疫学・病態

疫学・病態

尿路上皮癌の疫学

尿路上皮癌の罹患率

尿路上皮癌とは尿路上皮(移行上皮)粘膜に発生する悪性腫瘍であり、腎盂、尿管、膀胱、尿道に発生するが、その多くは膀胱癌である。2018年における人口10万人あたりの年齢調整罹患率(全国推計値)は、膀胱癌が7.2、腎盂癌が1.4、尿管癌が1.2であった(表11)。また、膀胱癌の年齢調整罹患率を男女別にみると、男性12.6および女性2.8と、男性において約4倍頻度が高い。膀胱癌罹患時の年齢分布は、95%超が45歳以上、80%が65歳以上であり、多くが高年齢層に発症する2)

表1:膀胱癌、腎盂癌及び尿管癌の推定罹患数と年齢調整罹患率

表1:膀胱癌、腎盂癌及び尿管癌の推定罹患数と年齢調整罹患率

膀胱癌のリスク因子

膀胱癌における最大のリスク因子は「喫煙」である。日本人を対象としたシステマティックレビューにおいて喫煙者における罹患リスクは非喫煙者の2.14倍とされ3)、さらに喫煙者は非喫煙者より約6年早く膀胱癌が発症することが示されている4)。喫煙によって発癌物質に尿路上皮が曝露されることが膀胱癌発症の原因であり、NAT2GSTM1などの遺伝子多型による発癌物質の解毒機能やDNA損傷に対する修復機能の違いが罹患率に関与する5,6)
また、aromatic amine(芳香族アミン)やpolycyclic aromatic hydrocarbon(多環芳香族炭化水素:PAH)などの職業性発癌物質への曝露も膀胱癌における重要な危険因子であり、それらに曝露される仕事の従事者の膀胱癌罹患リスクは1.7倍とされる7)。その他の環境因子として尿路の慢性炎症があり、ヒトパピローマウイルス感染は2.84倍の罹患リスクとなるほか8)、長期間の尿道カテーテル留置9)やシクロホスファミドの使用10)、放射線治療による膀胱への被曝11)も膀胱癌の発症要因となりうる。
膀胱癌の第一度近親者(父母、兄弟姉妹、子)における罹患リスクは約1.7倍とされ12-14)、スウェーデンの研究では尿路上皮癌患者の7%に膀胱癌の家族歴が認められた12)。家族性の膀胱癌は、共通した環境因子の可能性も考えられるが、膀胱癌の発症に関与する遺伝学的因子も明らかになりつつある。リンチ症候群は、DNA複製時のミスマッチ修復異常によって癌の易罹患性に関与する常染色体顕性の遺伝性疾患であり、腎盂・尿管癌はリンチ症候群関連癌として知られるが、膀胱癌との関連も示唆されており、カナダやデンマークのリンチ症候群患者の研究では、特にMSH2に変異を認める場合に膀胱癌罹患リスクが高く、若年で膀胱癌が発症する傾向が認められている15-17)

尿路上皮癌の生存率

各癌種別の5年相対生存率を見ると、2013〜2014年に膀胱癌と診断された患者では66.2%、腎盂・尿管癌では47.3%であった(図118)。5年相対生存率をStage別にみると、膀胱癌はStage Iで86.4%、Stage IIで57.0%、Stage IIIで43.1%、Stage IVで19.3%であった。一方、腎盂・尿管癌はStage Iで82.8%、Stage IIで72.9%、Stage IIIで55.1%、Stage IVで12.3%であった(図218)。腎盂・尿管癌では膀胱癌と比較して、よりStageが進行してから発見される傾向にあった。

図1:各癌種別5年相対生存率※1

図1:各癌種別5年相対生存率※1

図2:膀胱癌及び腎盂・尿管癌のStage別5年相対生存率

図2:膀胱癌及び腎盂・尿管癌のStage別5年相対生存率

【参考文献】

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  3. Masaoka H, et al. J Clin Oncol. 2016; 46(3): 273-283
  4. Hinotsu S, et al. Int J Urol. 2009; 16(1): 64-69
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  6. Cui X, et al. Environ Health Prev Med. 2013; 18(2): 136-142
  7. Cumberbatch MG, et al. JAMA Oncol. 2015; 1(9): 1282-1290
    著者にアステラス製薬から資金提供を受けている者が含まれる。
  8. Li N, et al. J Infect Dis. 2011; 204(2): 217-223
  9. Ho CH, et al. Medicine(Baltimore). 2015; 94(43): e1736
  10. Travis LB, et al. J Natl Cancer Inst. 1995; 87(7): 524-530
  11. Nieder AM, et al. J Urol. 2008; 180(5): 2005-2009; discussion 2009-2010
  12. Yu H, et al. Eur Urol Oncol. 2018; 1(6): 461-466
  13. Sampson JN, et al. J Natl Cancer Inst. 2015; 107(12): djv279
  14. Figueroa JD, et al. Hum Mol Genet. 2016; 25(6): 1203-1214
  15. Huang D, et al. Bladder Cancer. 2018; 4(3): 261-268
  16. Skeldon SC, et al. Eur Urol. 2013; 63(2): 379-385
  17. Joost P, et al. Urology. 2015; 86(6): 1212-1217
  18. 国立がん研究センター. 院内がん登録 2013-2014年5年生存率集計 がん診療連携拠点病院等/小児がん拠点/都道府県推薦病院, 2021

