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FLT3遺伝子について

FLT3遺伝子とは

FLT3(FMS-Like Tyrosine Kinase 3)遺伝子は、1991年にRosnetらによって報告された、染色体上で13q12に位置し1)、24のエクソンから構成される遺伝子である2,3)図1)。

図1 FLT3遺伝子の染色体における座位

FLT3遺伝子の発現部位

FLT3遺伝子は主に骨髄系及びリンパ系の造血幹細胞や前駆細胞集団で発現しており4,5)、特に骨髄細胞や臍帯血細胞ではCD34陽性細胞の大部分において発現が認められる6)。過去には、肝臓及び腎臓におけるFLT3遺伝子の弱い発現が報告されていたが7)、最近RNA-Seq解析(トランスクリプトーム解析)により、ヒトの虫垂、骨髄、リンパ節、脾臓などのいくつかの臓器でFLT3 mRNAが同定されている8)

FLT3受容体の構造

FLT3遺伝子産物であるFLT3受容体は、FLK2(fetal liver kinase-2)、STK-1(stem cell tyrosine kinase-1)、CD135抗原とも呼ばれ、細胞表面に存在する膜型の受容体型チロシンキナーゼ(RTK)であり、幹細胞因子受容体(KIT)、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体などと同じく、クラスⅢRTKファミリーに属する9)。典型的なRTKと同様に、FLT3受容体は細胞外の特異的なリガンドへの結合領域(細胞外ドメイン、extracellular domain:ECD)と細胞内のチロシンキナーゼ領域(細胞内ドメイン、cytoplasmic domains)が、1回細胞膜貫通領域(膜貫通ドメイン、transmembrane domain:TMD)によって連結する構造を持つ(図2A10)。細胞内ドメインは、膜近傍ドメイン(juxtamembrane domain:JMD)、2つのチロシンキナーゼドメイン(tyrosine kinase domain:TKD)とその間にあるキナーゼ挿入ドメイン(kinase insertion domain:KID)に分かれる10)
通常、FLT3受容体は単量体で存在するが、FLT3リガンドが細胞外ドメインに結合すると二量体を形成し、自己リン酸化を介して活性型となりチロシンキナーゼ活性が誘導される(図2B11)。その結果、下流に存在する細胞内シグナル伝達経路が活性化され、血液細胞の増殖、アポトーシスの抑制に働く11)。通常、FLT3受容体は細胞外からのシグナルがなければ膜貫通ドメインによって二量体化が阻害され、不活性型に維持されている11)

図2 FLT3受容体の構造と活性化

FLT3遺伝子変異

FLT3遺伝子変異は急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)患者において比較的高頻度に同定される遺伝子変異であり、2013年に米国のがんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas; TCGA)によって報告されたde novo AML患者を対象とする網羅的な遺伝子解析では、28%の症例にFLT3遺伝子変異が認められた12)
日本人de novo AML患者においては約25%にFLT3遺伝子変異が存在し(図313)、特に正常核型AML(CN-AML)において高頻度で認められる14)。染色体転座t(8;21)(q22;q22)やinv(16)(p13.1q22)又はt(16;16)(p13.1;q22)により形成されるキメラ遺伝子産物RUNX1-RUNX1T1及びCBFB-MYH11が認められるコア結合因子急性骨髄性白血病(CBF-AML)では、FLT3遺伝子変異は稀であるものの、CBFB-MYH11が認められるAMLではFLT3-TKD遺伝子変異が高頻度で認められる14)
AMLにおける遺伝子変異は機能別に、細胞増殖促進に関与する遺伝子変異(Class 1遺伝子異常)、細胞の分化障害に関与する遺伝子変異(Class 2遺伝子異常)、エピジェネティック制御に関与する遺伝子変異に分類され、これら3種類の遺伝子変異は高率に重複して獲得されている13)FLT3遺伝子変異はClass 1遺伝子異常に分類され、NPM1、DNMT3A、KMT2A部分タンデム重複(KMT2A-PTD)遺伝子変異と重複することが多いが、KIT、K/NRAS、CEBPA-double(CEBPA-D)遺伝子変異とは相互に排他的とされる13)

図3 日本人AML患者における主な遺伝子変異

FLT3遺伝子変異の主な種類

主なFLT3遺伝子変異としては、JMDの遺伝子配列が重複する内縦列重複変異(Internal Tandem Duplication:ITD)、チロシンキナーゼドメインに点突然変異又は欠失が起こるチロシンキナーゼドメイン変異(tyrosine kinase domain:TKD)があり(図4)、いずれも変異体のFLT3受容体がリガンド非依存性の二量体化及びトランスリン酸化することで恒常的に活性化する14)

