安全性情報

高齢者適正使用情報

高齢関節リウマチ患者に対するスマイラフの適正使用情報

東邦大学医学部医学科内科学講座 膠原病学分野 准教授 杉原 毅彦 先生
(情報は、2024年2月現在)

①疾患啓発編

高齢発症関節リウマチ患者の特徴と治療上の留意点

増加の一途をたどる高齢の関節リウマチ(RA)患者

  • 我が国のRA患者の症例登録データベース「NinJa(National Database of Rheumatic Diseases by iR-net in Japan)」によると、RA患者の平均年齢及び平均発症年齢は上昇傾向にあることが示されています1)
  • 我が国におけるRA発症年齢のピークは、2002-2003年では50歳台でしたが、2012-2013年では60歳台と高齢に推移しました(図1)2)
  • 2016年の厚生労働省によるアンケート調査の結果をもとに、RAの有病率を年齢別に算出した結果、男女ともにRA患者の推定数及び有病率は加齢とともに上昇し、患者数は60歳台をピークとして、有病率は85歳まで上昇を続けることが示されました3)
  • 高齢RA患者の特徴は変化しつつあることを理解し、高齢者特有の病態に配慮した治療を行うことが望まれています。

高齢発症RA(EORA: Elderly onset RA)

  • EORAの臨床的特徴は表1のように考えられます。
  • T2Tの概念に則った治療を高齢のRA患者に行う場合、その治療は、併存疾患、患者自身の要因、治療困難な状態、薬物に関連するリスクなどにより影響を受けます4)

高齢関節リウマチ患者の治療の留意点

  • 高齢RA患者では、身体機能低下、認知機能低下、複数の合併症とポリファーマシーの影響を受けて、疾患活動性を制御するために十分な治療を行うことが困難なケースがあります(図2)5)
  • 治療を適切に進めるためには、積極的な治療を行うべき患者と、慎重に治療を行うべき患者を見分けることが大切であり、患者の合併症や社会的背景も勘案し、安全性に十分配慮した上で治療強度を決定する必要があります。
  • 治療の目標と選択は、関節破壊進行の予後不良因子と疾患活動性を配慮して決定するとともに、副作用の危険因子、併存疾患、患者の活力(バイタリティ)とフレイルを考慮して調整することが求められます。

高齢RA患者の課題①「ポリファーマシー」

  • 高齢RA患者では、併存疾患の増加に伴い多剤併用(ポリファーマシー)の状態になりやすいことが知られています6)。実際、加齢とともに、使用される平均薬剤数が増加しています(表2)7)
  • 日本の臨床現場では70歳以降も使用薬剤数が増加していることが指摘されており7)、薬物有害事象の発生防止の観点からも、高齢RA患者がポリファーマシーの状態に陥らないように意識することが大事です。

高齢RA患者の課題②「生理機能の変化」

  • 高齢者では、体重減少や腎機能、肝機能の低下などの生理機能の変化による血中薬物濃度の上昇に伴い、有害事象の発生リスクが高くなると考えられます。
  • 腎機能の低下は、治療選択において特に重要な要素です。RA患者では非RA患者と比較して腎機能が経時的に悪化することが知られています8)
  • その原因として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗リウマチ薬(DMARDs)等による薬剤性腎障害、アミロイドーシス合併などによる続発性腎障害、RA固有の腎障害、メザンギウム増殖性糸球体腎炎、Cardio-renal anemia症候群などが考えられています(図3)8)
  • RA患者では腎機能を評価した上で治療選択を行う必要があります。その際、腎機能の評価指標として、血清クレアチニン(Cr)値は高齢者では筋肉量が低下しているため見かけ上低値になることが多く、eGFRは小柄な高齢者では高めに推算されることを念頭に置く必要があります。より正確な評価を行うためには、Crに加えシスタチンCによる推算を行うのが良いとされています8)

