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インフルエンザQ&A

Q:2024/2025シーズンのインフルエンザHAワクチンとその有効性について教えてください。インフルエンザの予防には、ワクチン接種を毎年継続したほうがよいですか?

A

現在、わが国で使用されているインフルエンザHAワクチンには、A型2種類およびB型2種類のウイルス株が含まれています。インフルエンザHAワクチンの有効性は、被接種者の年齢や免疫応答・流行株とワクチン株との抗原性の一致度など種々の条件により異なりますが、インフルエンザの発症・重症化・死亡の予防に一定の効果があるとされています1)。インフルエンザHAワクチンの効果の持続期間は約5カ月であること、ワクチン株は世界および国内のインフルエンザウイルスの流行状況から毎年のように変更が行われることから、毎年接種することが勧められます2)

解説

1.インフルエンザHAワクチン株の選定プロセスと2024/2025シーズンのワクチン株

インフルエンザHAワクチンに使用されるウイルス株は、毎年選定が行われています。WHOは、世界におけるワクチン推奨株を毎年2回(南半球のシーズン前に1回、次いで北半球のシーズン前に1回)選定して発表しており3)、わが国では、2018/2019シーズンから以下のプロセスで、インフルエンザHAワクチンの国内製造株が選定されています。

まず、国立感染症研究所で(外部専門家を交えて)、WHOの推奨株を参考にしながら、国内での流行状況・流行株の解析情報・国民の血清抗体保有状況などから、次シーズンに流行の主流となりそうなウイルス株の候補を挙げます。次に、ワクチンメーカーにより候補株のたん白質収量など生産性に関する評価が行われ、供給本数が予想されます。これらの情報をもとにして、次に、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会の下に設置された「季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会(委員長: 坂元 昇 川崎市健康福祉局 医務監)」において議論が行われます。小委員会では、各候補株を有効性および生産可能性の観点から検討します。ここで集約された意見をふまえて、厚生労働省が最終決定し通知が発出され4)、これに基づいてワクチンメーカーは製造を行います。
このように、インフルエンザHAワクチンの株選定では、有効性のみならず安定供給面も含めて、総合的に勘案して最適と判断された株が選定されています。

2024/2025シーズンの製造株は、次の通りです。
2023/2024シーズンと比較すると、A(H3N2)株が変更されました。他の3つの株は変更ありません(5, 6)
ワクチン株の選定理由の詳細は、例年、「病原微生物検出情報(IASR)」に掲載されます。国立感染症研究所のホームページ7)で閲覧できますので、参照してください。

図. 2024/2025シーズンのインフルエンザHAワクチン製造株 

文献5,6)より作図

2.インフルエンザHAワクチンの有効性

インフルエンザに罹患すると、特に高齢者や、年齢を問わず呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患をもつ患者さん、糖尿病などの代謝疾患、免疫機能が低下している患者さんでは、原疾患の増悪とともに、呼吸器に二次的な細菌感染症を起こしやすくなり、入院や死亡の危険が増加します。小児では中耳炎の合併、熱性けいれんや気管支喘息の誘発、まれではありますが急性脳症などの重症合併症があらわれることもあります2)。インフルエンザHAワクチンを接種すればインフルエンザに絶対に罹患しないというものではありませんが、ある程度の発病を阻止する効果があり、前述のような重症化を阻止する効果があります1)

インフルエンザHAワクチンの有効性に関して多くの調査研究が行われていますが、調査する対象(年齢など)・調査地域・調査時期、また、流行株とワクチン株の抗原性の一致度など種々の条件により異なります。まず、年齢に関して、厚生労働省の「インフルエンザQ&A」1)では、「65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については34~55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があったとされています」8)、「乳幼児のインフルエンザワクチンの有効性に関しては、報告によって多少幅がありますが、おおむね20~60%の発病防止効果があったと報告されています9, 10)。また、乳幼児の重症化予防に関する有効性を示唆する報告も散見されます」11)と記載されています。

また、基礎疾患をもつ方や治療薬を投与中の方など、被接種者の免疫応答によっても有効性は異なります。

さらに、インフルエンザHAワクチンの有効性は、流行株とワクチン株の抗原性の一致度によっても異なります。流行株とワクチン株の抗原性が一致すれば効果は高くなりますが、抗原性の一致度が低いと効果は低下します。インフルエンザウイルスの流行株は毎年のように少しずつ変異します。ワクチン株もそれに合わせるように毎年変更されますが、ワクチン製造過程における抗原変異(卵馴化)の課題もあります。

