医療DX が描く未来~医療イノベーター取材記事~

※本記事は公開当時(2021年12月)の情報に基づき作成されています。

オンライン診療は“第4の診療形態” オンライン診療の展望と課題

監修:眼科専門医、デジタルハリウッド大学大学院 特任教授、アイリス株式会社 共同創業・取締役副社長CSO
加藤浩晃先生

近年、オンライン診療やビッグデータを活用したPHR*1など、医療現場におけるICT*2の活用が見られるようになる中、「医療DX*3」として新たな価値を生み出す可能性が期待されています。このシリーズでは、医療×ITの取り組みを実践・推進されている先生方に医療DXによってもたらされる医療変革についてうかがい、将来像を展望します。
第3回目は、厚生労働省技官の経験もあり、最近はオンライン診療について積極的に発信されている加藤浩晃先生にお話をうかがいました。

*1 PHR…パーソナルヘルスレコード。医療機関や薬局で管理されている患者個人の医療データのみならず、個人の生活習慣や生活環境など、日々の生活をデータ化したもの。
*2 ICT… 「Information and Communication Technology(情報通信技術)」。通信技術を活用したコミュニケーション。
*3 DX…デジタル・トランスフォーメーション。IT(情報技術)の浸透によってもたらされる変革。

1.デジタルヘルスは今後5~10年で普及へ

-COVID-19 のパンデミックとともに医療のみならず社会全体のデジタル化が進んでいます。デジタルヘルスの現状についてお聞かせください。

「デジタルヘルス」は“医療ヘルスケア領域×デジタルテクノロジー”の意味で、デジタルテクノロジーを活用した製品やサービスを指し、遠隔医療や医療AI、IoTなどが含まれます。オンライン診療については2015年8月に解禁(1)され、2018年には診療報酬がつき(2)、2020年4月にはCOVID-19 の流行により時限的措置とは言え初診からのオンライン診療と対象疾患が緩和(3)されました。オンライン診療ベンダー企業各社も予想外の進展に技術開発を行って対応したというのがこれまでの現状です。COVID-19 の流行で時代が早回しされ、私たちは未来を早めに体験できたと言えるかもしれません。

-今後の展望はどのようにお考えですか。

2021年9月にデジタル庁が創設された(4)こともあり、一層の進展が期待されます。国際的なコンサルティング企業によれば、日本のデジタルヘルスは今後5~10年間で安定的な成長に向かうと予測されています(5)。その中で注目されるのは2021年に開始される予定のオンライン資格確認(6)です。国主導で行われるPHRの利活用はデジタルヘルス全体の推進につながると思います。また現在の4G*4 に比べ通信速度が100倍の5G*5 の普及が、オンライン診療の加速にもつながることを期待しています。

*4 4G…4th Generation Mobile Communication System;第4世代移動通信システム
*5 5G…5th Generation Mobile Communication System;第5世代移動通信システム

2.オンライン診療には患者さん・医師間の意識ギャップも

-改めてオンライン診療の意義をどのようにお考えでしょうか。

やはり対面診療の補助です。私も眼科の臨床医として経験があるのですが、予約している患者さんが、何らかの理由で受診できなければ治療は行えません。受診すれば100の医療を提供できますが、受診しなければ0になってしまいます。オンライン診療は対面診療と同じ100の医療を現状の技術では提供できなくても、患者さんと医療との接点を継続できる手段になります。厚生労働省はオンライン診療の目的として、①医療の質のさらなる向上、②アクセシビリティの向上、③患者さんが能動的に治療に参加するようになること の3点を挙げています(7)。患者さんが医療とデジタルでつながることが患者さんの意識改革につながり、治療効果の最大化につながるということです。

-現在のところ日本のクリニックのオンライン診療の実施率は約16%(8)にとどまっています。

第1の要因としては、現在はまだオンライン診療の診療報酬上の評価が低いことが挙げられます。第2には医療の質の問題です。現在の技術では画面上の2次元情報しか得られず、においなどはわからないし、触診や聴診ができません。100点満点の医療をオンライン診療では提供できないという思いをもつ医師も多い(9)ようです。逆に患者さんはオンライン診療に過度な期待を持つ傾向があり(10)、医師としてはこの意識のギャップにも不安があるようです。第3には患者さんの利用が少ないということです。新型コロナウイルスの流行の前には実際にオンライン診療を導入されたクリニックで話を伺うと、利用される患者さんは1日に1~2人。0人の日もあるということでした。現在では少しずつ利用は増えていますが、まだまだ浸透していないと感じます。

とは言え、実施率16%では「普及」とは言えない、とは思いません。「入院施設や在宅診療所がどれくらいあれば普及と言えるのか」ということと同様です。オンライン診療という選択肢があるということを医師が認識して自らの選択の下、実施の可否を決めることが定常状態となること、そしてなにより、オンライン診療を求める患者さんがオンライン診療を受けることができる環境が整えば、「普及」と言って良いのではないかと思います。「普及」かどうかが医療機関の実施率で決めるものではなく、患者さんを中心に考えるべきだと思っています。

