治療効果を比較評価するためのゴールドスタンダードはRCTであるが、RCTを用いることが倫理的に不可能な場合や費用面から現実的でない場合もあり、傾向スコア解析を用いた医学論文報告数は年々増加している。RCTとは異なり、測定できた交絡因子しか調整できないものの、傾向スコア解析は多数の治療効果に関連する背景因子を傾向スコアという1つの数値に集約し、比較群間の患者背景の調整を可能とする。観察研究で交絡因子を調整するにあたり、傾向スコアマッチングが常に多変量解析より優れるわけではない。重要なのは、研究目的に応じて適切な統計手法が選択され、結果が解釈されているかどうかである。
用語解説
交絡:要因とアウトカムの両方に関連する因子(交絡因子)によってもたらされる影響。例えば、性別(要因)が肺がん罹患(アウトカム)に及ぼす影響を評価する際、性別に関連し、結果にも影響を与える喫煙歴や飲酒歴(交絡因子)があると、性別のみがもたらす真の影響や関係を評価できない。
代表性:目的母集団の性質が反映されている類似度合いのことをいい、研究対象(サンプル)にどの程度の代表性があるかは研究結果の一般化可能性に影響を与える要因の1つである。
目的変数/説明変数:統計解析モデルの中で解析の目的となる変数を目的変数、目的の事象に関連する変数を説明変数という。例えば、新規治療薬の効果を検討する場合、治療薬による効果(アウトカム)が目的変数であり、治療薬を服用したかどうか(介入)が説明変数となる。その他にアウトカムに影響を及ぼす患者背景(年齢や検査値など)も説明変数となる。説明変数は交絡因子である場合とそうでない場合がある。
多重共線性:多変量解析でモデルに含めた説明変数同士に相関関係(共線性)があると、推定精度が不良になることを指す。例えば、多重共線性の問題を回避するため、体重とBMIを同時にモデルに含めることはできない。
参考文献
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