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イベニティライブラリ
医療経済からひもとく骨粗鬆症治療の重要性

3. 骨粗鬆症の疾病対策における費用対効果

【監修】そうえん整形外科 骨粗しょう症・リウマチクリニック 院長 宗圓 聰 先生

近年、欧米諸国を中心に、骨粗鬆症の疾病対策における費用対効果に関するエビデンスが、臨床上または医療政策上の意思決定に活用されています1)。ここでは、日本での骨粗鬆症の疾病対策における費用対効果についてお届けいたします。

検診と治療の費用対効果

骨折高リスク患者の骨粗鬆症の検診と治療は、骨粗鬆症性骨折を防ぎ、治療に関わる医療費を減らし、費用対効果があると予測されており2)、日本では女性のための骨粗鬆症検診プログラムが健康増進プロジェクトとして地方自治体により実施されています。実際に、近年行われた骨折歴のない閉経後の日本人女性を対象としたYoshimuraら3)の研究によると、骨粗鬆症の検診とビスホスホネート治療による増分費用効果比(ICER*)は、60歳以上で50,000ドル/QALY未満であり、検診と治療介入が費用対効果に優れることが示されています(図1)。

*ICER(incremental cost-effectiveness ratio)1):(新治療の費用-既存治療の費用)÷(新治療の効果-既存治療の効果)で算出される、1効果(QALY)を得るために必要となる追加費用のこと。新たな治療法を導入することにより、追加的にどのくらいの費用がかかり、どのくらいの効果が得られるか評価する指標で、ICERが小さいほど費用対効果に優れることを意味する。
QALY(quality-adjusted life year)1):質調整生存年数。生存年数×QOL値[現在の健康状態を0(死亡状態)~1(完全に健康な状態)の範囲でスコア化したもの]で算出される。

図1 骨粗鬆症の検診と治療の年齢階級別費用対効果

Yoshimura M, et al. Osteoporos Int 2017; 28(2): 643-652

さらに、シナリオ感度分析の結果、55~59歳の患者においても、臨床上の危険因子(現在の喫煙、過度の飲酒、大腿骨近位部骨折の家族歴)のどれか1つを持つと、検診と治療介入のICERは50,000ドル/QALYの閾値未満となり、費用対効果に優れていることが示されています(図23)

図2 臨床上の危険因子と年齢の組み合わせ別費用対効果

Yoshimura M, et al. Osteoporos Int 2017; 28(2): 643-652

リエゾンサービスの費用対効果

骨粗鬆症患者における治療継続率の低さは国際的な課題として挙げられています1)。そこで、骨折後の骨粗鬆症患者に対する再骨折予防のための多職種連携による支援制度として、近年、欧米諸国を中心に骨折リエゾンサービス(Fracture Liaison Service: FLS)と呼ばれる取り組みが進められており1)、日本でも初発・二次骨折予防のための事業として、日本骨粗鬆症学会が中心となり、骨粗鬆症リエゾンサービス(Osteoporosis Liaison Service: OLS)の普及が進められています1, 4)。これらの支援プログラムにより、治療率の改善や再骨折発生率の低下が期待されますが、相応の費用も発生するため、費用対効果についての評価が求められます1)。欧米諸国では、FLS等の治療支援プログラムによる費用削減効果が報告されています5-9)。日本でも、Moriwaki・Noto10)により、OLSのもとで二次骨折予防のための薬物治療をした場合の費用対効果が推定されています。これは、大腿骨近位部骨折の既往のある65歳、75歳の日本人女性の仮想コホートを対象としたシミュレーション分析です。この分析により、OLSのもとで5年間治療をした場合のICERは50,000ドル/QALYを下回り、65歳以上でTスコア-2.5以下の患者に対するOLSは、費用対効果に優れることが示されました。さらに「現在の喫煙」「過度の飲酒」「大腿骨近位部骨折の家族歴」といった危険因子を持つ集団ではICERが低下し、「過度の飲酒」と「大腿骨近位部骨折の家族歴」の両方を持つ高リスク集団ではOLS群が無治療群と比べて優位(費用削減)となることが示されました(表11, 10)

これらのことから、日本の医療政策における骨粗鬆症の検診プログラムやOLSによる疾病対策は、費用対効果に優れた介入であるといえるでしょう。費用対効果の観点から、骨粗鬆症を積極的に診断して、年齢や臨床上の危険因子を考慮した望ましい支援の在り方を検討し、治療していくことが大切であると考えられます。

Moriwaki K, Noto S. Osteoporos Int 2017; 28(2): 621-632より改変

<参考文献>

1)森脇健介. Clin Calcium 2017; 27(9): 1295-1301
2)原田敦ほか. 日老医誌 2005; 42(6): 596-608
3)Yoshimura M, et al. Osteoporos Int 2017; 28(2): 643-652
4)日本骨粗鬆症学会ホームページ.リエゾンサービス(http://www.josteo.com/ja/liaison/index.html)(2021年2月8日閲覧)
5)Majumdar SR, et al. Osteoporos Int 2011; 22(6): 1799-1808
6)Majumdar SR, et al. Am J Med 2013; 126(2): 169. e9-17
7)Majumdar SR, et al. J Clin Endocrinol Metab 2013; 98(5): 1991-2000
8)McLellan AR, et al. Osteoporos Int 2011; 22(7): 2083-2098
9)Solomon DH, et al. J Bone Miner Res 2014; 29(7): 1667-1674
10)Moriwaki K, Noto S. Osteoporos Int 2017; 28(2): 621-632

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