世界各地に広まった柔道は、単に技術を身につけるだけでなく、相手との稽古や試合を通して身体や精神を鍛錬修養し、自己を完成するという嘉納治五郎の考えが受け入れられ、国際柔道連盟には201ヵ国・地域が加盟するまでに発展しています。日本の柔道選手は国際大会での活躍が毎年期待されつつも、2004年のアテネオリンピックでの記録を塗り替える成績を果たせずにいたなか、東京2020大会では日本柔道五輪史上最多の金メダル9個という、想像を上回る結果を残してくれました。
日本柔道が目指していた、特に大野将平選手が具現化したような、しっかり組んで相手に技を掛けて投げる柔道が全体として実を結んだのだと思います。そばで見てきた者として、女子も男子も個性を活かした技を追求した結果を残せたことが本当によかったと思います。私自身、大学に入る前からスポーツに関わる仕事がしたいと願ってきましたから、東京2020大会という舞台に関われたことには感慨深いものがあります。第1試合が始まったときは、「ようやくここまで来れた」と込み上げてくるものがありました。
今回はCOVID-19の影響で外国人選手のコンディションが万全ではなかったことを残念に思います。国際大会では通常、何日も前から現地入りし、食事や環境に慣れてから本番に挑みます。今回は各国が事前キャンプをできず、隔離期間の問題もあって、海外の選手にはさまざまな制限が課されました。それでも彼らは苦言を呈することなく、試合ができたことへの感謝を口にしてくれました。開催国である日本が大きなアドバンテージをもって試合に臨めたのも事実ですが、その分の大きなプレッシャーにも負けずによく頑張ったと思います。
AMSVとして本大会のレガシーは何だろうかと考えましたが、それはやはり医療者がスポーツの競技や大会運営に参加できる機会が増え、そこではどのような知識や経験が必要とされているかがわかったことだと思います。今までスポーツ医療というと、特定の人しか関与できない分野といったイメージがあり、スポーツ界自体に新しいチャンピオンは往年のチャンピオンたちによって育成されるものという閉鎖的な雰囲気もあったように思います。しかし本大会では、連日過酷な環境が続くなか、アスリートだけでなく医療者もプロフェッショナルとして運営に参加し、立派に縁の下で支え切りました。スポーツに関わりたいと思っている医療者の皆さんには、是非、スポーツの現場で求められている経験・知識を身につけて飛び込んできていただきたいです。