3.対面診療と比較せずに、診療の仕方のバリエーションと捉えてほしい

-今後、オンライン診療の実施率が増えるためには、どのような課題がありますか。

まずはエビデンスの蓄積です。オンラインを活用することがどのような医療の質の向上につながるのか、成功例を検証しながらしっかりまとめていくことが必要です。第2にはオンライン診療の活用の仕方について先生方にご理解いただくことです。オンライン診療を1回の診療の質で対面診療と比較すれば、考えるまでもなく対面診療の方が良いのです。しかし、現実には対面診療から漏れている患者さんがいたり、対面診療だけでは網羅できていないことがあったりします。また、自宅が遠方など、通院の負担が大きい患者さんにとって本当に毎回の対面診療が必要なのか―――オンライン診療はこういった問題の解決策のひとつになる可能性をもっています。対面診療と比較するのではなく、外来診療、入院診療、在宅診療という診療形態のバリエーションの中に、もう1つオンライン診療という選択肢が加わる、と捉えていただきたいですね。逆に全ての医師が同じ診療をする必要はなく「当院ではオンライン診療をしない」という選択もあります。要は、診療の仕方のひとつなのですから。
第3には患者さんにもオンライン診療の限界を理解してもらうことが必要です。医師が必要に応じて来院を促したときに、気を悪くせずに対面診療をさせてもらえることが大事だと思います。

4.“オンライン・ファースト”の時代が来る

-最後に、2030年の医療のイメージをお聞かせください。

2030年には本当に必要な人だけが通院する“オンライン・ファースト”の医療になる可能性があると考えています。手術や処置など手技を伴う治療と、がん薬物療法のように絶対的に対面が必要な人だけが対面診療を受けるという時代の到来です。目下、国は医療機器を小型化して家庭内でも使えるようにし、2040年に「どこでも医療を受けられる社会」の実現を目指しています(11)。テクノロジーの進歩は指数関数的に進むとされていて、人間の予想を超えてくることも指摘されています。そのため個人的にはそのテクノロジーはおそらくもっと早く2030年頃には実現するのではないかと予測しています。
医師法第1条には、医師の大義として「国民の健康な生活を確保するもの」であると書かれています。医師は今後、社会環境の変化を踏まえつつ、この原点に立ち返る時代なのかもしれません。

眼科専門医、デジタルハリウッド大学大学院 特任教授、アイリス株式会社 共同創業・取締役副社長CSO
加藤浩晃先生

医師、一橋大学金融戦略・経営財務MBA。専門は遠隔医療、AIなどデジタルヘルス。眼科専門医として1500件以上の手術を執刀、手術器具や遠隔医療サービスを開発。その後、厚生労働省に入省し医政局室長補佐として医療制度改革に取り組む。2017年にAI医療機器開発のアイリス株式会社を共同創業。

現在、経済産業省Healthcare Innovation Hubアドバイザー、厚生労働省ベンチャー支援(MEDISO)アドバイザー、東京医科歯科大臨床准教授、千葉大客員准教授、東北大・横浜市大非常勤講師、日本遠隔医療学会運営委員・分科会長、上場企業2社の社外取締役なども兼任する。

出典

1)厚生労働省医政局長発事務連絡 平成27年8月10日

2)厚生労働省「平成30年度診療報酬改定の概要」平成30年4月11日

3)厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」令和2年4月10日

4)首相官邸「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」令和2年12月25日

5)ガートナー社「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2020年」

6)厚生労働省保険局「健康保険証の資格確認がオンラインで可能となります【医療機関・薬局の方々へ】」令和3年4月

7)厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」平成30年3月(令和元年7月一部改訂)

8)中医協資料 令和元年11月8日

9)中医協資料 令和元年11月8日

10)中医協資料 令和元年11月8日

11)総務省「未来をつかむTECH戦略」平成30年7月

アステラス製薬株式会社の医療関係者向け情報サイトに​アクセスいただき、ありがとうございます。​

本サイト(Astellas Medical Net)は、日本国内の医療提供施設にご勤務されている医療従事者を
対象としています。該当されない方はご登録・ご利用いただけませんので、予めご了承ください。

ご利用にはアステラスメディカルネット利用規約への同意が必要です。
ご同意頂ける場合は以下の該当ボタンをクリックしてお進み下さい。

本サイトでは、利便性向上、利用履歴の収集・集計のためCookieを利用してアクセスデータを取得しています。
詳しくは利用規約をご覧ください。オプトアウトもこちらから可能です。

アステラスの企業サイトをご利用の方はこちらからご覧ください。 

会員の方

会員登録されていない方

医療従事者の方は、会員限定コンテンツを除いたアステラスメディカルネットサイトの一部をご覧いただけます。
会員登録すると、製品に関する詳細な情報や領域ごとの最新情報など、会員限定のコンテンツが閲覧できます。

会員向けコンテンツをご利用の方

会員になると以下のコンテンツ、サイト機能をご利用いただけます。 

会員限定コンテンツの閲覧

ニュースや読み物、動画やWEBセミナーなど、
日々役立つ豊富な情報が閲覧可能になります。

情報収集サポート機能の利用

ブックマークやWEBセミナー予約など、手軽に、
効率的に情報を収集・共有いただける機能を
ご利用いただけます。