インフルエンザQ&A

Q:インフルエンザワクチンの貯法について教えてください。また、保存剤について教えてください。

A

インフルエンザワクチンの保存にあたっては、10℃以下で凍結を避け、遮光して管理、保存します。保存剤無添加の製剤は、所要量を吸引後、残液は使わずに処分してください。マルチドーズワクチン(保存剤が添加されているもの)で、一度針を刺したものは、所定の貯法に従って保存し、速やか(24時間以内)に使用してください。

このように、インフルエンザワクチンの使用にあたっては、保存を含めた取扱い上の注意を確認し、ロスが生じないよう効率的に接種を行い、使用済みのワクチンはマニュアルに従って適切に廃棄してください。

マルチドーズワクチンに添加されている保存剤などの添加物は、微量であり安全性が確認されています。

解説

1.貯法について
1)ワクチンの貯法について

インフルエンザワクチン使用前の保存に関しては、製品添付文書の「貯法」の項に、保存剤の有無にかかわらず、「凍結を避け、10℃以下で保存」とあります。凍結されたものや10℃を超えて保存された製品の有効性・安全性は確かめられておらず、使用することはできません。業務用の扉に窓がついている冷蔵庫であっても、箱からワクチンを取り出さなければワクチンの遮光は確保されます1)

接種時は、「冷蔵庫から取り出し室温になってから、必ず振り混ぜ均等にして使用する」とも記載されています。室温にもどったら速やかに使用してください。室温にもどるまでの時間は、室内の温度などの条件によって異なると考えられます。

ワクチン使用までの保存についての注意事項として、「予防接種における間違いを防ぐために」2)、「予防接種実施者のための『予防接種必携令和2年度(2020)』」3)、「最新感染症ガイド 日本版R-Book 2018-2021」4)、などを参照すると、次のようになります。普段からワクチンの有効期間や保管状態については、①生ワクチンのほとんどは、遮光して5℃以下あるいは2~8℃であり、不活化ワクチンのほとんどは、遮光して10℃以下あるいは2~8℃であることに気をつける、②有効期限が近いワクチンを手前に置く、③補助電源が付いた冷蔵庫に保管する、④有効期限切れのワクチンや保管状態が適切でないワクチンは直ちに廃棄すること、が大切です。また、冷蔵庫の温度変化への対応として、自記温度記録計などで保存状況を定期的に確認し、停電への備えを講じておきます。温度変化を避けるための留意点として、①扉の開閉をできるだけ少なくし迅速に行う、②ワクチンは温度が一定の場所に置く、③食べ物などの保管庫と兼用しない、などを厳守します。なお、停電時の緊急対策として、扉・蓋などを開閉しないようにすること、空きスペースに保冷剤・氷・冷水パックを置くことによって、温度変化を少なくすることができます。

また、昨シーズンのワクチンについては、まだ有効期限が切れていないものが冷蔵庫に残っていた場合でも、そのワクチンの使用は控えてください。今シーズンのワクチンは、昨シーズンとは使用するワクチン製造株が変更されているためです。

2)マルチドーズワクチンの複数回使用について

保存剤を含むマルチドーズワクチンで一度針を刺した後、適切に保存されたワクチンがどのくらいの期間使用できるかについては、「一度針をさしたものは、遮光して、10℃以下に凍結を避けて保存し、24時間以内に使用すること」と製品添付文書に記載されています5)。できれば残液が出ないように工夫して、できるだけ速やかに接種を行いましょう。いったん針を刺したバイアルの残液を短期間保存し、再度使用する際には、清潔操作に注意してください。もし、医療安全の観点において、汚染や不適切な管理があった場合、もしくはそのおそれがある場合には使用せず、適切に廃棄することが必要です。特に、3歳未満児への接種にあたっては、1本のバイアルからの数回の採取が可能であり、医療事故が生じないよう、その管理および使用には十分留意することを心掛けてください。また、異なるバイアルの残液を集めて規定量を吸引することは、清潔操作の観点から勧められません。

マルチドーズワクチンから注射器内に吸引した接種液は、無菌性が保持されていないため、安定性及び衛生的な観点から、速やかに使用してください。

一方、保存剤(チメロサール)を含まないバイアル製剤では、一度注射針を刺し込むと容器内の無菌性が保持できなくなるので、所要量を吸引後は残液がある場合でも速やかに処分します。シリンジ製剤も、トップキャップを開封したものは直ちに使用します。

3)使用後のバイアル製剤・シリンジ製剤の廃棄について

使用後のインフルエンザワクチンのバイアルは、破損などにより鋭利なものとみなされれば、感染性廃棄物として、「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」6)に従い、他の廃棄物と分別し適切な容器を使用することになります。また、チメロサールを含むワクチンでは、水銀物質についての基準がありますので、許可業者に情報(種類、量、性状など)を提供し、適切な処理を委託することになります。

シリンジ製剤は、注射筒内に血液の逆流の可能性があることから、基本的には感染性廃棄物として処理することが適切であると考えられます6)。また、針刺し事故防止の点から、リキャップせずにただちに針廃棄容器に廃棄するのが安全であると思われます。

2.安全性について
1)マルチドーズワクチンに保存剤を添加する理由と安全性

マルチドーズの液状不活化ワクチン製剤は、一度針を刺すと雑菌混入の可能性があり、雑菌繁殖を防止するために、1930年代から世界中すべてのマルチドーズワクチンに保存剤が添加されています。わが国のインフルエンザワクチンでは、シリンジ製剤や0.5mLバイアル製剤には保存剤が使用されていない製剤もありますが、1mLバイアル製剤には保存剤としてチメロサールが使用されています。ワクチン中のチメロサールの含有量は、以前は0.1mg/mL濃度で添加されていましたが、1997年からは、10分の1以下(0.004~0.008mg/mL)に減量した製品、あるいは、チメロサールを含まない製品が供給されています。