まとめとして、インフルエンザHAワクチンの有効性は種々の条件により差があり、また限界もあります。
しかし、ワクチン接種により完全な予防は難しくとも一定の重症化や死亡の予防効果はあること、他の呼吸器疾患、例えば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行時にインフルエンザ感染のリスクを下げておく、また、接種可能な方が接種を受けることにより、接種の効果が比較的低いとされる乳幼児や医学的理由で接種できない方などを間接的にインフルエンザ感染から守る効果もあるので、接種することのメリットは大きいと思われます。

*卵馴化(たまごじゅんか): インフルエンザワクチンの製造でインフルエンザウイルスを鶏卵で増殖する際に、抗原部位などにアミノ酸置換による変異が生じ抗原性が変化する傾向があり、特にA(H3N2)においてみられます。ワクチンの効果が減弱する可能性がある12)一方、卵馴化による変化と臨床的な効果とは必ずしも一致するものではないとする疫学調査もあり、その効果に関する判断は慎重に行う必要があります。

3.毎年、ワクチン接種が勧められる理由

前述のように、インフルエンザHAワクチンは、流行予測などからそのシーズンに適したウイルス株が毎年選定され製造されますので、前シーズンのワクチンでは対応できないことがほとんどです。たとえ有効期限が切れていなくても、前シーズンのワクチンは使用しないほうが賢明です。また、わが国で使用されているインフルエンザHAワクチンの有効性が持続する期間は約5カ月とされています。したがって、個人差はありますが、前シーズンに接種していても抗体価は減衰している可能性が高く、毎年接種することが勧められます2)

なお、COVID-19流行下の2020/2021および2021/2022シーズンは、2シーズン連続してインフルエンザの流行はみられませんでした。2022/2023シーズンは、再びインフルエンザウイルスの活動性が高まり、小規模ながら流行的発生となりました。しかし、2023年の夏になっても少数ながら患者発生が続くという、これまでにない流行パターンとなりました。そして、2023/2024シーズンは、前シーズンの発生が消えないままシーズンがスタートし、秋口から年末にかけての流行が発生しました。これは、通常のインフルエンザではみられないパターンですが、新型インフルエンザとして発生したH1N1 pdmの2019年秋の流行と類似しています。そして、2024年に入ってからは、従来のインフルエンザ流行パターンとなりましたが、その規模は前年(2023年)より高いものの、これまでに比べて低い規模での流行に留まりました。2024/2025シーズンのインフルエンザの流行がどのようになるかの予測はさらに難しいと考えられますが、必ず発生すると考えられるところから、今シーズンも、毎シーズンと同様にインフルエンザワクチンの接種をお勧めします。

(岡部 信彦)

文献

1)厚生労働省: 令和5年度インフルエンザQ&A.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2023.html(アクセス2024年4月1日現在)

2)予防接種ガイドライン等検討委員会: インフルエンザ・肺炎球菌感染症(B類疾病)予防接種ガイドライン2023年度版. 公益財団法人予防接種リサーチセンター. 2023.

3)WHO: Recommendations announced for influenza vaccine composition for the 2024-2025 northern hemisphere influenza season.23 February 2024.
https://www.who.int/news/item/23-02-2024-recommendations-announced-for-influenza-vaccine-composition-for-the-2024-2025-northern-hemisphere-influenza-season(アクセス2024年4月1日現在)

4)第1回厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチンの製造株について検討する小委員会. 資料2-3. 2018年4月11日.
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000203186.pdf(アクセス2024年4月1日現在)

5)厚生労働省: 感発0425第9号. 2024年4月25日.

6)厚生労働省: 健発0427第1号. 2023年4月27日.

7)国立感染症研究所ホームページ: https://www.niid.go.jp/niid/ja/(アクセス2024年4月1日現在)

8)平成11年度 厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業「インフルエンザワクチンの効果に関する研究. 主任研究者: 神谷 齊(国立療養所三重病院)」.

9)平成14年度 厚生科学研究費補助金 新興・再興感染症研究事業「乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に関する研究. 研究代表者:神谷 齊(国立病院機構三重病院)・加地正郎(久留米大学)」.

10)平成28年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究. 研究代表者: 廣田良夫(保健医療経営大学)」.

11)Katayose M, et al.: Vaccine. 29(9): 1844-1849, 2011.

12)国立感染症研究所ほか: IASR. Vol. 35 p.269-271: 2014年11月号.


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