医療DX が描く未来~医療イノベーター取材記事~

医師の学び方改革 学ぶ過程こそが、医師にとって価値ある宝物になる

監修:聖路加国際病院 救急部 救命救急センター 医師 清水 真人先生

近年、オンライン診療やビッグデータを活用したPHR*1など、医療現場におけるICT*2の活用が見られるようになる中、「医療DX*3」として新たな価値を生み出す可能性が期待されています。このシリーズでは、医療×ITの取り組みを実践・推進されている先生方に医療DXによってもたらされる医療変革についてうかがい、将来像を展望します。

第1回目は、聖路加国際病院の清水真人先生に、デジタルツールやリモートを活用した医療情報の収集についてお話をうかがいます。臨床現場における学習方法のコンセプトを「医学情報整理術」として提唱し、同院内で最も優れたメンターとして「ベストティーチャー賞」を受賞されたご経験もお持ちの清水先生に、“学びのDX化”についてお話しいただきました。

*1 PHR…パーソナルヘルスレコード。医療機関や薬局で管理されている患者個人の医療データのみならず、個人の生活習慣や生活環境など、日々の生活をデータ化したもの。
*2 ICT…「Information and Communication Technology(情報通信技術)」。通信技術を活用したコミュニケーション。
*3 DX…デジタル・トランスフォーメーション。IT(情報技術)の浸透によってもたらされる変革。

1.有用なwebサイトの伝達は10の知識よりも価値がある

-清水先生が提唱されている「医学情報整理術」とはどのようなものなのですか。

従来の書籍と紙、筆記によるアナログな学び方ではなく、デジタルツールを活用して情報を“収集”し、“整理”し、最後にアウトプットして“活用”していくという、一連の学習概念です(図1)。

図1 医学情報を扱う4つの流れ

知識はただ収集するだけではなく、デジタルノートなどのデジタルツールを用いてアウトプットすることが大切です(図2)。ひとつの知識は点に過ぎず、それらをつなげて線を構築しないかぎり臨床現場で使える知識にはなりません。臨床経験での知識から無数のネットワークができてこそ症候や疾患の全体像が見え、新たに学問的な臨床疑問も生まれてくるのです。

図2 デジタルノートを利用した学習の流れ

-先生ご自身が「医療情報整理術」に取り組まれたきっかけは何でしょうか。

医学部時代、書籍を使った記憶中心の学びにはなかなか積極的に向き合えなかったのですが、臨床現場での患者さんとの触れ合いから俄然医学への興味と、勉強への意欲が湧きました。学生時代からがんばっていた同期に追いつくためにも、アナログな学び方を変え効率よく勉強したいと考え、臨床現場に出てからはとにかく多くの知識をインプットするということに専念していました。

-現在ご所属の聖路加国際病院でも若手医師教育として「医療情報整理術」を実践されているそうですね。

2015年に聖路加国際病院に入職し、救急部の研修医指導を行うことになったのを機に、自分だけで実践していた「医学情報整理術」の概念を明文化して、若手医師教育に導入しました。

当院は東京都内でも年間約11,000台の救急車と、4万人以上の救急外来患者(2015年実績)を受け入れる大規模ER型救命救急センターであり、さまざまな背景や疾患を抱える患者さん1日約100人の診療を行っています。自分の知識がない、あるいは不確実な症例に遭遇した場合、メンバーそれぞれが情報検索力を発揮して最適な知識を集め、常時持ち歩いているiPadにクリッピングします。勤務の合間に知識の入力を行い、その日のうちに院内のイントラネットで共有し、ディスカッションしています。

私が重視しているのは、若手医師には医学知識そのものよりも“学びの過程”を伝授することです。老子の格言に『授人以魚 不如授人以漁』(人に魚を与えれば1日で食べてしまうが、釣り方を教えれば一生食べていける)という言葉があります。IT化によって、現在は医学的知識を共有することよりも、学ぶ過程にこそ価値があり、生涯の宝物になる。1つの有用なwebサイトを教えることは10の知識よりも価値があると言ってよいでしょう。

