B-ALL細胞においては、B細胞分化過程で観察される免疫グロブリン遺伝子(IG)再構成とともにT細胞受容体(TCR)の再構成が生じています。これらの再構成は多様性に富むため、腫瘍クローン特異的なマーカーとしてMRD測定に用いられています3)。
IG/TCR再構成のRQ-PCRによる定量では、測定時に診断時検体の希釈系を用いて相対評価で定量します。診断時の検体が十分量ないとMRD 評価は行えません。
MRD測定の試料としては、一般に骨髄(BM)が使用されます。ただし、T-ALLおよびBCP-ALL患者のPBとBMサンプルにおいてRQ-PCR解析結果の相関性を調べた研究では、BCP-ALLではPBとBMの解析結果に大きな乖離がみられましたが、T-ALLではPBとBMの解析結果に大きな差は認めませんでした(rs= 0.849; P<0.01)4)。MRDはBMでの評価が標準ではありますが、T-ALLにおいてはPBでも代用可であると考えられます。一方で、B-ALLでは、BM採取時のPBの混入により正確なMRD評価ができない可能性があるため注意が必要であると考えられます。
『造血細胞移植ガイドライン 急性リンパ性白血病(成人)(第3版)』では、「MRD検出のためには良好な骨髄検体が必須であり、骨髄穿刺の最初の吸引2~3mlを提出する必要がある。」と解説されています2)。
MRDの測定法にはさまざまな種類がありますが、特にIG/TR遺伝子を利用したIG/TR RQ-PCRは欧州を中心に広く利用されています5)。IG/TR RQ-PCRは、2007年にEuroMRDコンソーシアムによりガイドラインが公開されており5)、測定プロトコルが標準化され、定期的に品質評価試験が実施されていることが特徴です。
一方、マルチカラーフローサイトメトリーを用いた測定法は、検査者の経験や知識によってしまうことが課題でした6)。しかしこちらも、EuroFlowコンソーシアムによって2012年にプロトコルが公開され、標準化への取り組みも行われています6)。
これら以外にも、BCR-ABLの融合遺伝子転写物を標的としたRQ-PCRなどがあります7)。最近は、次世代シーケンサーを用いた高感度な評価も米国を中心に実用化されています。
ALLにおけるMRDは測定のタイミングによらず予後と相関するとされていますが、診療報酬点数表において「D006-13 骨髄微小残存病変量測定」の「2. モニタリングに用いるもの」では「初発時と再発時にそれぞれ2回を限度として算定できる」となっており(2023年11月現在)、算定回数に制限があることを考慮する必要があると考えられます。
測定のタイミングとしては、成人、小児ともにEOI後のMRD測定が、その後の治療方針を考えるうえでも基本にはなります。EOI時のMRD陰性化、染色体異常、WBC数が予後リスクを層別化するうえで重要な因子であり、これらをかけ合わせたUKALL予後指数がALLの予後予測に有用であると報告されています8)。『造血細胞移植ガイドライン 急性リンパ性白血病(成人)(第3版)』においても「EOI MRDは、個々の患者の同種移植適応において極めて重要な意味を持つので、この検査を適切に行う必要がある。」と記載があります2)。