メディカルアフェアーズ情報
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インフルエンザHAワクチン中の鶏卵成分は、数ng/mLです。卵アレルギーや気管支喘息などのアレルギーを有していても、注意は必要ですが、ただちにインフルエンザHAワクチンの接種不適当者とはなりません。
本稿では、アレルギーを有する方へのインフルエンザワクチン接種に関し、国内および米国の対応をまとめました。
2025年度版の「予防接種ガイドライン」1)には、接種液の成分に対してアレルギーを呈するおそれのある者に対する対応を日本小児アレルギー学会の見解(2025年1月)として掲載しています。以下に抜粋して引用します。
「接種液の成分によってアナフィラキシーを呈したことが明らかにある者は接種不適当者である。気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、接種液成分以外の原因によるアナフィラキシー、じんましん、アレルギー体質などだけでは、接種不適当者にはならないが、気管支喘息がコントロール不良である場合はリスクが高くなり、喘息も含めて、これらの疾患がコントロール不良である場合はワクチン副反応との鑑別が困難になる。したがって、接種前に良好なコントロールを得ることが重要である。
ワクチンによる副反応歴、ワクチンに含まれている成分に対するアレルギー歴とこの成分と交差反応する物質に対するアレルギーがある者を接種要注意者として対応する。
接種液成分でアレルギーと関連した報告があるのは、ワクチン主成分、安定剤のゼラチン、防腐剤のチメロサール及び培養成分である培養液、鶏卵成分、抗菌薬である。
同じ種類のワクチンでもメーカーによって成分量やその比率が異なるため、ワクチン添付文書でその内容を確認することが望まれる。
要注意者は健康状態や体質を勘案し、診察及び接種適否の判断を慎重に行い、ワクチンの必要性、副反応、有用性について十分な説明を行い、同意を確実に得た上で、注意して接種する。過敏症状を起こし得るので、接種後約30分の院内観察や緊急時薬の準備など、発症時に速やかに対応できる体制を整えておくことが必要である。
ワクチン接種による即時型アレルギー症状誘発を予知する確実な手段はない。保護者や接種医が強い不安を抱く場合には、要注意者への対応に準じ、慎重な観察と緊急時の体制を整える。接種の可否判定に困る際は、専門施設へ紹介する1)」。
(ア)鶏卵由来成分
「鶏卵成分が関連するワクチンはインフルエンザ及び黄熱である。
国内の現行インフルエンザワクチンは、有精卵(孵化鶏卵)から作られ、卵白アルブミンの混入が懸念されていたが、その量は数ng/mL1)でWHO基準よりはるかに少ない。
添付文書には、本剤の成分又は鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに対して、アレルギーを呈するおそれのある者は接種要注意者‡、本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことが明らかな者は接種不適当者と記載されている。しかしながら、接種後の鶏卵アレルギーによる重篤な副反応の報告はなく、鶏卵アレルギー患者であっても接種可能である2)。インフルエンザワクチン接種後のアナフィラキシーは鶏卵由来のタンパクではなく、インフルエンザHA抗原によるものであることが報告されている3)。
いずれのワクチンでも接種可否の判断が困難な症例は専門施設へ紹介する1)」。
‡インフルエンザHAワクチンの電子化された添付文書の記載事項
9. 特定の背景を有する者に関する注意(抜粋)
9.1 接種要注意者(接種の判断を行うに際し、注意を要する者)
被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合は、健康状態及び体質を勘案し、診察及び接種適否の判断を慎重に行い、予防接種の必要性、副反応、有用性について十分な説明を行い、同意を確実に得た上で、注意して接種すること。
9.1.6 本剤の成分又は鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに対してアレルギーを呈するおそれのある者
日本アレルギー学会監修の「喘息予防・管理ガイドライン2021」4)では、次のように記載されています。
「喘息などの慢性呼吸器疾患患者は呼吸器感染症で基礎疾患が増悪し、時に重症化する。呼吸器感染症には、ワクチンで予防できる疾患(vaccine preventable diseases, VPD)も含まれ、必要なワクチン接種により当該感染症を予防することは、基礎疾患の増悪や合併症予防に有用と考えられる5)」。
ステロイド薬の治療を受けている場合の注意点の項では、次のような記載があります。
「喘息患者へのワクチン接種時の注意事項として、ステロイド薬治療を受けている患者が挙げられるが、次の事項に該当する場合は、生ウイルスワクチン接種が禁忌となるほどの免疫抑制状態にはならない5)。
