田中 中村先生は脊椎疾患がご専門ですが、コロナ禍の影響はいかがでしたか。
中村 これまで脊柱管狭窄症や腰痛を抱えながらも、日常生活の活動性を通して何とか過ごしてこられていた方が、外出自粛により大きな影響を受けました。動くこと、歩くことの重要性を教えられたともいえます。ウェルビーイングな生活を送るために、運動器がいかに重要かということを、われわれ整形外科医はもちろん、国民の多くが実感されたのではないでしょうか。
また、コロナ禍がもたらす社会的な分断や孤立が、慢性疼痛、特に運動器の疼痛にネガティブな影響を与えていることも、日本をはじめ海外からも複数報告されています2)。COVID-19パンデミックが運動器の痛みや活動性に大きな影を落としていることは間違いなく、ピンチをチャンスに変える意味でも、ポストコロナ時代においては運動器の重要性を強く発信していく必要があると感じています。
田中 黒田先生はスポーツ整形の領域から、この1、2年をどのように振り返られますか。
黒田 2020年4月に最初の緊急事態宣言が発令され、スポーツ活動が一気にストップし、スポーツ外傷の患者さんの来院はほとんどなくなりました。また、不急の手術は延期するという病院の方針に従い、整形外科は手術件数を7割に減らさなければなりませんでした。人工関節置換術のほか、前十字靱帯損傷の手術などもスポーツをしないなら待機可能ということで後ろに回さなければならず、私自身が精神的にダメージを受けていた気がします。
田中 「不要不急」という言葉が流行語のようになり、整形外科の手術についても不要ではないけれども不急と判断した医療機関が多く、アイデンティティクライシスを起こしかねないような状況だったように思います。COVID-19に大きな影響を受けたという意味では、東京2020オリンピック・パラリンピックがその最たるものだったのではないでしょうか。
黒田 オリンピック・パラリンピックは無事に1年遅れで開催され、そのこと自体はとてもよかったです。しかし、ボランティアを含め参加された医療従事者の皆さんは、自分が果たして現地へ行ってもよいのだろうかと自問されたでしょうし、なかには批判を受けた人もいたと聞きますので、複雑な思いでした。
帖佐 当院からもスタッフが多く参加しましたが、東京から戻った際には1週間待機するか、3日間待機ののち抗原検査を受けることが義務付けられました。診療に影響が出ないようにシフトを組みましたが、なかなか現場のやりくりが大変でした。