*横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター 助教
**同センター長/東京医科歯科大学統合研究機構先端医歯工学創成研究部門 教授/
シンシナティ小児病院オルガノイドセンター 副センター長
西井 正造* 武部 貴則**
*横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター 助教
**同センター長/東京医科歯科大学統合研究機構先端医歯工学創成研究部門 教授/
シンシナティ小児病院オルガノイドセンター 副センター長
西井 正造* 武部 貴則**
横浜市立大学では2018年に、先端医科学研究センター内に従来型医療の拡張を企図した課題の発見とその解決策の検証を行うための新組織として、コミュニケーション・デザイン・センターを設立した。当センターは、自らが取り組む研究領域を名辞するために「ストリート・メディカル®」※という新概念を提唱している。街中に集まる若者たちから自然発生的に生まれるファッションをストリートファッションと呼ぶことなどになぞらえ、ストリート的な要素を取り込むことを企図した用語となっている。医療の対象を「患者」から「生活者」へ、医療の現場を「病院」から「街の中などの生活の場」へと拡張し、従来型の医療体系からさらに一歩踏み出して、医療従事者や医学研究者以外の人々の日常の経験や知見・ノウハウを医療のアップデートにもっと取り込んでいくべきという思いが込められている。従来の医療ツールの中心をなしてきた医薬品や医療機器、医療材料に加えて、生活者の嗜好性の高い資材、たとえばゲームやスマートフォン、住居および住環境、家具、日用雑貨、文房具、衣服・アクセサリー、都市・空間環境、交通機関などを医療ツールに仕立て上げることで、これまで医学研究の成果を届けることの難しかった人々の生活や日常にも溶け込ませていきたいと考えている1)。
整形外科領域の概念で本取り組みとも親和性が高いものに「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」2)3)がある。本概念提唱を契機に、エビデンスのある「ロコモ度テスト」やロコモ対策としての運動「ロコトレ(ロコモーショントレーニング)」4)の開発などが進められたことは、日々の生活のなかにうまく予防対策を取り入れるための新潮流を創出したプロモーションの好例だと言える。「ロコモを防ぐには、若い頃から適度に運動する習慣をつけ、運動器を大事に使い続けることが不可欠」5)とされ、若年層および壮年層の運動習慣の定着が求められている。そこで、ロコトレの動作要素(片脚立ちやスクワットなど)を職場などの日常に取り入れるためのアイデアとして、当センターが主催しているストリート・メディカル・スクールの受講生から生まれた「ぷにぺだ」を紹介する(図)6)。これはオフィスでの日常業務の一つであるシュレッダーでの書類処理作業に着目したアイデアで、自動シュレッダーをペダル式シュレッダーに置き換え、シュレッダーに取り付けられたペダルに片足を乗せて踏み込むことで、ペダルに連動した刃が回転し、書類を裁断するという単純な仕組みである。さらにペダルを踏み込む感覚をぷにぷにとした気持ちのよいものにすることで、理性によらずに自然とロコトレと近似した動作を可能にしようというものである。
ストリート・メディカルとしての取り組みはまだ端緒についたばかりである。今後は、整形外科領域の医療従事者の方ともより活発に協同して、医療・医学の可能性を広げていきたいと考えている。
※ストリート・メディカル(Street Medical)は公立大学法人横浜市立大学の登録商標
図 ロコモ対策へのストリート・メディカル・アプローチの事例
(ストリート・メディカル・スクール2期生・雜賀夕衣奈氏、沓水里穂氏による発案)
(文献6より引用)
文献
1)武部貴則. 治療では遅すぎる。ひとびとの生活をデザインする「新しい医療」の再定義. 日本経済新聞出版. 2020, 244p.
2)Nakamura K. J Orthop Sci. 2008 ; 13 : 1-2.
3)中村耕三. 日整会誌. 2008 ; 82 : 1-2.
4)日本整形外科学会 編. ロコモティブシンドローム診療ガイド2021. 文光堂. 2021.
5)日本整形外科学会. ロコモパンフレット2020年度版.
6)横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター. ぷにぺだ:リフレッシュしながらロコモ対策を実現するペダル式シュレッダー. https://y-cdc.org/blog/puni-peda/, (閲覧:2021-10-28)
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