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VIVA! ORTHO

Column 高齢者の正しい筋肉体操 第3回 筋肉は鍛えないと“もったいない”

近畿大学生物理工学部 人間環境デザイン工学科 准教授 谷本 道哉

大事な筋肉ほどよく落ちる

筋肉は加齢とともに萎縮します(サルコペニア)。どの筋肉も同じように落ちていくわけではなく、残念ながら体重を支える重要な筋肉でより激しく落ちてしまいます。太腿の前側の大腿四頭筋は、80歳で30歳頃の半分程度にまで落ち、お尻の大殿筋も同じくらい落ちます。この2つは立ち上がるための主要な筋肉です。ここから考えると、若い頃に床から片脚で立ち上がれないと、80歳時に両脚で立ち上がれなくなるので、自活が困難な老後になることになります。

逆に落ちにくい筋肉もあり、太腿の裏側の筋肉はさほど落ちません。なぜでしょうか?生き物が種としての繁栄を持続させるためには、一定の年齢で個体は死を迎えなければなりません。生物学的視点から考えると、大事な筋肉ほど死を迎えるためによく落ちるようにプログラムされているのかもしれません。

脚に比べると落ちにくい腕の筋肉ですが、腕の裏側の上腕三頭筋は加齢で萎縮が強く進みます。一方、力こぶの上腕二頭筋はあまり落ちません。上腕三頭筋は体重を支える筋肉ではありませんが、われわれはもともと四足歩行でした。つまり上腕三頭筋はかつて体重を支える筋肉だったわけです。ここからも、体重を支える重要な筋肉は加齢で落ちるようにプログラムされていると言えそうです。

筋肉は極めて適応能力が高い

「人生100年時代」と言われるように、多くの人が長生きするようになりました。80歳で自立して生活できなくなるわけにはいかず、サルコペニアに抗わなくてはなりません。

「大事な筋肉ほど落ちやすい」という困った問題がある一方で、筋肉には「適切な運動刺激で何歳からでも大きく発達する」というとても嬉しい特徴もあります。筋肉は非常に適応能力の高い組織で、きちんと筋トレを行えば何歳からでも大きく発達させることが可能です。筋肉は、加齢による衰えを緩やかにできるどころか、何歳からでも過去最高を目指せると思ってください。60代、70代で活躍するボディビルのマスターズクラスのトップ選手には、40歳、50歳以降に筋トレを始めたという人もいます。

筋肉にかかる負荷は、じっと不活動で過ごすか、活発に動き回るか、強い負荷でスポーツやトレーニングをするかなど、活動の仕方で大きく変わります。受ける負荷で大きく変わる組織ゆえに、状況に応じた対応ができるため適応能力が高くなったのかもしれません。

変われるのにしないなんて、もったいない!

筋肉は、加齢で大事な部位ほど衰えますが、筋トレはそれを防ぎます。さらに発達させることもできます。やれば確実に

変われるのに、それをしないなんてそんな「もったいない」ことはありませんよね。

筋トレにはそれほど時間はかかりません。大きな動作で丁寧に、反復できなくなる「オールアウト」まで繰り返せば、1日5分でもOKです。オールアウトと聞くと、「大変だ」と思うかもしれませんが、筋トレは部分的な運動ですので、全身的な疲労はそれほどにはなりません。激しく息が上がったり、大汗をかくということはありません。丁寧な動作で行うほど、筋肉をしっかり追い込めつつ、全身的な疲労は抑えられます。着替えずに普段着でもできますので、安心して存分にオールアウトしてください。

おすすめの種目は下半身全体を鍛えられるランジです。前に大きく踏み込んで、戻ります。転ばないように机に手を添えながら行います。遠くに踏み込むほど負荷が上がります。机に置く手に体重を預ければ負荷が下がります。少ししゃがみを浅くしてもいいでしょう。10~15回できるくらいに負荷を調整して、左右1セット、もしくは2セットずつオールアウトまで行いましょう。きちんとオールアウトまで行えば、週に2~3回で十分な効果が得られます。

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