2014年からの3年間は日本サッカー協会からの依頼を受け、2016年のリオデジャネイロオリンピックをはじめ、男子サッカー日本代表(U-23)に帯同する貴重な経験を得ました。事前準備からメディカルスタッフの業務は多岐にわたり、開催地や個々の選手に関する情報収集など、事前準備がメインと言えるほどでした。開催地が暑い地域なら暑熱対策、高地なら低酸素への対策、衛生状態によっては各種感染症に対する予防接種も必要です。
地域に応じて黄熱病、狂犬病や腸チフスなどさまざまな予防接種を行いますが、日本代表では直前まで代表選手が確定しないため、候補段階の選手すべてに接種を行わなければならず、接種計画には非常に難渋しました。選手招集に際しては、各所属チームのドクターと連携したメディカル情報の収集が必要となりますが、それはオリンピックに限らず、またU-20、U-17など、どのカテゴリーの大会でも重要な作業です。現地入りした後の連携をスムーズに図る上でも、日頃からのコミュニケーションをうまく取っておくことの重要性を実感しました。
入念な準備を経ての現地入りですが、当然ながら現地でも選手のコンディション評価やケガ、疾病への対応などと業務は多く、当時流行していたジカ熱にはワクチンがなかったので蚊に刺されないよう対策するしか手立てがなく、現地の強い虫除けを大量購入してグラウンドや宿舎への配備を徹底するなど対応しました。
普段の臨床と並行しながらの帯同業務はハードですが、チームが勝利してレベルを上げて世界の舞台で戦っている姿を見ると、日本サッカーの競技レベル向上に一役を担っているという実感が得られます。サッカーに限らず、スポーツ整形を志望する先生方には、ぜひ現場に出ることをお勧めしたいと思います。ひとたび現場に出れば、教科書で習ったことは全体のごく一部に過ぎないと痛感するはずです。現場で選手の動きを見て、指導者の思考に触れることは、スポーツ整形を携わる上で有意義な経験になるでしょう。
現在、スポーツのメディカルサポートに加わる医師は整形外科が中心ですが、日常生活とレベルの異なる負荷がかかるのは筋肉や骨に限ったことではなく、最近は脳震盪などの頭部外傷や心疾患による突然死なども注目されています。選手を包括的にサポートしていくには幅広い専門性が必須であり、さまざまな診療科からの参画が期待されます。