引用文献
1)  Ninja(National Database of Rheumatic Diseases by iR-net in Japan)データベース2015
2)  Kato E, et al.:Int J Rheum Dis 2017;20(7):839‒845
3)  M Kojima, et al.:Mod Rheuma. 2020;30(6):941-947
4)  Sugihara T.:Mod Rheumatorol 2022;32:493-499
5)  Boots MH A, et al.:Nat Rev Rheumatol:2013;9(10):604-613
6)  Serhal L, et al.:Autoimmun Rev:2020;19(6):102528
7)  T Mabuchi, et al:lin Pharm Ther:2020;45(5):991-996
8)  日高利彦:リウマチ科:2020;64(3):275-281

②治療方針編

高齢の関節リウマチ(RA)患者の腎機能、肝機能を考慮した治療戦略

高齢関節リウマチ患者の薬物療法

  • RAの治療目標は、「関節リウマチの疾患活動性の低下および関節破壊の進行抑制を介して、長期予後の改善、特にQOLの最大化と生命予後の改善を目指す」1)とされています。
  • 60歳以上で有害事象の発現リスクが高いRA患者に対しては、リスク因子の保有状況に応じた個別のアプローチを行うことが推奨されています。
  • 併存疾患を有する患者では、心血管疾患、感染症、がん、肝・腎・肺疾患など個別に勘案して治療方針を検討する必要があります(図1)2)
  • 心血管疾患を併発している高齢RA患者の場合には、高用量のステロイドの使用を避けることが提案されています2)
  • TNF阻害薬の使用による感染症の既往を有する高齢RA患者の場合には、半減期が短いbDMARDの使用を検討します2)
  • がんの既往を有する患者のうち、TNF阻害薬を使用している女性患者に対しては、子宮頸がんスクリーニングの実施を検討します2)
  • 肝・腎・肺疾患を併発している高齢RA患者には、メトトレキサート(MTX)を低用量から開始して漸増していくこと、及び併用している薬剤の用量を調整することが提案されています2)
「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等は電子添文をご参照ください。

ペフィシチニブ使用時の副作用情報

一部承認外のデータが含まれています。
特定使用成績調査(全例調査)のデータであるため掲載しています。

スマイラフの電子化された添付文書の記載

6.用法及び用量

通常、成人にはペフィシチニブとして150mgを1日1回食後に経口投与する。なお、患者の状態に応じて100mgを1日1回投与できる。

7.用法及び用量に関する注意

7.1中等度の肝機能障害を有する患者に投与する場合には、本剤の有効性及び安全性を十分に理解し、本剤投与の必要性を慎重に検討した上で、本剤50mg1日1回投与とすること。なお、十分な治療反応が得られない場合は、本剤の投与継続の必要性を検討すること。

 

  • ペフィシチニブ(スマイラフ®錠)の特定使用成績調査(全例調査)において、2023年3月25日時点で調査票が回収された安全性解析対象症例2,849例の平均年齢は68.8(±13.22)歳でした。この内、65歳以上の高齢者への投与症例数は、1,959例(68.8%)でした3)
  • 2,849例中、副作用は844例(29.62%)、重篤な副作用は197例(6.91%)に発現しました。また、主な重篤な副作用の内訳は、肺炎15例(0.53%)、帯状疱疹11例(0.39%)、尿路感染7例(0.25%)、間質性肺炎6例(0.21%)などでした。また、死亡に至った副作用は41例(1.44%)で、肺炎、誤嚥性肺炎、間質性肺疾患が各3例(0.11%)などでした3)
  • 2,849例中、悪性腫瘍の副作用は37例(1.30%)に発現しました。主な内訳は、結腸癌及び胃癌が各4例(0.14%)、リンパ腫3例(0.11%)、肝転移、尿管癌及び肺の悪性新生物が各2例(0.07%)などでした3)
  • 2,849例中、心血管、脳血管系の副作用は、17例(0.60%)に発現しました。主な内訳は、心不全3例(0.11%)、急性心不全、心筋梗塞及びくも膜下出血が各2例(0.07%)などでした3)
  • 2,849例中、投与中止に至った副作用は342例(12.00%)に発現しました。主な内訳は、悪心31例(1.09%)、帯状疱疹24例(0.84%)、浮動性めまい21例(0.74%)、下痢16例(0.56%)などでした3)
  • 年齢別(表1)、投与量別(表2)、腎機能の程度別(表3)、肝機能の程度別(表4)の副作用発現割合は以下のとおりでした3)
  • ペフィシチニブの副作用発現率は、加齢とともに上昇する傾向にあるため、使用に際しては有害事象の発現に注意が必要です4)。特に注意すべき有害事象である重篤な感染症、帯状疱疹、悪性腫瘍も同様に加齢による発現率の上昇傾向が認められています。