図4 FLT3遺伝子変異による下流シグナル伝達経路の活性化

  • FLT3遺伝子内縦列重複変異(FLT3-ITD変異)
    FLT3-ITD変異は、FLT3受容体に起こる内在性変異であり、FLT3遺伝子内のタンデムリピート配列が内挿又は複製され、JMDのC末端に長いアミノ酸配列が挿入される15)
    FLT3-ITD変異が生じることで、FLT3受容体のJMD部分が長くなるが、これによりFLTリガンド非依存的に二量体を形成し、チロシン残基の恒常的なリン酸化を起こす16)。さらにITD変異をもつ分子と変異のない野生型分子の二量体を形成することも報告される。また、FLT3受容体において、JMD領域はキナーゼの自己リン酸化を抑制する役割をもつが、ITD変異によりJMD領域が分断されることにより、恒常的なキナーゼ活性化が起こるといわれる17)。Kiyoiらの報告により15)、初めて急性前骨髄球性白血病(APL)患者におけるFLT3-ITD変異が発見され、白血病細胞の増殖を亢進させることが示されたことで、AML治療における重要なマイルストーンとなった。
  • FLT3遺伝子チロシンキナーゼドメイン変異(FLT3-TKD変異)
    FLT3-TKD変異は、名古屋大学のグループがAML症例のFLT3遺伝子配列を分析する中で発見された、チロシンキナーゼドメインのactivation loop(A-loop)内における835番目のアスパラギン酸残基のミスセンス変異である18)。また、その後もFLT3の同じ部位での欠失型変異、点突然変異が報告されている19)。A-loopは受容体型チロシンキナーゼの基質認識や酵素反応を担うキナーゼ活性の中心であり、FLT3-TKD変異によりATP結合部が安定化して恒常的なキナーゼ活性が起こり、FLT3受容体の自己リン酸化が亢進し、細胞増殖や生存のシグナル伝達が活性化される18)FLT3-TKD変異は、FLT3受容体の不活性型のみに作用するTypeⅡ FLT3阻害薬に対する耐性化因子の一つでもある20)

FLT3-ITD変異の挿入部位と長さが予後に及ぼす影響

FLT3-ITD変異の挿入部位や長さは症例ごとに異なるが、これらが予後に影響する可能性が示唆されている21)。本研究では、FLT3-ITD変異陽性の若年成人AML患者241例を対象に遺伝子解析が行われ、241例中34例に2個以上のITD変異を認め、合計282個のITD変異が存在した。ITDの長さ(中央値)は、48ヌクレオチド(範囲15-180)であった。ITD変異の挿入部位をFLT3受容体の機能領域別に分類したところ(図5A)、JMDが148例、JMDヒンジ領域が48例、チロシンキナーゼドメイン(TKD)のβ1シートが73例、その他のTKDが13例であった(図5B)。ITD変異の長さは挿入部位と強く相関し、挿入部位の位置がC末端であるほど挿入断片の大きさが長くなることが示された(p<0.001、Fisher exact test)。
241例中237例の寛解導入療法の臨床データが得られ、ITD変異の挿入部位別に無再発生存率及び全生存率を比較したところ、いずれもTKDのβ1シートを挿入部位とする群で、全患者集団よりも劣っていた(図5C、D)。なお、初回完全寛解(CR)後に同種幹細胞移植を受けた患者の割合は、TKDのβ1シートを挿入部位とする群と、他の患者との間に差はなかった。
多変量解析においても、TKDのβ1シートを挿入部位とするITD変異は、無再発生存(ハザード比[95%CI]:1.86[1.29-2.67])、及び全生存(ハザード比[95%CI]:1.59[1.13-2.24])の予後不良因子として同定された(HLA適合血縁ドナー、HLA適合非血縁ドナー、HLA半合致移植を共変量としたCox回帰モデル)。TKDのβ1シートを挿入部位とするITDは、FLT3-ITD陽性の若年成人AML患者における重要な予後不良因子であると示唆される。

図5 FLT3-ITD変異の挿入部位と長さによる臨床的影響(海外データ)

FLT3遺伝子変異と予後への影響

AML患者において、FLT3遺伝子変異の有無が寛解期間と生存期間に関連することが報告されている22)。本研究では、正常核型AMLを対象に、FLT3-ITD変異又はFLT3-TKD変異の有無と予後との関連性が検討された。追跡期間中央値34ヵ月における結果は以下の通りである。

  • 寛解期間(図6A
    FLT3遺伝子変異陽性例(ITD変異又はTKD変異、又は両者)では、FLT3遺伝子変異陰性例と比較して、寛解期間の中央値が有意に短かった(3群間比較p=0.03、log-rank検定)。
    ペアワイズ比較では、FLT3-ITD変異陽性例とFLT3遺伝子変異陰性例との間に有意な差を認めたが(p=0.007)、FLT3-TKD変異陽性例とFLT3遺伝子変異陰性例との間(p=0.18)、FLT3-ITD変異陽性例とFLT3-TKD変異陽性例との間(p=0.42)に有意な差は認めなかった(Fisher exact test)。
  • 生存期間(図6B
    FLT3遺伝子変異陽性例(ITD変異又はTKD変異、又は両者)では、FLT3遺伝子変異陰性例と比較して、生存期間の中央値も有意に短かった(3群間比較p=0.0004、log-rank検定)。
    ペアワイズ比較では、FLT3-ITD変異陽性例とFLT3遺伝子変異陰性例との間に有意な差を認めたが(p=0.0001)、FLT3-TKD変異陽性例とFLT3遺伝子変異陰性例との間(p=0.63)、FLT3-ITD変異陽性例とFLT3-TKD変異陽性例との間(p=0.03)に有意な差は認めなかった(Fisher exact test)。
  • 予後不良因子
    多変量解析において、FLT3遺伝子変異は寛解期間(ハザード比2.35)と全生存期間(ハザード比2.11)に影響を及ぼす独立した因子として同定された(Cox比例ハザードモデル)。