尿路上皮癌に関与する遺伝子変異とmolecular subtype

尿路上皮癌に関与する遺伝子変異

尿路上皮癌は、同じ尿路上皮という細胞に発生する癌であるが解剖学的部位によって発癌に関わる遺伝子が異なる。腎盂・尿管を含む上部尿路上皮癌(Upper Urinary Tract Urothelial Carcinoma; UTUC)、膀胱癌における遺伝子変異の違いを図1に示す1,2)。UTUCを遺伝子解析した2つの報告において、高頻度(21%以上)に変異した遺伝子は、FGFR3KMT2DKDM6ATP53ARID1APIK3CAであったが、病期および悪性度によっても遺伝子変異の頻度は異なり、非転移性ではFGFR3変異の頻度が高く、転移性ではTP53変異の頻度が高かった。一方、膀胱癌ではTERT promoter、FGFR3KDM6APIK3CASTAG2ARID1TP53が高頻度に変異し、特に非転移性ではFGFR3STAG2、転移性ではTP53が高頻度に変異していた。
UTUCおよび膀胱癌を比較すると、UTUCではFGFR3およびHRASが高頻度に変異し、膀胱癌ではTP53RB1ERBB2が高頻度に変異していた。筋層非浸潤性膀胱癌(Non-muscle Invasive Bladder Cancer; NMIBC)を比較すると、UTUCにおいてKMTC2が高頻度に変異し、転移性癌を比較すると膀胱癌においてRB1ERBB2、細胞周期関連遺伝子が高頻度に変異していた。腫瘍の悪性度および病期で調整した結果、両疾患においてFGFR変異の発現に差はなかった。UTUCではHRASおよびKMTC2の変異が、膀胱癌ではRB1およびERBB2の変異が特徴的であった。

図1:上部尿路上皮癌及び膀胱癌における主な遺伝子変異

図1:上部尿路上皮癌及び膀胱癌における主な遺伝子変異

分子生物学的分類(molecular subtype)と予後・治療反応性の予測

尿路上皮癌は単一疾患ではなく、さまざまな病態が存在するが、molecular subtypeによって予後や治療反応性の予測が可能になると期待されている。2020年に提唱されたコンセンサス論文では、遺伝子の発現パターンにより筋層浸潤性膀胱癌(Muscle Invasive Bladder Cancer; MIBC)を6つのsubtypeに分類している(表13-5)
Luminal Papillary(LumP)では、FGFR3変異およびKDM6A変異を有し、FGFRに対するチロシンキナーゼ阻害薬の治療効果が期待される。60歳未満の若年層が多く、T2期が多い。全生存期間(OS)中央値は4年である。組織学的亜型ではLipid richやClear cellが特徴的である。
Luminal Non-Specified(LumNS)は、PPARG(尿路上皮分化の初期調節因子)によって活性化されるELF3変異が強く認められ、80歳超の高齢者が多い。OS中央値は1.8年であるが、病期、リンパ節転移、遠隔転移、年齢を共変量とした多変量Cox比例ハザードモデルにおいてLumPとの間に有意な差はなかった。組織学的亜型ではLumPと同様、Lipid richやClear cellが特徴的であるほか、微小乳頭も認められる。
Luminal Unstable(LumU)では、PPARG変異とE2F3およびSOX4を含む6p22.3領域の増幅を認め、TP53およびERCC2の変異と関連しており、遺伝学的に最も変化したsubtypeである。T2期が多く、OS中央値は2.9年であるが、多変量Cox比例ハザードモデルではLumPと有意な差はなかった。組織学的亜型ではLumP、LumNSでも見られるLipid richやClear cellのほか、腺上皮への分化、Nested、Microcystic、Plasmacytoidで特徴づけられる。
Stroma-richは間質浸潤を特徴とし、腫瘍への免疫細胞浸潤がみられ、B細胞およびT細胞マーカーが過剰発現している。OS中央値は3.8年であり、LumPと同程度の予後を示す。組織学的亜型ではPlasmacytoid、Clear cellが特徴的である。
Basal/Squamous(Ba/Sq)では、高頻度にTP53およびRB1が変異し、3p14.2領域の欠失と強く関連している。女性で多く、T3/4期の進行例が多い。OS中央値は1.2年と、LumPと比較して予後は悪化している。メトトレキサート、ビンブラスチン、ドキソルビシン、シスプラチンを併用するM-VAC療法による術前化学療法によりがん特異的生存率および全生存率の延長が期待される4)。組織学的亜型では扁平上皮への分化、Nested、Microcystic、Lymphopithelioma-like、Sarcomatoid、Clear cellといった特徴がある。
Neuroendocrine-like(NE-like)では、TP53およびRB1同時不活化が強く認められる。OS中央値は1年と最も予後不良であるが、シスプラチンベースの治療に対して奏効性を示すため、術前化学療法を行うべき対象といえる4)。組織学的亜型ではmolecular subtypeの分類名が示すとおり、神経内分泌分化により特徴づけられる。
Nectin-4 mRNA発現は、Stromal-rich及びBa/Sqと比較してLumP、LumNS、LumUではより高く、NE-likeでは非常に低かった5)