ペフィシチニブ投与時の年齢別の有害事象(悪性腫瘍、重篤感染症、帯状疱疹)の発現(第Ⅱ/Ⅲ相併合解析、安全性解析対象集団、海外データを含む)4)

一部承認外のデータが含まれています。
承認時評価資料のデータであるため掲載しています。
スマイラフの電子化された添付文書の記載
6.用法及び用量
通常、成人にはペフィシチニブとして150mgを1日1回食後に経口投与する。なお、患者の状態に応じて100mgを1日1回投与できる。
7.用法及び用量に関する注意
7.1中等度の肝機能障害を有する患者に投与する場合には、本剤の有効性及び安全性を十分に理解し、本剤投与の必要性を慎重に検討した上で、本剤50mg1日1回投与とすること。なお、十分な治療反応が得られない場合は、本剤の投与継続の必要性を検討すること。

  • ペフィシチニブの第II/III相併合試験に参加したRA患者(1052例)を対象に、20歳以上50歳未満(313例)、50歳以上65歳未満(486例)、65歳以上(253例)の3群に分類し、併合解析を行いました。
  • 重篤感染症の発現率(例数 95%CI)は、20歳以上50歳未満群では1.9%(6例/313例 0.7、4.1)、50歳以上65歳未満群5.8%(28例/486例 3.9、8.2)、65歳以上群9.1%(23例/253例 5,9、13.3)で、帯状疱疹関連事象の発現率は、それぞれ8.0%(25例/313例 5.2、11.6)、13.4%(65例/486例 10.5、16.7)、19.8%(50例/253例 15.0、25.2)でした(表5)
  • 悪性腫瘍(非黒色腫皮膚癌を除く)の発現率は、50歳以上65歳未満群では2.1%(10例/486例)、65歳以上群では4.0%(10例/253例)で20歳以上50歳未満群における悪性腫瘍の発現は認められませんでした。

※対象となった試験:プラセボ対照並行群間比較試験(52週間投与)の2つの第Ⅲ相試験(CL-RAJ3、CL-RAJ4)、プラセボ対照用量設定試験(12週間投与)の後期第Ⅱ相試験(CL-RAJ1)及び継続投与試験(CL-RAJ2)の計4試験を併合したデータセット。プラセボ群でプラセボから本剤投与へ切り替えた後のデータを含む本剤投与例全体の集計を示しました。

  • 本解析において、重篤な感染症の発現率及び帯状疱疹関連事象の発現率は20歳以上50歳未満群に対し50歳以上65歳未満群及び65歳以上群それぞれで有意に高いことが示されました(p<0.05、Cox model)(表6)。
  • 本解析において、ベースライン時の腎機能は、重篤な感染症及び帯状疱疹の発現の危険因子ではないことが示されました(表6)。
<安全性概要:第II/III相併合解析5)
  • 第II/III相併合解析の解析対象となった1052例において、副作用は762例(72.4%)で報告されました。主な副作用は、上咽頭炎258例(24.5%)、帯状疱疹95例(9.0%)、血中クレアチンホスホキナーゼ増加86例(8.2%)、上気道感染62例(5.9%)、気管支炎60例(5.7%)等でした。
  • 重篤な有害事象は150例(14.3%)で報告されました。主な重篤な有害事象は、肺炎9例(0.9%)、関節リウマチ7例(0.7%)、帯状疱疹、脊椎圧迫骨折、腱断裂各5例(0.5%)等でした。
  • 投与中止に至った有害事象は139例(13.2%)で報告されました。主な投与中止に至った有害事象は、関節リウマチ26例(2.5%)、リンパ球数減少5例(0.5%)、肺炎4例(0.4%)、血中クレアチンホスホキナーゼ増加、血中β-Dグルカン上昇各3例(0.3%)等でした。
  • 死亡は3例(0.3%)で報告され、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、脳出血、自殺既遂各1例(0.1%)でした。

