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エキスパート解説コンテンツ

ALLの病態と化学療法抵抗性

近年、再発及び難治性ALLの領域では、複数の薬剤や治療法の登場により治療選択肢が広がっています。そのひとつが、BiTE®抗体のビーリンサイトです。がん免疫療法は、治療抵抗性が疑われる場合の新たな選択肢のひとつとして期待されます。本コンテンツでは、ALLの病態や化学療法抵抗性のメカニズムについてご紹介します。

監修医:
自治医科大学 分子病態治療研究センター 客員教授
帝京科学大学 医学教育センター教授
古川 雄祐 先生

(2023年8月)

ALLの病態

ALLの病態は複雑で、リンパ系転写因子・シグナル伝達分子・がん抑制因子・エピジェネティクス制御因子などの遺伝子再構成や点突然変異が関与しています1)。BCP-ALLだけで考えても多様なサブタイプが存在します。

これらの遺伝子変異の有病率は年齢によって異なり、予後や再発と関連しています。例えば、BCR-ABL1(フィラデルフィア染色体)陽性ALLは、小児ALLの2~5%、成人ALLの25%を占めます1)。従来BCR-ABL1陽性は予後不良と関連していましたが、近年チロシンキナーゼ阻害薬の登場により予後は改善しています1)

ALLの再発の遺伝的な特徴も明らかになりつつあります。
ゲノム研究により、再発に至るALLの進展は直線的な様式では進行せず、複雑な分岐経路をたどることが示されています1)。再発患者の大多数は、新たな副次的遺伝子変化を獲得しております1)。よくみられる獲得性病変にヒストンアセチル化酵素CBPの突然変異があり、これは再発性ALLの最大20%弱に起こります1)。再発性ALLにおける他の突然変異としては、DNAミスマッチ修復遺伝子mut-Sホモログ6、グルココルチコイド受容体NR3C1、H3K36ヒストンメチル化酵素SETD2、ヒストン脱メチル化酵素KDM6、ヒストンメチル化酵素MLL2の突然変異などがあげられます1)。また、Ras経路(KRAS、NRAS、FLT3、PTPN11)の突然変異は再発クローンで優勢であることがわかっています1)

このように、ALLの病態には遺伝子が複雑に関与しており、年齢とともに増加する遺伝子変異もあります。一方で、年齢が高くなると治療選択肢は制限されていく傾向があります。高齢者、特に造血幹細胞移植の適応がないケースや、強力な化学療法を行うことが難しいケースにおいて新しい治療選択肢が求められていると考えられます。

1) J Clin Oncol. 2017 Mar 20;35(9):975-983.

ALLにおける化学療法抵抗性

ALLの化学療法抵抗性に関する基礎研究もご紹介します。
小児ALLの化学療法の重要な構成要素として知られるL-アスパラギナーゼは、血清中のアスパラギンを枯渇させて抗腫瘍効果を発揮します2)。正常造血細胞においてアスパラギンはASNS(アスパラギン合成酵素)によって再合成されますが、ALL細胞は十分にアスパラギンを合成することができず細胞死にいたります2)
しかし、L-アスパラギナーゼへの感受性は、ASNS遺伝子のメチル化状態によって異なることが報告されました2)。BCP-ALL細胞株を用いてin vitro解析を行った結果、ASNS遺伝子が高メチル化されている場合、中間~低メチル化群に比べて約100倍程度低いL-アスパラギナーゼ濃度で細胞の生存を阻害できることが明らかになりました2)。すなわち、低メチル化群はL-アスパラギナーゼに抵抗性であると考察されます。
各症例の薬剤感受性を評価する上で、ASNS 遺伝子メチル化状態がL-アスパラギナーゼ感受性の重要な規定因子の一つであることが示唆されました。

2) Blood. 2020 Nov 12;136(20):2319-2333.

今回は、ALLの病態や化学療法抵抗性についてご紹介しました。
ALLには多様なサブタイプが存在し、遺伝子変異の種類によって予後や治療抵抗性が異なります。治療抵抗性が疑われる場合の新たな選択肢として、がん免疫療法などの新規治療の発展が期待されます。


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