インフルエンザHAワクチンは65歳以上の高齢者に対して、通常、1回接種が推奨されています。それは、1回接種でインフルエンザ罹患時の重症化予防、インフルエンザによる死亡を予防する効果が検証されているからです。
13歳以上65歳未満の方へのインフルエンザHAワクチン接種は、1回か2回かの判断が接種医に委ねられています。健康成人や基礎疾患(慢性疾患)のある方を対象として行われた研究から、0.5mLの1回接種で、2回接種と同等の抗体価の上昇が得られるとの報告があることから、13歳以上の方は、1回接種が原則となっています。ただし、13歳以上の基礎疾患(慢性疾患)のある方で、著しく免疫が抑制されている状態にあると考えられる方などは、医師の判断で2回接種となる場合があります1, 2)。
2回接種の場合の間隔は1~4週間(13歳未満は2~4週間)とされていますが、できるだけ3~4週間の間隔をあけて接種したほうが免疫の獲得はよいといわれています。米国では8歳以下は2回接種、9歳以上は1回接種としています。
適切な接種時期については、遅くとも12月中旬までに接種を完了することが望まれます。
厚生科学研究「インフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者:神谷 齊)」により、65歳以上の高齢者に対するインフルエンザHAワクチン1回接種後の抗体反応は良好であり、重症化予防ならびにインフルエンザによる死亡予防効果が検証されたことから、65歳以上の方については1回接種が推奨されています3)。
小児(生後6カ月~13歳未満)へのインフルエンザHAワクチン接種は、年齢によって接種用量は異なりますが、日本ではいずれも2回接種となっています(表)。
一方、13歳以上65歳未満の方へのインフルエンザHAワクチン接種については、年少の小児・高齢者に比して、国内での接種者数は少なく、十分な検討が行われているわけではありませんが、2009年のインフルエンザパンデミックの際、国産のインフルエンザHAワクチン(H1N1株)の接種回数に関する検討が行われました。この検討結果から、①13歳未満の方は2回接種、②それ以外の方は1回接種、とされました。
一般に、年長児や青壮年層は、インフルエンザの罹患歴があったり、ワクチン接種歴があることなどにより、ある程度の免疫を有していると考えられ、1回接種で追加免疫による十分な効果が得られると考えられます。また、ワクチン安定供給の観点からも、13歳以上は1回接種を原則とすることが望まれます。ただし、13歳以上の基礎疾患(慢性疾患)のある方で、著しく免疫抑制された状態にある方などは医師の判断で2回接種となる場合があります1, 2)。
厚生労働省のホームページに掲載されている「インフルエンザQ&A」では、表のように年齢別の接種量および接種回数が記載されています1)。なお、インフルエンザHAワクチンは、製品によっては1歳未満に適応がないものがありますので、ご注意ください。
表. インフルエンザHAワクチンの年齢別接種量および接種回数
文献1)より作表
海外の研究によると、流行株とワクチン株の抗原性の一致度や、検査診断の有無などにより、ワクチンの有効性に違いがみられますが、65歳以下の成人に対しても、インフルエンザ様疾患、呼吸器疾患、検査診断されたインフルエンザの減少効果や、インフルエンザ様疾患による欠勤、病院受診の減少効果などが認められたという報告があります4)。また、接種後のワクチン効果は少なくとも5~6カ月持続するとの報告があります5)。欧米では、年少児を除いて1回接種としているところがほとんどです。世界保健機関(WHO)は、9歳以上の小児および健康成人に対しては1回接種が適切であるとの見解を示しており、米国予防接種諮問委員会(ACIP)も、9歳以上の者は1回接種としています1)。また、生後6カ月~8歳の小児においても、過去のシーズンで2回以上の接種歴がある場合は1回接種としています5)。ただし、年少児で初めてインフルエンザワクチンを接種する場合、1回接種では十分な抗体が得られない場合があり、2回接種が必要とされます6)。その際の間隔は、最低4週間あけることとなっています7)。
日本では、13歳未満の小児にインフルエンザHAワクチンは2回接種が行われており、その間隔は2~4週間とされていますが、できるだけ3~4週間の間隔をあけて接種したほうが免疫の獲得はよいといわれています。一方、小児では、体調不良などで4週間以上の間隔をあけざるを得ない場合があります。その場合でも、最初からやり直す必要はありません。ただし、2回目の接種から2週間程度たってからワクチンの効果が現れてくることを考えると、あまり遅くなると流行に間に合わなくなる可能性があるので、接種可能となったらできるだけ早期に受けましょう。
小児などで2回接種をする際に、1回目と2回目で異なるメーカーのインフルエンザHAワクチンを接種してよいかという質問を受ける場合があります。国内の季節性インフルエンザHAワクチンの製造元では他社製剤との互換性に関する臨床試験などは行われていませんが、これまでにも、ワクチンの供給量などの関係で、1回目と2回目で異なる製造元のワクチンが使われることもありました。製造するワクチン株や抗原量、用法及び用量が同一であり、同一の基準による国家検定に合格した製剤であることから、通常の医学的見地から考えて互換性があると考えられます。
従来の季節性インフルエンザの国内流行期が通常12月末から翌年3月頃ですので、これに備えて効果的な接種は、遅くとも12月中旬までには接種が終了するような計画を組むことが大切です8)。なお、インフルエンザ流行シーズンは毎年異なり、11月下旬から流行し始めたり、地域によっては遅くまで流行することがありますので、2回接種が必要な年少児は、できれば10月に1回目、11月に2回目を受けて、流行シーズンが早くなっても間に合うようにしておくことが望まれます。
ワクチン接種が遅れてインフルエンザ流行期を迎えてしまった場合には、間に合わず発症してしまう可能性が十分に考えられます。接種をする際には、これらのことを考慮したうえで検討してください。
また、ワクチン未接種者でインフルエンザに罹患しても、同シーズン中に再び罹患する場合もあります。異なる型・亜型の流行が同シーズン内にみられることもあることから9)、すでに罹患していたとしても、異なる型・亜型に対する予防目的で、ワクチン接種を行うことも一つの方法です。
(多屋 馨子)
文献
1)厚生労働省:令和4年度インフルエンザ Q&A. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkakukansenshou/infulenza/QA2022.html(アクセス2023年3月6日現在)
2)第1回厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチンの製造株について検討する小委員会. 資料2-1. 2018年4月11日.
3)神谷 齊 他: インフルエンザワクチンの効果に関する研究. 厚生科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)総合研究報告書(平成9~11年度).厚生労働省. 1997-1999.
4)Bresee JS, et al.: Plotkinʼs Vaccines. 7th edition, p.456-488, Elsevier, 2017.
5)CDC: MMWR Recomm Rep. 71(1): 1-28, 2022.
6)Allison MA, et al.: J Pediatr. 149(6): 755-762, 2006.
7)American Academy of Pediatrics: Red Book 2018-2021. 2018.
8)岡部信彦, 多屋馨子: 予防接種に関するQ&A集 2022. Q1 p.260, 一般社団法人日本ワクチン産業協会, 2022.
9)国立感染症研究所: インフルエンザウイルス分離・検出速報. 病原微生物検出情報.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html(アクセス2023年3月6日現在)
会員になると以下のコンテンツ、サイト機能をご利用いただけます。