医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、ワクチンの保存剤として用いられているチメロサールについて調査結果報告書を公開しています。関連文献の評価、諸外国における評価、国内における関連症例報告の状況、関連学会の見解等を踏まえ、「臨床的には局所における過敏反応などが時にみられるものの、自閉症等との因果関係に関する評価や他の規制当局における対応状況等を鑑みると特に複数回接種用のワクチンにおいては、チメロサールを添加しない場合の病原体汚染によるリスクに比較するとチメロサールにより起こるかもしれない有害反応のリスクは妊婦、小児等を含めて相当に低いものと考えられる」と報告しています7)

国内外の公的機関がワクチン中のチメロサールを減量、除去するように努めることを勧告していますが、これは水銀曝露を削減する計画の一環として勧告されたものです7, 8)

*電子添文の記載事項
9. 特定の背景を有する者に関する注意
 9.5 妊婦

妊婦又は妊娠している可能性のある女性には予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。なお、小規模ながら、接種により先天異常の発生率は自然発生率より高くならないとする報告がある。

2)その他の添加物

ワクチンには、抗原や保存剤の他に、不活化剤、安定剤、免疫賦活剤(アジュバント)などの添加物が含まれています。国内で供給されている季節性インフルエンザワクチンには、添加物の具体例としてチメロサール(1mLバイアル製剤のみ)やホルマリンなどが含まれ、アジュバントは含まれていません。

ホルマリンは、不活化ワクチンの製造工程で用いられ、ウイルスや毒素の蛋白を変性固定化する効果があり添加されます9)。その結果、最終製品ではホルマリンがごく微量(ホルムアルデヒドとして、0.01w/v%以下=0.025mg/0.25mL以下)認められます。

ホルムアルデヒドは、次の理由から安全とされています。ホルムアルデヒドは人体のチミジン、プリン、アミノ酸合成として必要で、生体の代謝において不可欠です。体重5kg程度の2カ月児の血液中には約1.1mg存在します。これは、ワクチンに残存する量の少なくとも10倍以上です。さらに、動物実験では、ワクチン残存量の600倍以上を安全に投与できることが報告されています10)

また、ホルムアルデヒドに起因する副反応の報告は、B型肝炎ワクチン1回目接種後に紅斑と水疱疹を生じ、パッチテストで陽性であった1症例のみでした。ホルムアルデヒドが原因で副反応を生じる症例は極めてまれと考えられます11)

国内で使用されている一部の季節性インフルエンザワクチンには、ポリソルベート80が分散剤として添加されています。ポリソルベート80は厚生労働省の食品健康影響評価(2007年)で、安全性の評価が行われ、ヒトに経口摂取された3つの報告12)があります(①生後4カ月の乳児に2日間、20g/kg体重/日で経口摂取すると軽度の下痢が認められた、②健康人12人に13日間、1日量9g(0.15g/kg体重/日)で経口摂取しても消化管症状は認められなかった、③患者46人に1~4年間、1日量4.5~6gで経口摂取しても血液像、血圧、腎機能および肝機能に影響は認められなかった)。ヒトや動物での試験結果から、1日摂取許容量は10mg/kg体重/日と設定されています。ワクチンに含まれるポリソルベート80は0.5mL接種あたり0.05μL以下であり、極めて微量です。

(三田村 敬子)

文献

1)崎山 弘: ワクチン管理. 予防接種マネジメント. 田原卓浩 他編. p16-21, 中山書店, 2013.

2)国立感染症研究所: 予防接種における間違いを防ぐために(2021年3月改訂版). https://www.niid.go.jp/niid/images/vaccine/machigai-boushi-2021_03.pdf(アクセス2021年4月16日現在)

3)予防接種ガイドライン等検討委員会: 予防接種実施者のための予防接種必携 令和2年度(2020). 公益財団法人予防接種リサーチセンター, p154-164, 2020.

4)岡部信彦(監修): 最新感染症ガイド 日本版R-Book 2018-2021. 日本小児医事出版社, p.20-26, 2018.

5)電子化された添付文書: インフルエンザHAワクチン「生研」. デンカ株式会社、アステラス製薬株式会社. 2020年10月改訂(第4版).

6)環境省 環境再生・資源循環局: 廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル. 2018年3月. https://www.env.go.jp/recycle/kansen-manual1.pdf(アクセス2021年4月16日現在)

7)(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA): 調査結果報告書 チメロサール. http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/11/dl/s1106-11m08.pdf(アクセス2021年4月16日現在)

8)廣田良夫 他(監修): 2016年版 米国予防接種諮問委員会(ACIP)勧告 インフルエンザの予防と対策. 小笹晃太郎 他編. p36, 一般財団法人 日本 公衆衛生協会, 2017.

9)中山哲夫: 小児内科. 36(3): 392-397, 2004.

10)Offit PA, et al.: Pediatrics. 112(6): 1394-1401, 2003.

11)Leventhal JS, et al.: Dermatitis. 23(3): 102-109, 2012.

12)厚生労働省: 添加物評価書 ポリソルベート類(ポリソルベート20, 60, 65, 80). 食品安全委員会, 2007年6月. http://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-tuuchi-polysorbate20_80_151008.pdf(アクセス2021年4月16日現在)


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