①治療期間が14日以内である。
②低~中等量の全身性ステロイド薬投与(プレドニゾン注1)換算で20mg未満)である。
③短期作用性薬剤では2週間以上の長期隔日投与である。
④漸減療法中の生理的用量による補充療法である。
⑤局所投与(塗布・点眼)、吸入、関節内など。
一方、14日以上のプレドニゾン注1)換算2mg/kg/日または20mg/日以上の場合は、終了後1か月間は生ワクチン接種を延期すべきとなっている5)」。
注1)プレドニゾンは、日本では未承認。
次に、インフルエンザワクチンの安全性の項を抜粋し引用します。
「インフルエンザは喘息患者における急性増悪に影響することが知られており、近年のシステマティックレビュー6)によると、インフルエンザワクチン接種は急性増悪による緊急受診や入院を59~78%予防する可能性が示されている。米国では、中等症以上の喘息患者はインフルエンザ罹患による重症の合併症を来す可能性が高いハイリスク群とされ、毎年接種を受けるべきとされている7)。なお、米国小児科学会は『鶏卵アレルギーがあっても通常通りインフルエンザワクチン接種が可能であり、ワクチン接種前に鶏卵アレルギーの有無を確認する必要はない』としている8)」。
米国の予防接種諮問委員会(ACIP: The Advisory Committee on Immunization Practices)は、「インフルエンザワクチンによるインフルエンザの予防と対策の勧告」を毎年発表しています。2025/2026シーズンの勧告より、アレルギー患者などへの接種に関してご紹介します。
2025/2026シーズンの勧告では、昨シーズンまで設けられていた「卵アレルギーの既往がある者(Persons with a History of Egg Allergy)」の項が削除され、勧告の要約版(Summary of Recommendations)に、卵アレルギーを有する者(Persons with egg allergy)へのインフルエンザワクチン接種について簡潔に記されています(表1)9)。
表1. 卵アレルギーを有する者へのインフルエンザワクチン接種―米国ACIP勧告2025/2026インフルエンザシーズン(要約版)
文献9)より
‡国内では、鶏卵などに対するアレルギーを呈するおそれのある者はインフルエンザHAワクチンの接種要注意者です。詳細は、電子化された添付文書を参照してください。
また、2025/2026シーズンの勧告では、昨シーズンまで設けられていた「インフルエンザワクチン接種で重度のアレルギー反応の既往を有する者(Persons with Previous Allergic Reactions to Influenza Vaccines)」の項も削除され、「接種不適当者、および接種要注意者」の項に、まとめて記載されています。アレルギー反応の既往を有する者への接種の部分を抜粋してご紹介します。
いずれのインフルエンザワクチンも、そのワクチンの成分に対して重度のアレルギー反応(アナフィラキシーなど)の既往を有する者を接種不適当者としている(表2)。ワクチンの成分は、各インフルエンザワクチンの添付文書に記載されている。ワクチンに含まれる卵たん白をはじめとするあらゆる成分に対して重度のアレルギー反応(アナフィラキシーなど)の既往を有する者は、米国の鶏卵培養由来の3価不活化インフルエンザワクチン(IIV3)、および3価弱毒生インフルエンザワクチン(LAIV3)の添付文書において接種不適当者とされている。しかしながら、ACIPは、卵アレルギーを有する生後6か月以上の者はすべて、インフルエンザワクチン接種を受けるべきであると勧告している。被接種者の年齢と健康状態が適していれば、どのインフルエンザワクチン(鶏卵培養、あるいは鶏卵培養以外)でも接種可能としている。この勧告は、卵アレルギーを有する者へのインフルエンザワクチン接種後の反応を調査した20の研究から得られたエビデンスの評価にもとづいている(20の研究の内訳: IIV 16研究、LAIV 3研究など。また、13の研究では、卵に対する重度アレルギー反応やアナフィラキシーの既往を有する者を含むとの報告がある)。これらの研究では、アナフィラキシーの事例は報告されていない(アナフィラキシーが起こる確実性レベルのGRADE:非常に低い)。過去の卵アレルギー反応の重症度にかかわらず、卵アレルギーがあるだけで、通常、どのワクチンをどの被接種者に接種する場合にも推奨されている以上の追加的な安全対策が、インフルエンザワクチン接種において必要とされることはない。
特定のインフルエンザワクチンに対して重度のアレルギー反応(アナフィラキシーなど)の既往がある者は、そのインフルエンザワクチンの接種不適当者である。どのインフルエンザワクチンであっても、接種後に重度のアレルギー反応(アナフィラキシーなど)を呈したことがある者は、添付文書上注)、すべての鶏卵培養のIIV3、およびLAIV3の接種不適当者である。鶏卵培養由来以外のインフルエンザワクチンの使用を重度アレルギー反応の既往のある者へ検討する際の勧告は、インフルエンザワクチンの種類により異なる(表2)。予防接種を実施する者は、アレルギー反応の原因となるワクチン成分の特定に役立てるため、アレルギー専門医への照会を検討してもよい。予防接種を実施する医療機関では、急性過敏症反応を適切に診断・治療できる設備を整えておくべきである。