腎機能及び肝機能障害患者に対するペフィシチニブ投与

腎機能正常被験者(8例)及び腎機能障害患者(軽度8例、中等度8例、重度7例)を対象に空腹時にペフィシチニブ150mgを単回経口投与したときの薬物動態に対する腎機能低下の影響を検討しました。その結果、腎機能正常被験者に対する軽度腎機能障害患者のCmaxは89.6%、AUCinfは87.3%、中等度腎機能障害患者のCmaxは78.3%、AUCinfは83.1%、重度腎機能障害患者のCmaxは78.3%、AUCinfは108.7%でした(表76)

Cmax(最高血中濃度):治療効果や副作用の予測に使用される
AUCinf(血中薬物濃度-時間曲線下面積):吸収されて血中に入った総薬物量を表し、治療効果や副作用の予測に使用される

  • 肝機能正常被験者(8例)及び肝機能障害患者(軽度8例、中等度8例)を対象に空腹時にペフィシチニブ150mgを単回経口投与したときの薬物動態に対する肝機能低下の影響を検討しました。その結果、肝機能正常被験者に対する軽度肝機能障害患者のCmaxは103.9%、AUCinfは118.5%、中等度肝機能障害患者のCmaxは182.4%、AUCinfは192.3%でした(表8)7)

2.禁忌(次の患者には投与しないこと)(抜粋)
2.3重度の肝機能障害を有する患者[電子添文7.1、9.3.1-9.3.3、10.2、11.1.4、16.6.2参照]
6.用法及び用量
通常、成人にはペフィシチニブとして150mgを1日1回食後に経口投与する。なお、患者の状態に応じて100mgを1日1回投与できる。
7.用法及び用量に関連する注意(抜粋)
7.1中等度の肝機能障害を有する患者に投与する場合には、本剤の有効性及び安全性を十分に理解し、本剤投与の必要性を慎重に検討した上で、本剤50mg1日1回投与とすること。なお、十分な治療反応が得られない場合は、本剤の投与継続の必要性を検討すること。[電子添文2.3、9.3.1-9.3.3、10.2、11.1.4、16.6.2、17.1.1-17.1.3参照]
9.特定の背景を有する患者に関する注意(抜粋)
9.3肝機能障害患者
9.3.1重度の肝機能障害を有する患者
投与しないこと。副作用が強くあらわれるおそれがある。[電子添文2.3、7.1、8.8、10.2、11.1.4、16.6.2参照]
9.3.2中等度の肝機能障害を有する患者(Child-Pugh分類B)
血中濃度が高くなり、副作用が強くあらわれるおそれがある。[電子添文2.3、7.1、8.8、10.2、11.1.4、16.6.2、17.1.1-17.1.3参照]
9.3.3軽度の肝機能障害を有する患者(Child-Pugh分類A)
副作用が強くあらわれるおそれがある。[電子添文2.3、7.1、8.8、10.2、11.1.4、16.6.2、17.1.1-17.1.3参照]

スマイラフ®錠の電子化された添付文書の「用法及び用量」、「用法及び用量に関連する注意」及び「特定の背景を有する患者に関する注意」には、腎機能障害患者についての記載はありませんが、臨床投与経験は限られているため、腎機能障害患者への投与にはご注意ください。

<引用文献>
1)   一般社団法人日本リウマチ学会編: 関節リウマチ診療ガイドライン2020. 第3章 1.治療方針: 16-19, 診断と治療社, 2021
2)   Serhal L, et al. Autoimmun Rev. 2020;19(6):102528
3)   アステラス製薬株式会社:スマイラフ®錠適正使用情報Vol.7
4)    Tanaka Y, Takeuchi T, et al: Mod Rheumatorol. 2022;32:696-707 (本解析はアステラス製薬株式会社の資金により実施されました)
5)   承認時評価資料(第II/III相併合解析)
6)   承認時評価資料(腎機能障害患者試験)
7)   承認時評価資料(肝機能障害患者試験)


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