに流行の主流となりそうなウイルス株の候補を挙げます。次に、ワクチンメーカーにより候補株のたん白質収量など生産性に関する評価が行われ、供給本数が予想されます。これらの情報をもとにして、次に、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会の下に設置された「季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会(委員長: 坂元 昇 川崎市健康福祉局 医務監)」において議論が行われます。小委員会では、各候補株を有効性および生産可能性の観点から検討します。ここで集約された意見をふまえて、厚生労働省が最終決定し通知が発出され4)、これに基づいてワクチンメーカーは製造を行います。このように、インフルエンザHAワクチンの株選定では、有効性のみならず安定供給面も含めて、総合的に勘案して最適と判断された株が選定されています。

2025/2026シーズンのワクチン株

2025/2026シーズンのインフルエンザHAワクチンの製造株は、次の通りです。2024/2025シーズンと比較すると、大きな変更点は価数の変更で、従来のA型2価・B型2価の計4価から、B型を1価とした3価へ切り替えられます5, 6)

近年の流行状況として、2020年3月以降、B(山形系統)株は世界的に検出されなくなりました。そのため、WHOはB(山形系統)株による感染リスクは非常に低いとして、この株を取り除いた3価のインフルエンザワクチンを推奨しています3)。この推奨に従い世界的に3価ワクチンとなるなか、日本でも、2025/2026シーズンからインフルエンザHAワクチンは3価になります。また、昨シーズンと比べて、A(H3N2)株が変更されました(5, 6)

ワクチン株の選定理由の詳細は、例年、「病原微生物検出情報(IASR)」に掲載されます。国立健康危機管理研究機構のホームページ7)で閲覧できますので、参照してください。

図. 2025/2026シーズンのインフルエンザHAワクチン製造株

文献5,6)より作図

インフルエンザHAワクチンの有効性

インフルエンザに罹患すると、特に高齢者や、年齢を問わず呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患をもつ患者さん、糖尿病などの代謝疾患、免疫機能が低下している患者さんでは、原疾患の増悪とともに、呼吸器に二次的な細菌感染症を起こしやすくなり、入院や死亡の危険が増加します。小児では中耳炎の合併、熱性けいれんや気管支喘息の誘発、まれではありますが急性脳症などの重症合併症があらわれることもあります2)。インフルエンザHAワクチンを接種すればインフルエンザに絶対に罹患しないというものではありませんが、ある程度の発病を阻止する効果があり、前述のような重症化を阻止する効果があります1)

インフルエンザHAワクチンの有効性に関して多くの調査研究が行われていますが、調査する対象(年齢など)・調査地域・調査時期、また、流行株とワクチン株の抗原性の一致度など種々の条件により異なります。まず、年齢に関して、厚生労働省の「インフルエンザワクチン(季節性)」1)では、「65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については34~55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があったとされています」8)、「乳幼児のインフルエンザワクチンの有効性に関しては、報告によって多少幅がありますが、おおむね20~60%の発病防止効果があったと報告されています9, 10)。乳幼児の重症化予防に関する有効性を示唆する報告も散見されます」11)と記載されています。

また、基礎疾患をもつ方や治療薬を投与中の方など、被接種者の免疫応答によっても有効性は異なります。

さらに、インフルエンザHAワクチンの有効性は、流行株とワクチン株の抗原性の一致度によっても異なります。流行株とワクチン株の抗原性が一致すれば効果は高くなりますが、抗原性の一致度が低いと効果は低下します。インフルエンザウイルスの流行株は毎年のように少しずつ変異します。ワクチン株もそれに合わせるように毎年変更されますが、ワクチン製造過程における抗原変異(卵馴化)の課題もあります。

まとめとして、インフルエンザHAワクチンの有効性は種々の条件により差があり、また限界もあります。しかし、ワクチン接種により完全な予防は難しくとも一定の重症化や死亡の予防効果はあること、他の呼吸器疾患、例えば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行時にインフルエンザ感染のリスクを下げておく、また、接種可能な方が接種を受けることにより、接種の効果が比較的低いとされる乳幼児や医学的理由で接種できない方などを間接的にインフルエンザ感染から守るためにも、接種することのメリットは大きいと思われます。

卵馴化(たまごじゅんか): インフルエンザワクチンは発育鶏卵を用いて製造されますが、ウイルスを発育鶏卵の中で増えやすくするためには馴化(じゅんか)させなければなりません。馴化とは、ウイルスを発育鶏卵で複数回増やし、発育鶏卵での増殖に適応させることです。このような馴化の過程で、ウイルスの遺伝子に変異が起きる場合があります。

