インフルエンザQ&A

Q:呼吸器、循環器、腎疾患、糖尿病などの基礎疾患をもっている方や周術期にインフルエンザワクチンを接種する際に注意すべき点を教えてください。

A

インフルエンザに罹患した場合に重症化しやすい基礎疾患をもつ方には、インフルエンザワクチン接種が勧められます。接種不適当者でないと判断できれば、おおむね安全に接種することができます。基礎疾患をもつ方では、健康人よりもワクチン効果が低いことが多く、また、基礎疾患自体による症状や併用する治療薬の影響と、ワクチンの副反応との鑑別に苦慮する例が多いことに注意が必要です。

解説

厚生労働省は、心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能に障害がある方は、インフルエンザに罹患すると重症化しやすいことから、インフルエンザワクチン接種による便益が大きいとしています1)。米国疾病予防対策センター(CDC)も、慢性呼吸器疾患(喘息を含む)、心血管疾患(高血圧を除く)、腎疾患、肝疾患、神経疾患、血液疾患、代謝疾患(糖尿病を含む)ならびに免疫抑制状態の患者さん(薬物によるものやHIV感染を含む)には、優先的にインフルエンザワクチンを接種すべきであるとしています2)。これらの基礎疾患をもつ患者さんへのワクチン接種について、具体的な注意点を述べます。

1.慢性呼吸器疾患

喘息およびCOPDの患者さんにおいて、ワクチン接種後に症状の悪化は認められないとされています。また、治療に使用される内服ステロイドは、高用量であっても5日程度の短期間であれば、ワクチン効果に影響を及ぼさないとされています3)。厚生労働省によると、2020年10月1日から2021年3月31日の間に、推定接種可能人数(回分)およそ6,547万人のなかで、基礎疾患に呼吸器疾患があり、同ワクチン接種後に重篤な呼吸器系の副反応疑いが生じた例は、呼吸異常1例、アナフィラキシー反応3例、胸痛1例でした(医療機関からの報告)4)

2.心血管疾患

特別な注意は必要ないと思われますが、ワクチン接種局所の疼痛に関連した血圧の変動、血管迷走神経反射などに注意します。また、抗凝固剤服用中の患者さんではワクチン接種部位の血腫に注意します。

心血管リスクのある患者さんにおいて、インフルエンザやインフルエンザ様疾患による気道感染とそれに続発して起こる心血管イベントの関連性が指摘されていますが、あるメタアナリシスでは、インフルエンザワクチンを接種した心血管疾患の患者群では、非接種群に比べて、1年以内の主要な心血管イベント(急性冠状動脈症候群)のリスクが低いことが示されています5)

3.腎機能障害

腎機能低下の患者さんに対するインフルエンザワクチンの接種量は、クレアチニンクリアランスに関わらず腎機能正常者と同じです。透析治療を受けている患者さんにインフルエンザワクチンを接種した場合の抗体価の上昇は、腎機能が正常な方とほぼ同等とする報告6)や、低いとする報告7)があり一定しません。インフルエンザワクチン抗原は高分子蛋白であること、皮下注射で接種されることから、透析では除去されないと考えられます。また、末期腎疾患患者への有効性を検討したレビューでは、有効性はさほど高くはないが、接種は推奨されると報告されています8)

4.慢性肝疾患

肝疾患の患者さんに対するインフルエンザワクチンの効果については、十分な研究がなされていませんが、肝硬変の患者さんに同ワクチンを接種した群では、インフルエンザ様症状の出現率やインフルエンザウイルス検出率が有意に減少したとする報告があります9)。血小板低下に伴う接種部位の皮下出血などを除き、病状が安定した慢性肝疾患の患者さんへの接種は問題ないでしょう。

5.自己免疫疾患

ワクチン抗原による負荷が、自己免疫疾患の病態に影響を与える可能性については、全身性エリテマトーデス(SLE)においてワクチン接種の前後で自己抗体のレベルに差がなかったとする報告があります10, 11)。また、抗原曝露による疾患への負荷という点では、ワクチン接種より自然感染のほうがはるかに強いと考えられます。

インフルエンザワクチン接種の免疫応答に関しては、ワクチンを接種したリウマチ患者さんの抗体保有率は、健康人と同等であることが示されています。他の薬剤との相互作用に関しては、多くの研究で、抗リウマチ薬(DMARDs)やTNF阻害薬は、インフルエンザワクチン接種の液性免疫応答を妨げないと報告していますが、リツキシマブはワクチン接種後の免疫応答を著しく妨げるなど、薬剤によって異なります12)

