「微小残存病変(minimal residual disease:MRD)」は、治療中または治療後に体内に残る少数のがん細胞を指す1)。従来の形態学的評価(光学顕微鏡による細胞の観察、骨髄・血液検査等)による検出閾値を下回るがん細胞の存在であり2)、MRDの検出には100万個の正常細胞の中から1個のがん細胞を見つけるような感度の高い検査が必要となる1)。MRDは主にリンパ腫や白血病などの造血器腫瘍で評価され1)、その存在は、従来の形態学的評価による「血液学的寛解(hematological CR)」と遺伝子学的検査によっても白血病細胞が検出されない「分子学的寛解(molecular CR)」3)の間に位置付けられる4)。一方で、minimal(微小)の定義が曖昧であることから、最近ではMRDを「測定可能残存病変(measurable residual disease)」と呼ぶこともある(図1)1,4,5)。
図1 MRDの概念4)
急性骨髄性白血病(AML)において、残存病変のレベルは再発リスクおよび生存転帰と関連し、治療中~治療後のMRD評価は治療効果の判定や再発の予測に役立つとされる(図2)6,7)。ELN(European Leukemia Net)のMRDを用いたAML診療の提言8)および成人AMLの診断と管理に関する勧告9)では、AMLにおけるMRD評価の意義として「①より深い寛解状態を確立するための定量的手法を提供する8,9)、②寛解後の再発リスク評価を精緻化する8,9)、③早期介入を可能にするために差し迫った再発を特定する8,9)、④より強固な移植後サーベイランスを可能にする8)、⑤薬剤の試験と承認を促進するための代替エンドポイントとして用いる8,9)」の5つが挙げられている。
図2 異なる感度の測定方法を用いたMRDに基づく治療反応および再発パターン6)
表1 MRDの測定方法(概要)
図3 MRD評価のアルゴリズムとMRDが臨床的に重要なバイオマーカーとして考えられる時点9)
MRDの各測定方法の具体的な特徴、AMLにおける臨床転帰との関連性を以下に説明する。
①LAIP(白血病特異抗原、leukemia-associated immunophenotype):
スクリーニング抗体パネルを用いて、LAIP(白血病細胞において少なくとも5~10%に発現し、正常細胞における存在は0.1~0.01%未満である抗原の組み合わせ)を診断時に特定し、その特定したLAIPを治療後のモニタリングで追跡する方法である8,15)。表現型の変化や診断時に除外された抗原の出現などにより偽陰性となりやすいことが課題である15)。
②DfN(系統逸脱抗原、Different from Normal)
固定抗体パネルを使用し、確立された免疫表現型プロファイルをスクリーニングすることで、診断時の白血病免疫表現型に関係なく、異常な白血病細胞を正常細胞と区別する解析法である8,15)。DfNは治療後のフォローアップで利用され、診断時の情報が入手できない場合や、診断時のLAIPとは異なる新たな異常の検出にも適用できる8)。
<MFCによるMRD評価と臨床転帰との関連性>
MFCによるMRD評価と臨床転帰の関連性が示されている(図4)16)。造血幹細胞移植(HSCT)前にMFCによりMRD陽性(MRD≧0.01%)であった急性白血病患者では、MRD陰性例と比較して、移植後1年の全生存(OS)率(陽性群46.9%、陰性群70.2%、図4a)、無増悪生存(PFS)率(陽性群43.8%、陰性群64.3%)が低く、いずれも有意に悪化していた(OS:p=0.003、PFS:p=0.009、log-rank検定)16)。また、有意な差は認められないものの3年時累積再発率もMRD陽性例で高かった(陽性群36.9%、陰性群19.7%、p=0.084、log-rank検定、図4b)16)。非再発死亡(NRM)率(陽性群39.7%、陰性群20.5%、p=0.046、log-rank検定)、無GVHD/無再発生存(Graft-versus-host disease-free, Relapse-Free Survival:GRFS)率(陽性群26.5%、陰性群46.4%、p=0.005、log-rank検定)もMRD陽性例で悪化していた16)。
図4 MFCにより評価したHSCT前のMRDの有無と移植後転帰との関連(海外データ)16)
表2 AMLにおけるMRD測定のためのqPCRの標的遺伝子3,8,9)
<PCRによるMRD評価と臨床転帰との関連性>
PCRによるMRD評価と臨床転帰の関連性が示されている(図5)。NPM1変異を有するAML患者の検体を用いて、変異型NPM1遺伝子の転写産物をMRDとして逆転写PCR法により検出したところ、化学療法2サイクル終了時にMRD陽性であった患者では、3年後の再発リスクが高く(陽性群82%、陰性群30%、単変量ハザード比4.80、95%CI 2.95-7.80、p<0.001、Cox回帰)、生存率が低かった(陽性群24%、陰性群75%、単変量ハザード比4.38、95%CI 2.57-7.47、p<0.001、Cox回帰)18)。さらに、共存変異としてFLT3-ITD変異を有する患者では、MRD陽性例における累積再発率が92%と、MRD陰性例の35%よりも有意に高いことが示された(p<0.001、log-rank検定)(図5)18)。
図5 集中化学療法2サイクル終了時にPCRにより検出したMRDの有無と臨床転帰との関連(海外データ)18)
<NGSによるMRD評価と臨床転帰との関連性>
NGSによるMRD評価と臨床転帰の関連性が示されている(図6)。少なくとも一つ以上の体細胞変異を有するAML患者において、初回導入化学療法後にMRD陽性であった場合、MRD陰性であった場合よりもOS中央値が有意に短く(陽性群 17ヵ月、陰性群 到達せず、p=0.0036、log-rank検定、死亡のハザード比2.2、95%CI 1.3-3.7、Cox比例ハザード解析)、再発までの期間の中央値も有意に短かった(陽性群13.6ヵ月、陰性群 到達せず、p=0.014、Gray検定、ハザード比1.9、95%CI 1.1-3.1、Cox比例ハザード解析)19)。
図6 初回導入化学療法後のNGSにより検出したMRDの有無と臨床転帰との関連(海外データ)19)
図7 Allo-HSCT後の血清中ctDNAと骨髄中ドライバー変異の残存の有無と臨床転帰との関連
現在、MRD測定に広く利用されているMFC、PCR、NGSなどの検査方法における限界の克服を目指して、次のような新しい技術が開発されている。
引用文献
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