遺伝子に変異が起きた場合、実際に流行しているインフルエンザウイルス(流行株)と、ワクチン株とで、免疫への作用の程度に違い(抗原性の乖離)が認められる場合があります。しかしながら、そのような場合であっても、ヒトでは一定程度の有効性が保たれることが、疫学的な研究により明らかとなっています。この理由として、ヒトは、インフルエンザウイルスの抗原性の乖離の程度を調べるために用いられている実験動物とは異なり、毎年の流行に曝露されることで一定の交差反応性のある抗体を有しているためと考えられています1)

毎年、ワクチン接種が勧められる理由

前述のように、インフルエンザHAワクチンは、流行予測などからそのシーズンに適したウイルス株が毎年選定され製造されますので、前シーズンのワクチンでは対応できないことがほとんどです。たとえ有効期限が切れていなくても、前シーズンのワクチンは使用しないほうが賢明です。また、わが国で使用されているインフルエンザHAワクチンの有効性が持続する期間は約5カ月とされています。したがって、個人差はありますが、前シーズンに接種していても抗体価は減衰している可能性が高く、毎年接種することが勧められます2)

なお、COVID-19流行下の2020/2021および2021/2022シーズンは、2シーズン連続してインフルエンザの流行はみられませんでした。2022/2023シーズンは、再びインフルエンザウイルスの活動性が高まり、小規模ながら流行的発生となり、2023年の夏になっても少数ながら患者発生が続くという、これまでにない流行パターンとなりました。2023/2024シーズンは、前シーズンの発生が消えないままシーズンがスタートし、秋口から年末にかけての流行が発生しました。これは、通常のインフルエンザではみられないパターンでしたが、新型インフルエンザとして発生したH1N1pdmの2009年秋の流行と類似しています。2024年に入ってからは、従来のインフルエンザ流行パターンとなりましたが、その規模は前年(2023年)より高いものの、これまでに比べて低い規模での流行に留まりました。

そして、2024/2025シーズンは、2024年11月末ごろから患者数が急激に増加し、年内に過去最大級の発生となりました。2025年の年明けから2月中旬にかけて急速に減少した後は、4月まで流行が収束しないだらだらとしたパターンになり、次第に従来の様な稀な発生となりました。2024年内の流行はA(H1)が中心で、2025年の年明けからは、A(H3)ならびにB型、時にA(H1)が混在する流行となりました。

このように、COVID-19発生以降のインフルエンザの流行パターンは、それまでとは著しく異なっており、今シーズンがどのような流行パターンになるかの予測は難しいところです。しかし、インフルエンザは今後も規模の大小はありますが、流行的な発生が必ずあると考えられるところから、今シーズンもこれまでと同様にインフルエンザワクチンの接種をお勧めします。

(岡部 信彦)

文献

1)厚生労働省:インフルエンザワクチン(季節性).
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/influenza/index.html(アクセス2025年4月3日現在)

2)予防接種ガイドライン等検討委員会: B類疾病予防接種ガイドライン2024年度版. 公益財団法人予防接種リサーチセンター. 2024.

3)WHO: Recommended composition of influenza virus vaccines for use in the 2025-2026 northern hemisphere influenza season. February 2025.
https://www.who.int/publications/m/item/recommended-composition-of-influenza-virus-vaccines-for-use-in-the-2025-2026-nh-influenza-season(アクセス2025年4月3日現在)

4)第1回厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチンの製造株について検討する小委員会. 資料2-3. 2018年4月11日.
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000203186.pdf( アクセス2025年4月3日現在)

5)厚生労働省: 感発0530第3号. 2025年5月30日.

6)厚生労働省: 感発0425第9号. 2024年4月25日.

7)国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト: https://id-info.jihs.go.jp/(アクセス2025年4月3日現在)

8)平成11年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業「インフルエンザワクチンの効果に関する研究. 主任研究者: 神谷 齊(国立療養所三重病院)」.

9)平成14年度 厚生科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業「乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に関する研究. 研究代表者:神谷 齊(国立病院機構三重病院)・加地正郎(久留米大学)」.

10)平成28年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究. 研究代表者: 廣田良夫(保健医療経営大学)」.

11)Katayose M, et al.: Vaccine. 29(9): 1844-1849, 2011.


関連ページ

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