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プログラフ®投与時における血中濃度モニタリングの重要性

「なぜ薬物血中濃度モニタリングが重要なのか?」を知れば、薬剤師だからこそできる服薬指導につながります。
薬剤の有効性・安全性に直結する薬物血中濃度モニタリングの重要性について姫路獨協大学 薬学部 医療薬学科 医療薬剤学教室 教授の増田智先 先生に寄稿いただきました。

(2022年1月)
※所属・役職は2022年1月時点の情報です。

プログラフとは ―日本発の免疫抑制剤―

プログラフ®(一般名:タクロリムス水和物)は日本で開発された免疫抑制剤で、様々な移植領域や自己免疫疾患に対して使用されています。免疫に関与するT細胞内において脱リン酸化酵素カルシニューリンの活性を阻害し、免疫抑制作用を示します。

1984年に日本の土壌から分離した放線菌 Streptomyces tsukubaensis の代謝産物として発見され、日本では1993年に「肝移植における拒絶反応の抑制」の効能又は効果を取得しました。その後、各臓器移植、造血幹細胞移植に加え、自己免疫疾患に対する有効性も見出され、現在では、重症筋無力症、関節リウマチ、ループス腎炎、潰瘍性大腸炎、多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎に対する効能又は効果も取得しています。

主な副作用・臨床検査値異常には、腎機能検査値異常、消化管障害、耐糖能異常などがあります。

TDMとは

TDM(薬物血中濃度モニタリング)とは、治療効果や副作用に関する様々な因子をモニタリングしながら、それぞれの患者さんに個別化した薬物投与を行うことです。TDMでは多くの場合、薬物の血中濃度が測定されます。効果が発現する血中濃度と副作用が発現する血中濃度の差が小さい、いわゆる「有効治療域の狭い薬剤」ではTDMを行うことが必要と考えられ()、TDMを行い上手に血中濃度をコントロールすることにより、高い治療効果が得られ副作用の発現を抑えることができます。

図 薬理作用と血中濃度の関係

また、薬物に対する反応性には個人差があり、それは主に薬物の吸収、分布、代謝、排泄といった薬物動態の個人差に由来します。このような個人差を克服する一手法として、TDMは活用されています。血中濃度の変動要因には様々なものがあり、患者さん側の要因として食事、胃内pH、病態、遺伝子多型など、薬剤側の要因として剤形、投与方法、併用薬剤の影響などがあげられます()。

表 薬物血中濃度に変動をもたらす要因

プログラフ投与におけるTDMの重要性

プログラフ®は有効治療域が狭いため、TDMによる管理が有用です。プログラフ®を用いる領域は、各臓器移植、造血幹細胞移植、自己免疫疾患など多岐に渡っています。

経口投与されたプログラフ®は、消化管や肝臓においてCYP3A4/5などの薬物代謝酵素により代謝を受け全身循環されます。その代謝酵素の遺伝子多型や活性それぞれに個体差や個体内差があるため、投与量あたりの全身循環量が異なることから、血中濃度を指標とした用量調節が必要とされています1)

また、プログラフ®は相互作用を示す薬剤が多く、併用薬剤にも注意が必要です2)。薬剤以外にも、グレープフルーツジュースやセイヨウオトギリソウなどの食品、ハーブについても相互作用が報告されています2)

プログラフとグラセプター:製剤の使い分け

タクロリムス製剤には、プログラフ®の他、徐放化製剤であるグラセプター®も承認されています。移植領域では1日2回服用が基本のプログラフ®ですが、徐放性製剤としたグラセプター®を投与する場合は1日1回服用となります。いずれも成分はタクロリムスですので、薬理効果に差はありませんが飲み忘れなどを防ぐ目的でグラセプター®が使われることが多いようです。いずれの製剤を使用する場合もその用量調節にはTDMが有効ですが、注意が必要です。まず、1日2回投与のプログラフ®に比べて1日1回投与のグラセプター®を使用する場合の方が、朝服用直前の血中濃度は相対的に低めです。つまり、プログラフ®からグラセプター®に変更する場合、血中濃度の測定結果が低くなった3)からといっても慌てずに、主治医に相談しましょう。

グラセプターカプセル(電子添文より)
6.用法及び用量
〈プログラフ経口製剤から切り換える場合(腎移植、肝移植、心移植、肺移植、膵移植、小腸移植、骨髄移植)〉
通常、プログラフ経口製剤からの切り換え時には同一1 日用量を1 日1 回朝経口投与する。

プログラフ投与における薬剤師の役割

プログラフ®投与において、血中濃度の変化は有効性、安全性に大きな影響を及ぼす可能性があります。そのため、主治医は定期的に血中濃度を測定し、個々の患者さんに合わせた用量調節を行っています。また、血中濃度に影響を及ぼす因子をできる限り避けるよう、服用のタイミング、食事や併用薬剤などについて患者さんに指導をしています。特に、プログラフ®とグラセプター®の選択は、患者さんの生活リズムも考え合わせた上のものですので、不用意に変えることは危険です。また、変更に関してはプログラフ®からグラセプター®だけでなく、顆粒製剤や後発品への切り替え、またその逆の切り替えにおいても、変更後に血中濃度の確認が強く推奨されていることから、製剤を変えた場合は主治医への報告が推奨されます。なお、グラセプター®には後発品はありません。

薬剤師においても、同様の視点から患者さんに対して注意を促すことが必要です。また、患者さんと接するなかで患者さんの様子を観察、評価し、症状の変化などに気づいたら主治医に連絡するなど、積極的な情報共有を行うことが大切です。

このように、プログラフ®をはじめとする免疫抑制剤投与において、最適な有効性、安全性を担保するために薬剤師は多くの重要な役割を担っていると考えられます。

引用文献

1)増田智先:病理と臨床 34(2):139-144, 2016

2)プログラフ®電子化された添付文書

3)Ogura Y, et al:Ann Transplant 21:448-455, 2016

参考)免疫抑制薬TDM標準化ガイドライン2018[臓器移植編]
Credentials 通巻69号(2014, June)掲載記事より改変


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