SLEの患者さんは、健康人に比べてやや免疫応答が減少します。特に、アザチオプリン、ステロイド薬、ヒドロキシクロロキンを使用中の場合は、免疫応答が低下します12)

*電子添文の記載事項
10. 相互作用
 10.2 併用注意(併用に注意すること)

薬剤名等: 免疫抑制剤等、シクロスポリン等臨床症状・措置方法: 本剤の効果が得られないおそれがある。機序・危険因子: 免疫抑制的な作用を持つ製剤の投与を受けている者、特に長期あるいは大量投与を受けている者は免疫機能が低下していることがある。

6.免疫抑制状態

HIV感染者では、免疫能が保たれAIDSを発症していない段階においては、ワクチン接種によりほぼ良好な抗体価の上昇がみられます。CD4陽性Tリンパ球数が100/μL以上あればワクチン接種は価値がありますが、それより低下すると十分な抗体価上昇が期待できません13, 14)。一方、免疫抑制剤の影響については、腎移植や心移植後の患者さんへのワクチン接種で、抗体価上昇は健康人と同等もしくはやや低下したとする報告があります15)。また、臓器(肝・腎・心・肺)移植患者を対象とした無作為化比較対照試験で、3価不活化ワクチンの2回接種群と1回接種群では、2回接種群が有意に抗体陽転率や抗体保有率が高かったという報告もあります16)

7.脳血管障害・中枢神経障害

もともと神経学的所見がある場合、ギラン・バレー症候群や急性散在性脳脊髄炎など、ごくまれに報告されるインフルエンザワクチンの有害事象が検出しにくくなる可能性がありますので注意が必要です。脱力やけいれんなどもワクチンの副反応との鑑別が必要となります。

てんかんの既往のある方については、病状が安定している時期に接種するのがよいでしょう。日本小児神経学会によると、推薦する予防接種基準は以下の通りです。てんかん発作のコントロールが良好な場合は、最終発作から2〜3カ月程度経過していること、ただし、発作状況がよく確認されており、病状と体調が安定していれば主治医(接種医)が適切と判断した時期に接種が可能です。また、発熱した場合の発作予防策と発作時の対策を保護者へ指導し、十分な説明と同意が事前に必要です17)

8.血液疾患

造血器腫瘍の患者さんにおける有効性については、報告により大きな差があります。化学療法を行っている患者さんは一定期間、接種を延期する必要がありますが、そのような状況でない場合は、接種が推奨されます18)。免疫能の低下、他の治療薬物との相互作用、易出血性など、種々の要因が関わるため、個々のケースでの判断が必要となります。なお、造血器腫瘍や固形腫瘍で化学療法を施行中の患者さんに対して、米国において、3価の不活化インフルエンザワクチンを高用量(日本では未承認)で接種すると、標準的なワクチン※※よりも免疫原性や抗体陽転率が著明に向上するという報告があります19)

(インフルエンザワクチンの)HA(ヘマグルチニン)含量が1株当たり60μg/0.5mL
※※HA含量が1株当たり15μg/0.5mL

9.糖尿病

糖尿病がインフルエンザワクチンの効果に及ぼす影響については十分なレビューはないようです20)が、ワクチン効果はやや落ちるものの有効であるとする報告もあります21)。最近では、2型糖尿病患者においてインフルエンザワクチン接種は、脳卒中・心不全・肺炎・インフルエンザによる入院率や全死亡率を有意に減少させるという報告があります22)。本疾患の患者さんは、インフルエンザおよびそれに続発する肺炎による重症化リスクが高いことから、一般にワクチン接種の禁忌のない患者さんに対しては、インフルエンザワクチン接種が推奨されます23)

10.周術期

手術がインフルエンザワクチンの効果に及ぼす影響については十分なデータがないと思われますが、術後には発熱がみられたり、複数の薬剤が使用されたりするので、ワクチンの副反応かどうかわかりにくくなります。したがって、あえて周術期にワクチン接種を行うことは望ましくありません。また、臓器移植後は、一定期間が経過し、患者さんの免疫能を評価してワクチン接種を開始する必要があります24)