表1:MIBCのmolecular subtype(コンセンサス分類)

表1:MIBCのmolecular subtype(コンセンサス分類)

形態所見に基づいた亜型分類とmolecular subtype

molecular subtypeは遺伝子の発現パターンにより規定されているが、本邦では遺伝子発現を解析する方法が商業的に提供されていない。現時点では、形態所見に基づいた亜型分類を正確に行うことにより、molecular subtypeの診断が可能になる4)。形態的に扁平上皮への分化を伴う尿路上皮癌のほとんどはBa/Sq subtypeに分類される。NE-like subtypeの形態的分類は容易ではないものの、小細胞癌や大細胞神経内分泌癌に分類される症例はすべてNE-like subtypeに分類される。他のいくつかの亜型も、molecular subtypeへの対応は可能である。

【参考文献】

  1. Sfakianos JP, et al. Eur Urol Oncol. 2021; 4(2): 170-179
  2. Audent F, et al. Clin Cancer Res 2019; 25(3): 967-976
  3. Kamoun A, et al. Eur Urol. 2020; 77(4): 420-433
    著者にアステラス製薬から資金提供を受けている者が含まれる。
  4. 都築 豊徳. 日本臨牀. 2021; 79(1): 37-42
  5. Teo MY, et al. Clin Cancer Res. 2021; 27(18): 4950-4952
    著者にアステラス製薬から資金提供を受けている者が含まれる。

膀胱癌の性差

膀胱癌の罹患率、病因、病態、予後には性差がある。女性ホルモンであるエストロゲンは腫瘍形成に防御的に働くが、男性ホルモンであるアンドロゲンは腫瘍形成のリスクとなる。そのため、男性の罹患率は女性よりも高いが、一方で女性の方が進行性で予後不良であることが多い。これらの性差には喫煙歴や環境因子、診断の遅れ、診断時の悪性度および病期が関与していると考えられてきた1)。一方で、免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験において、女性の治療反応性が男性よりも低いことが示唆され2,3)、膀胱癌治療のアウトカムを改善するためにも、性差の原因追及が課題となっている。
膀胱癌における性差を表1に示す1,4,5)。女性で予後不良である原因の一つとして、膀胱扁平上皮癌の女性の割合が男性よりも有意に高く、それ自体が不良な転帰と関連している可能性が指摘される6)
さらに、最近のマウスを用いた研究では、性染色体は独立した膀胱癌の発生要因であり、腫瘍形成における性ホルモンの効果を増幅することが示唆されている7)。この過程には性的二型性の遺伝子であるKDM6A遺伝子が関与しており、臨床観察研究ではKDM6Aの発現レベルは男性よりも女性で高く、女性ではKDM6Aの発現低下と膀胱癌の病勢進行の相関が確認された。その他、女性では男性と比べて排尿筋が薄いこと、エストロゲン受容体が高発現であること、尿道口が消化管に近接しており、尿路感染症の再発が認められやすいことなど、膀胱の解剖学的および生理学的特徴の違いが免疫機構に影響を及ぼしている可能性が示唆されている1)。これら複合的な要因が、免疫チェックポイント阻害薬に対する治療反応性の差につながっていると考えられており、今後、性別による治療反応性を予測するためのバイオマーカーが明らかになることが期待される。

表1:膀胱癌の性差

【参考文献】

  1. Koti M et al. Eur Urol Oncol. 2020; 3(5): 622-630
  2. Wang PF, et al. Eur J Cancer 2020; 126: 136–138
  3. Conforti F, et al. Lancet Oncol 2018; 19(6): 737-746
  4. 国立がん研究センターがん対策情報センター編. 第4章 付表, 平成30年全国がん登録 罹患数・率 報告:厚生労働省健康局がん・疾病対策課, 2021
  5. 国立がん研究センター. 院内がん登録 2013-2014年5年生存率集計 がん診療連携拠点病院等/小児がん拠点/都道府県推薦病院, 2021
  6. Krimphove MJ et al. Eur Urol Focus. 2021; 7(1): 124-131
  7. Kaneko S, et al. Sci Adv 2018; 4(6): eaar5598

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