2021年、アステラス製薬では、サステナビリティ向上への取り組みとして、医薬品の1次包装であるPTPシートに世界で初めてバイオマスプラスチック(バイオマスフィルム)を採用しました。当社が長年にわたり培ってきた包装技術を駆使し、ユーザビリティ(使いやすさ)や錠剤保護機能の要件を満たしつつ、安定的に製造・供給可能なPTPシートを実現した最初の製品が「イリボー®錠5µg 10錠PTPシート」です。
このバイオマスプラスチックを用いたPTPシート(以下,バイオマスPTPシート)は、公益社団法人 日本包装技術協会が主催する第46回(2022年度)木下賞において、「包装技術賞」※1を受賞しています。
バイオマスプラスチックは「原料として再生可能な有機資源由来の物質を含み、化学的または生物学的に合成することで得られる高分子材料」と定義されています※2。大気中のCO2を吸収して生育したバイオマス資源を原料とすることで、それを焼却処分しても大気中のCO2の濃度を上昇させないという特徴があり、地球温暖化防止や化石資源への依存度低減への貢献が期待されています。
【CO2排出を減らすことでカーボンニュートラルの実現へ】
バイオマスプラスチック(非生分解性)は容器包装、衣料繊維、電気・情報機器、自動車等に使用されています。医薬品包装では 2013年頃からバイオマスプラスチックのボトルを使用した医療用医薬品が製品化されていました。バイオマスプラスチックを使用したPTPシートの容器フィルムへのバイオマスプラスチック(バイオマスフィルム)の採用は2021年にアステラス製薬が報告した例が世界初です。
【バイオプラスチックの定義】
バイオマスプラスチックはサトウキビ、トウモロコシ、キャッサバといったバイオマス資源由来の糖、油脂等から製造されています。
【原料によるプラスチックの分類】
「イリボー®錠5µg 10錠PTPシート」に使用されているバイオマスプラスチック(バイオマスポリエチレン)はサトウキビを原料としています。その搾り汁から砂糖製品を製造した後に残る廃糖蜜を発酵させ得られたエタノール(バイオマスエタノール)を脱水してエチレンが作られます。これをもとに石油由来のポリエチレンと同じプロセスにより製造されています。
【サトウキビからバイオマスポリエチレンの製造方法】
Q1. PTPシートの外観に違いはありますか?
A1. 外観は、これまでの検討の結果では従来品とほとんど変わりません。
Q2. 触った感じや、錠剤を取り出すときの感触に違いはありますか?
A2. これまでの検討の結果では従来品とほとんど変わりません。しかしながら、材質が変っているため、使用者によっては異なって感じることがあります。
Q3. 包装された錠剤の品質への影響はないですか?
A3. 錠剤への影響については事前に十分な評価・検討を行っており全く問題ありませんでした。
Q4. PTPシートの保管方法や保管期間は変わりますか?
A4. 今までと同様に扱ってください。
Q5. 廃棄方法は変わりますか?
A5. 今までと同様の方法で廃棄ください。
(注意:ごみの分別ルールは各自治体にご確認ください。)
Q6. 従来品とバイオマスプラスチックを使用したPTPシートを区別する方法はありますか?
A6. PTPシートの外観で区別することは難しいですが、製品の個装箱にバイオマス原料を50%以上使用していることを示す「BPマーク」を表示しています。
錠剤包装容器である PTP シートには、高い錠剤保護機能およびユーザビリティ(使いやすさ)が求められます。例えば、衝撃に耐えうる強度と外気が入らない気密性を持ちつつ、 一方で、錠剤を容易に取り出せる程度の柔らかさや、包装された錠剤の視認性、小分けする際の分割の容易さなど、様々な要件を全て成立させる必要があります。また、すでに服用されている患者さんが外観の変化で不安になられたり、医療現場の混乱にならないようPTPシートの外観、錠剤を取り出すときの感触を従来品に近づけることを目指して開発しました。
特に、従来品と同程度に視認性を高めるために最適な製造条件を探る必要がありました。バイオマスPTPシートに使用されているPEという素材は従来のPTPシートに使用されているPPよりも透明性が低く、白っぽく見える特性があります。最初に試作したPTPシートは、ポケット天面のフィルムが厚く白濁が確認され、一方でポケット側面は透明であるもののフィルムが薄くなっているというものでした。これでは視認性だけでなく、錠剤保護機能、使用性といった観点でも不適であるという事は容易に想像できました。その後、フィルムをポケットに成形するときのフィルムの加熱温度、圧力、各動作タイミング、その他複数のパラメーターの組み合わせを変えたテストを重ねた結果、視認性を確保しつつポケットの外観変化を最小限にとどめられる最適な製造条件を見いだすことができました。
【ポケット部分の比較(バイオマスフィルム製品)】
【イリボー®錠5µg 10錠PTPシートの写真(従来品とバイオマスフィルム製品)】
また、従来のPTPシートと同等の分割性を確保するために、ミシン目の付与にあたっても詳細な検討が必要でした。一般的にPTPシートには、フィルムの物性に合わせてスリットまたはミシン目を付与しています。バイオマスフィルムは中間層に比較的延びやすい性質を持つPE層を有しているため、従来のPPのフィルムのPTPシートに比べ、分割性が低下することが懸念されました。そこでミシン目の付与にあたっては、ミシン目を付与するミシン刃の温度条件を詳細に検討し、また、PTPシートの両端にミシン目の切込みが入るように位置を調整して、最終的に従来のPTPシートと同等の分割性を確保することができました。
PTPシートへのバイオマスプラスチックの採用はSDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」への貢献に繋がるものと考えております。今後、自社の他製品への展開に加え、製薬業界全体へさらに発展させていきたいと考えています。
※1木下賞は、公益社団法人 日本包装技術協会が主催する表彰事業で、毎年その年度において包装の研究・開発に顕著な業績をあげたものや、包装の改善・合理化に顕著な業績をあげたもの、包装の新規分野創出に顕著な業績をあげたものに対して授与される賞です。
※2日本バイオプラスチック協会HP、 バイオマスプラスチック入門(最終閲覧日:2022.08.01. http://www.jbpaweb.net/bp/).
(2022年10月)
会員になると以下のコンテンツ、サイト機能をご利用いただけます。