図6 正常核型AML患者におけるFLT3遺伝子変異の有無と臨床的影響(海外データ)

遺伝子間相互作用による予後への影響

過去に、FLT3遺伝子変異がNPM1遺伝子変異、DNMT3A遺伝子変異と重複することが報告されているが13)FLT3-ITD変異とこれらの遺伝子変異との重複により、さらに予後が悪化することが示唆されている23)。本研究では、AML患者1,540例を対象に111のがんドライバー遺伝子が網羅的に解析され、1,540例中93例(6%)でNPM1DNMT3AFLT3-ITDの3つの遺伝子変異が認められた。
FLT3-ITD変異の有無別で全生存期間を比較したところ(図7)、NPM1及びDNMT3Aの2つの遺伝子変異を有する場合に、FLT3-ITD変異による予後悪化効果が有意となった(単変量解析では三元交互作用のp=0.009、多重仮説検定の補正を加えた多変量解析ではp=0.004)。

図7 FLT3-ITD変異の有無別にみた遺伝子間相互作用と全生存期間のKaplan–Meier曲線(海外データ)

化学療法の前後におけるFLT3遺伝子変異のステータス変化

FLT3遺伝子変異の有無は、化学療法の前後でも変化する可能性が示唆されている24)。化学療法抵抗性の成人AML患者の診断時及び再発時のFLT3遺伝子変異が検討され、50例中11例(22%)で診断時及び再発時のFLT3遺伝子変異が変化し、7例でFLT3-ITD変異が増加し、5例でFLT3-TKD変異が消失した。同研究において、診断時と再発時のFLT3遺伝子変異に関連する15文献のレビューが行われ、FLT3-ITD及びTKD変異が診断時に陰性でも、再発時に陽性となった症例が26例(11%)であることが示されている。
これらの報告からも、AML患者に対して、遺伝子プロファイリング検査によって治療標的遺伝子を確認することが重要であり、さらに、診断時のみならず、再発・難治性となるごとに遺伝子プロファイリング検査を実施することが重要であるといえる25)

まとめ

  • FLT3(FMS-Like Tyrosine Kinase 3)遺伝子は染色体上13q12に位置し1)、主に骨髄系及びリンパ系の造血幹細胞や前駆細胞集団で発現する4,5)FLT3受容体のタンパク質をコードする遺伝子である。
  • FLT3受容体は、受容体型チロシンキナーゼであり、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、膜近傍ドメイン、2つのチロシンキナーゼドメインとキナーゼ挿入ドメインで構成される10)
  • 通常、FLT3受容体は単量体で存在するが、FLT3リガンドが細胞外ドメインに結合すると二量体を形成し、自己リン酸化を介して活性型となり、チロシンキナーゼ活性が誘導されることで下流に存在する細胞内シグナル伝達経路が活性化され、血液細胞の増殖、アポトーシスの抑制に働く11)
  • FLT3遺伝子変異は主に、膜近傍ドメインの遺伝子配列が重複するITD変異、又はチロシンキナーゼドメインにミスセンス変異が起こるTKD変異の2つであり、いずれの変異によってもFLT3受容体がリガンド非依存性に二量体化を形成、又はトランスリン酸化し、恒常的に活性化することで、細胞増殖や生存のシグナル伝達が促進する14)
  • FLT3遺伝子変異は、日本人AML患者の約25%に存在し13)、特に正常核型AMLで多い14)
  • FLT3遺伝子変異陽性例では陰性例よりも寛解期間及び生存期間が短く、特にFLT3-ITD変異で予後が悪化する22)
  • FLT3遺伝子変異は、NPM1遺伝子変異、DNMT3A遺伝子変異と重複することが報告されているが13)NPM1遺伝子変異、DNMT3A遺伝子変異の両方を有する場合に、FLT3-ITD変異による予後悪化効果が有意となった23)
  • FLT3遺伝子変異はAML患者の臨床転帰に影響することから、遺伝子プロファイリング検査によってがんドライバー遺伝子を確認することが重要であり、また、治療前後でステータスが変化する可能性があるため24)、診断時のみならず、再発・難治性となるごとに遺伝子プロファイリング検査を実施することが重要といえる25)

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