田中 角谷先生は脊椎転移を専門に手術を多数実施されていますが、他科の意識の変化を感じることはありますか。
角谷 当院では2013年に骨転移のcancer board(CB)を立ち上げて以降、院内の脊椎転移に対する意識は変わりました。脊椎転移がADL・QOLを大きく下げていることや、適切な治療を行うことで再びADL・QOLが改善することが認識されたことで、脊椎転移の手術件数は大幅に増加しました。がんロコモが提唱された2018年には、さらにその傾向が顕著なものとなりました(図2)。
また、手術件数の増加のみならず、内科と外科の連携が深められた結果として、悪化前に紹介されるようにもなりました。すなわち、以前は当科紹介時にはFrankel分類のB・Cにあたる高度な麻痺症状を有する状態であった方が50%程度でしたが、CB発足によりB・Cの患者さんが32%に減少し、D・Eで紹介される機会が増えました4)。これは治療成績向上につながっています。
田中 神戸大学はスポーツ整形に強いですが、整形外科内の他のグループの意識はいかがでしょうか。
角谷 もともと当科のスポーツ整形は、トップレベルのアスリートのスポーツ復帰に実績がありますが、近年はがん患者さんのスポーツ復帰にも取り組んでいます。最近では、甲状腺乳頭がんのL2への転移により腰痛を生じ、当科に紹介された60代後半の男性患者さんの例があります。L2に対して経皮的椎体形成術(percutaneous vertebroplasty:PVP)が施行され、腰痛は軽減し日常生活を送っていましたが、やがて膝痛が出現しました。この患者さんの目標は、以前のようにゴルフやマラソンをしたいということでした。長期予後が見込め、患者さん自身もハイレベルのスポーツ復帰を希望されたために、スポーツ整形グループが高位脛骨骨切り術を実施し、6ヵ月後にはゴルフやジョギングが可能になりました。当科においてもがんロコモに対する意識が徐々に高まり、浸透してきていると感じています。
田中 患者さんの希望に対して、それぞれの専門を治療にきちんと生かすことが重要ですね。
ところで先生方の病院では、がん診療の専門医からの紹介は増えているのでしょうか。
河野 乳がんや前立腺がんのように骨転移が多い領域では、学会が骨転移の話題を取り上げてくださるので紹介患者さんは増えている傾向にあります。ただ、整形外科ががん診療に関心をもたないのと同様に、腫瘍専門医も運動器への関心が低いといえます。したがって、依然として患者さんが動けないときに、がんで動けないのか、運動器の障害で動けないのかがきちんと評価できてないという問題があります。
土屋 当科では骨転移を多く扱っていますが、最も紹介が多いのは泌尿器科です。特に腎細胞がんの骨転移は北陸に限らず全国から紹介があります。この背景として、泌尿器科学会などで当科の医師が発表したり、講演を行ったりする機会があり、整形外科の手術介入により患者さんのQOL、生命予後が改善することを知っていただけたことが大きいのではないかと思っています。
田中 腎細胞がんや甲状腺がん、前立腺がんなど、まずは予後が比較的よいがんから働きかけていくとよいのかもしれませんね。学会を通じた普及もありますが、地域での啓発活動などはいかがでしょうか。
角谷 骨転移CBの立ち上げに伴い、院内では手術件数の増加や緊急手術の減少など一定の成果を得ていますが、一方で院外からの紹介患者が緊急手術となるケースは増加していた背景があり、地域格差を改善する目的で出張型CBを実施しています。兵庫県内の基幹病院でも骨転移CBを設置している施設は限られておりますので、当院の整形外科医、放射線治療医、リハビリテーション医などが出向いて出張型CBを実践し、体験してもらう取り組みをしています。