- FLT3阻害薬の適応を判定するための補助
FLT3阻害薬の適応は、以下のように判定される4)。
<ギルテリチニブフマル酸塩>
FLT3遺伝子変異の検査には、PCR(polymerase chain reaction)法および電気泳動法を用いた検出法のほか1)、次世代シークエンサー(Next-Generation Sequencer:NGS)を用いたがん遺伝子パネル検査などがある。FLT3遺伝子の2種類の変異解析を1つの検査系で行うことは難しく、それぞれに対して検査系を構築し測定・解析を行う必要があり、従来は各施設で開発された方法(laboratory developed testing:LDT)で検査が行われてきた2)。しかし、FLT3阻害薬の保険収載を受け、PCRベースの体外診断キットであるリューコストラットCDx FLT3変異検査®が承認された3)。
本検査は、FLT3阻害薬ギルテリチニブおよびキザルチニブの適応を判断するためのコンパニオン診断薬として承認を受けており3,4)、FLT3-ITD変異およびTKD D835/I836変異の2つが検出できるように設計されている。急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)と診断された患者の末梢血あるいは骨髄液から得られた単核球から抽出したゲノムDNAをPCR法によって増幅させ、キャピラリー電気泳動法により増幅産物の長さを解析することで変異の有無を検出する。
図2 リューコストラットCDx FLT3変異検査®におけるTKD変異の検出原理
4)FLT3 遺伝子変異検出キット リューコストラットCDx FLT3 変異検査® 電子化された添付文書(2024年7月改訂 第11版)
7)Yamamoto Y, et al. Blood. 2001; 97(8): 2434-9.
より作図
表1 検体の変異状態の決定4)
<キザルチニブ塩酸塩>
次世代シークエンサー(NGS)とは、従来のキャピラリーシークエンサーに代わって塩基配列を決定する技術の総称である8)。NGSの技術としては、以下の方法などが開発されている(表2)。NGSの技術革新のスピードは目覚ましく、最新(2025年2月時点)の機種(Illumina社 NovaSec X Plus)では1回の処理実行(system-run)で16T(16兆)ベースを読むことができる。なお、ヒトのゲノムサイズは約3G(30億)ベースである。
表2 NGSの技術と測定原理9)
現在、NGSは様々なアプリケーションに用いられる8)。例えば、mRNAを対象としたRNA-Seq解析は、遺伝子発現の定量やスプライシングの変化の評価に用いられる。また、免疫沈降によって特定の蛋白質に結合したDNAを対象とすることで、その蛋白質の結合配列の決定や結合パターンの評価が可能となる。
また、NGSは対象とするDNAの範囲によって「全ゲノムシークエンス」、「全エクソンシークエンス」「標的シークエンス」に分かれる(図3)8,10)。現在、臨床シークエンスには「標的シークエンス」が使用されているが(表3)、今後も開発が進みコスト面の課題などが解消された場合には「全ゲノムシークエンス」が用いられるようになると予想される8)。
図3 全ゲノムシークエンス、全エクソンシークエンス、標的シークエンスの違い
表3 標的シークエンスの特徴8)
2008年に染色体核型正常(CN-AML)のAML症例において実施された全ゲノムシークエンス解析結果が初めて報告されて以降、AML症例における全エクソンシークエンスの解析結果が相次いで報告されている11,12)。2013年には、The Cancer Genome Atlas(TCGA)により、de novo AML症例200例の網羅的な遺伝子変異解析の結果が報告され(50例:全ゲノムシークエンス、150例:全エクソンシークエンス)、特に高頻度で同定された遺伝子変異はFLT3、NPM1、DNMT3Aの3種類であった13)。
固形がんでは初回治療時の遺伝子パネル検査も先進医療として開始され、ゲノムプロファイリングに基づく個別化治療が推進されているが、造血器腫瘍は一般に進行が速く、検体の提出から結果返却までの時間の影響を受けやすいため14)、通常は直ちに治療が開始され、初期治療に遺伝子パネル検査の結果を反映できない15)。
米国で行われたBeat AML Master Trial15)では、60歳以上の初発AML患者を対象に、ゲノムプロファイリングに基づいた個別化治療による予後への影響が検討されている。本試験の特筆すべき点は、ゲノム解析結果が検体提出から7日以内に返却されたことである。
まとめ
引用文献
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