LAIV3については、添付文書注)に記載されている接種不適当者に加えて、ACIPはいくつかの状態にある者(喘息患者など)をLAIV3の接種不適当者、および接種要注意者としている10)。
(岡田 賢司)
表2. インフルエンザワクチン接種で重度アレルギー反応の既往がある者における
接種不適当者および接種要注意者―米国ACIP勧告2025/2026インフルエンザシーズン
| いずれのワクチンで重度アレルギー反応(アナフィラキシーなど)の既往あり | 米国のインフルエンザワクチン (2025/2026シーズン) | ||
|---|---|---|---|
鶏卵培養IIV3、LAIV3 |
ccIIV3 |
RIV3 |
|
鶏卵培養IIV、LAIV |
接種不適当者 | 接種要注意者 | 接種要注意者 |
| ccIIV | 接種不適当者 | 接種不適当者 | 接種要注意者 |
| RIV | 接種不適当者 | 接種要注意者 | 接種不適当者 |
その他インフルエンザワクチン |
アレルギー専門医への照会を推奨 | ||
文献10)より
IIV3(Inactivated Influenza Vaccine, trivalent): 3価不活化インフルエンザワクチン。
LAIV3(Live Attenuated Influenza Vaccine, trivalent): 3価弱毒生インフルエンザワクチン。
ccIIV3(cell culture-based Inactivated Influenza Vaccine, trivalent): 3価細胞培養不活化インフルエンザワクチン。米国で生後6か月以上に適応。日本では未承認。
RIV3(Recombinant Influenza Vaccine, trivalent): 3価遺伝子組換えインフルエンザワクチン。卵たん白を含まない。米国での適応が2025/2026シーズンより9歳以上に拡大。日本では未承認。
文献
1) 予防接種ガイドライン等検討委員会: 予防接種ガイドライン2025年度版. 公益財団法人予防接種リサーチセンター. 2025.
2) Greenhawt M, et al.: Ann Allergy Asthma Immunol. 120(1): 49-52, 2018.
3) Nagao M, et al.: J Allergy Clin Immunol. 137(3): 861-867, 2016.
4) 「喘息予防・管理ガイドライン2021」作成委員: 喘息予防・管理ガイドライン2021. 一般社団法人日本アレルギー学会 喘息ガイドライン専門部会. 監修 協和企画. 2021.
5) CDC: MMWR Recomm Rep. 60(RR-2): 1-60, 2011.
6) Vasileiou E, et al. : Clin Infect Dis. 65(8): 1388-1395, 2017.
7) GINA : Global strategy for asthma management and prevention. 2020.
8) Committee on Infectious Diseases: Recommendations for Prevention and Control of Influenza in children. 2019-2020. Pediatrics. 144(4): e20192478, 2019.
9) CDC: Influenza(Flu). ACIP Recommendations Summary. Aug. 28, 2025.
https://www.cdc.gov/flu/hcp/acip/index.html(アクセス2025年9月2日現在)
10) Grohskopf LA, et al.: MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 74(32): 500-507, 2025.
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/74/wr/pdfs/mm7432a2-H.pdf(アクセス2025年9月2日現在)
11)厚生労働省: 重篤副作用疾患別対応マニュアル アナフィラキシー. 2008年3月(2019年9月改定).
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1h01_r01.pdf(アクセス2025年4月7日現在)
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