-学び方改革にはどのような成果がありましたか。

まず、導入後5年間に、当院救急部のメンバー数が約3倍になったことが挙げられます。若手医師は就職に際してその病院で「何を学べるか」を重視しており、当院の教育体制は魅力点となったようです。また、英語論文の投稿数や医学雑誌掲載数が年々増えていることも成果のひとつです。クリニカルクエスチョンをリサーチクエスチョンにブラッシュアップする能力も向上し、研究へのモチベーションが高まったことが考えられます。

一方、学び方改革の開始直後、院内全体で働き方改革が始まりました。医師の情報収集も業務時間内に行わなければならなくなり、“学びの時短”が要請されていたのです。その点、iPadさえあればデスクに戻らなくてもよく、すき間時間を有効活用できる学び方は、働き方改革の趣旨にもかなっていました。時短によってできた時間を留学の準備や自分の研究に充てる医師や、院外のオンラインセミナーやワークショップに参加する医師も増えています。

2.「教育」を第3の柱に

-現在は、学び方改革を院外にも広げておられるそうですね。

SNSを通じて院外の先生方ともナレッジシェアのネットワークを広げつつあります。同じような臨床疑問をもつ医師が、施設の垣根を超えて知識やカンファレンスの内容をシェアしあえば、学びの効率化を図ることができます。
 また、院外の医師を対象に「医学情報整理術」のセミナーを開催したところ、100名を超える医師が参加され、学び方改革へのニーズを感じています。
 医療では臨床と研究が2本の柱と言われていますが、第3の柱は「教育」です。これまで医師のボランティア精神によって行われていた臨床教育を、多くの病院が連携して大きいスケールで行い、指導医も対価を受けられる仕組みづくりができたらと考えています。自分が学んで得た知識を咀嚼し、後世に伝えることは、患者満足度や医療の質向上に直結し、医師としての喜びにもつながるのです。

3.リモート化による“ニューノーマル”に期待

-COVID-19 の影響もあり2020年以降、学会、講演会はほとんどオンライン開催になりました。リモート化の進展をどのようにご覧になっていますか。

医療界に限らず、あらゆる分野でまだ数年かかると言われていたリモート化が、ほんの数カ月程度で大きく進展し、リモート化への心理的・物理的なハードルは一気に下がりました。この流れは今後も定着しつつ、さらに今後は “対面代替のリモート”ではなく、リモートならではの新しい学びの経験を模索する段階に入っていくのではないでしょうか。学会であれば開催形式や回数を見直す。あるいは、少人数でフリートークする「Meetup」を病院間や多職種の交流の場として用いるなど、リモート化による“ニューノーマル”の到来に期待しています。
 実は私自身、育児休暇を取得しました。しかし休暇中も、会議や臨床現場でのディスカッションには必要に応じて自宅からオンラインで出席しています。また、フリータイムを活用してAIベンチャーの業務を支援しており、経営やプログラミングを学んでいます。臨床経験や直感、肌感覚をリモートで伝えるのは限界があり、あらゆることがリモート化すればよいとは思いませんが、ワークライフバランスに合わせた働き方ができるのはリモート化の長所です。若手医師がより広い視野をもつためにも大きな可能性を秘めていると思います。

聖路加国際病院 救急部 救命救急センター 医師 清水 真人先生

<略歴>
2013年 慶應義塾大学医学部を卒業。初期臨床研修修了後、2015年聖路加国際病院救急部へ入局。就任間もなく聖路加ベストティーチャー賞を連続受賞。救急・集中治療の他、Webツールの医療現場での利用に精通し、複数の雑誌で連載中。2020年からは臨床の傍ら、新規事業「医学情報整理ラボ」の代表として、複数の病院で医学教育に関するコンサルティング業務も兼任。

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