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VIVA! ORTHO

先端医学情報 脂肪由来幹細胞による新たなインプラント関連感染症治療

金沢大学大学院医薬保健学総合研究科整形外科 准教授*、研究協力員**
加畑 多文* 吉谷 純哉**

はじめに

人工関節周囲感染症は、十分な濃度の抗生剤がインプラント周囲に届かないことや、細菌がバイオフィルムを形成することなどにより治療に非常に難渋してきた。その治療法は、長期の抗生剤投与、抗生剤入りセメントの留置と再置換術を行うといった具合に治療期間が非常に長期間にわたり、それでも鎮静化しない症例も少なくない。そのため、従来治療を上回る効果をもつ新しい治療法の開発が急務であるものの、過去から治療法はほとんど変化していない。近年、再生医療の発展とともに間葉系幹細胞を用いた治療に注目が集まっており、さまざまな疾患に対して臨床試験が行われている1)。そして細菌による感染症に対しても間葉系幹細胞の効果が報告されており、全身感染症の治療や局所感染に対する治療への効果も報告されている2)3)。その作用としては、抗菌ペプチドの分泌などによる直接的な効果や、免疫調整機能を介した間接的な効果が報告されている4)。さらにPessinaらは骨髄由来幹細胞がそのゴルジ小胞内に薬剤を含有できることを報告しており、drug deliveryとしての役割を示唆している5)。われわれはこれらの報告から、間葉系幹細胞と抗生剤の併用治療に着目した。

脂肪由来幹細胞と抗生剤の併用治療

われわれのグループは、間葉系幹細胞の1つである脂肪由来幹細胞(adipose derived stem cells:ADSCs)を用いて、その感染に対する効果を検討した6)。In vitroの実験にて、ADSCsは抗生剤と共培養することにより細胞内に黄色ブドウ球菌の最小発育阻止濃度以上の濃度の抗生剤が取り込まれていること、また抗菌ペプチドの1つであるrat cathelicidin-related antimicrobial peptide (rCRAMP)のmRNAを発現していることがわかった。これらの結果から、ADSCsと抗生剤を併用してインプラント周囲感染に用いることで、これまで以上の治療効果が見込めるのではないかと考えた。

そこでラットインプラント周囲感染モデルに対して、無治療群、ADSCs-抗生剤併用投与群、抗生剤投与群、ADSCs投与群の4群を作製し、それぞれ局所投与による治療効果を比較検討した。その結果、ADSCs-抗生剤併用投与群は画像上の骨溶解を改善し、インプラント付着細菌数を最も減少させ、さらにADSCs-抗生剤併用投与群のみが最も有意に膿瘍形成を減少していた(図)。ADSCs投与群でも無治療群と比較すると細菌数を減少させており、ADSCsの細菌感染に対する効果が示された6)

間葉系幹細胞の細菌に対する効果は近年報告が散見され、その原因として抗菌ペプチドの分泌能があること7)、Toll-like receptorを有し細菌を感知することができること8)、食細胞の貪食作用の増強や免疫機構への関与が報告されている9)。抗菌ペプチドは上皮細胞などからも分泌されるが、間葉系幹細胞からも分泌されることが報告されており、本研究においてもこの作用が働きインプラント付着細菌数が減少した可能性があると思われる。本研究結果から感染治療に対する局所投与への応用などが考えられ、またADSCs全身投与での有効性も検討すべく、現在モデルを作製して実験を行っている。

図 ラットインプラント周囲感染モデルにおけるスクリューホール周囲の病理像
黄色矢印部は膿瘍形成を示している。ADSCs-抗生剤併用投与群でのみ明らかな膿瘍形成を認めず、スクリューホールの骨溶解も認めていない6)

(筆者提供)

まとめ

ADSCsは抗菌ペプチドrCRAMPのmRNAを発現しており、有効な濃度の抗生剤を含有していた。ADSCsは抗菌効果を有し、抗生剤と併用することでその効果が増強された。抗生剤とADSCsのcombined therapyはインプラント周囲感染症の新たな治療法となる可能性が示された。

文献

1)Alcayaga-Miranda F, et al. Front Immunol. 2017 ; 8 : 339.

2)Mezey E, et al. Immunol Lett. 2015 ; 168 : 208-14.

3)Criman ET, et al. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2016 ; 4 : e751.

4)Marrazzo P, et al. J Mol Med (Berl). 2019 ; 97 : 437-50.

5)Pessina A, et al. PLoS One. 2011 ; 6 : e28321.

6)Yoshitani J, et al. Sci Rep. 2020 ; 10 : 11182.

7)Sutton MT, et al. Stem Cells Int. 2016 ; 2016 : 5303048.

8)Cho HH, et al. Stem Cells. 2006 ; 24 : 2744-52.

9)Cassatella MA, et al. Stem Cells. 2011 ; 29 : 1001-11.

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