一方で、一般外科、整形外科、産婦人科などの手術を受けた患者さんにおいて、周術期にインフルエンザワクチンを接種しても退院後の救急受診、入院、発熱、感染関連の検査などのリスクの有意な増加は認められず、わずかに通院のリスクが増加したという報告もあります25)

手術の内容や侵襲の程度、患者さんの免疫能など身体の状態によって接種に適した時期は異なります。また、周辺のインフルエンザの流行状況も考慮し、個々のケースで検討します。

基礎疾患を有する患者さんへのワクチン接種においては、基礎疾患自体による症状や、併用する治療薬の影響と、ワクチンの副反応との鑑別に苦慮する例が多くなります。ワクチン接種後の注意深い観察が求められます。また、(1)明らかな発熱を呈している者、(2)重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者、(3)予防接種の接種液の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者、(4)その他、予防接種を行うことが不適当な状態にある者は予防接種不適当者とされています1)ので、事前に評価することが必要です。

11.医療機関外での接種について

寝たきりなどの理由から、医療機関でインフルエンザワクチンを接種できない方の接種は次のようになっています。定期接種実施要領では、「定期接種の対象者が寝たきり等の理由から、当該医療機関において接種を受けることが困難な場合においては、予防接種を実施する際の事故防止対策、副反応対策等の十分な準備がなされた場合に限り、当該対象者が生活の根拠を有する自宅や入院施設等において実施しても差し支えない」とされています26)。また、任意接種の場合も、医療機関外で任意の予防接種を行う場合の注意事項として「定期接種実施要領による実施場所、注意事項その他の取扱いに準じて実施するよう努めること」とされています27)

(川名 明彦)

文献

1)厚生労働省: インフルエンザQ&A. http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html(アクセス2021年4月20日現在)

2)CDC: Who Should and Who Should NOT get a Flu Vaccine.
https://www.cdc.gov/flu/prevent/whoshouldvax.htm(アクセス2021年4月20日現在)

3)Pesek R, et al.: Allergy. 66(1): 25-31, 2011.

4)第66回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第15回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催). 資料3-27. 2021年8月4日.
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000816315.pdf(アクセス2021年8月25日現在)

5)Udell JA, et al.: JAMA. 310(16): 1711-1720, 2013.

6)Antonen JA, et al.: Nephron. 86(1): 56-61, 2000.

7)McGrath L J, et al.: Arch Intern Med. 172(7): 548-554, 2012.

8)Remschmidt C, et al.: BMC Med. 12: 244, 2014.

9)Song JY, et al.: J Clin Virol. 39(3): 159-163, 2007.

10)Urowitz MB, et al.: Arthritis Care Res. 63(11): 1517-1520, 2011.

11)Lu CC, et al.: Vaccine. 29(3): 444-450, 2011.

12)Westra J, et al.: Nat Rev Rheumatol. 11(3): 135-145, 2015.

13)Kroon FP, et al.: Vaccine. 18(26): 3040-3049, 2000.

14)Fine AD, et al.: Clin Infect Dis. 32(12): 1784-1791, 2001.

15)Scharpé J, et al.: Am J Transplant. 8(2): 332-337, 2008.

16)Cordero E, et al.: Clin Infect Dis. 64(7): 829-838, 2017.

17)予防接種ガイドライン等検討委員会: 予防接種ガイドライン2021年度版. 公益財団法人予防接種リサーチセンター. 2021.

18)Casper C, et al.: Blood. 115(7): 1331-1342, 2010.

19)Jamshed S, et al.: Vaccine. 34 (5): 630-635, 2016.

20)Michiels B, et al.: Vaccine. 29(49): 9159-9170, 2011.

21)Lau D, et al.: Thorax. 68(7): 658-663, 2013.

22)Vamos EP, et al.: CMAJ. 188(14): E342-E351, 2016.

23)日本糖尿病学会 編・著: 糖尿病診療ガイドライン2019. 南江堂. 2019.

24)岡部信彦,多屋馨子:予防接種に関するQ&A集. Q9 p.16-17, 一般社団法人日本ワクチン産業協会. 2020.

25)Tartof SY, et al.: Ann Intern Med. 164(9): 593-599, 2016.

26)厚生労働省: 定期接種実施要領. https://www.mhlw.go.jp/content/000757429.pdf(アクセス2021年4月20日現在)

27)厚生労働省通知: 医政発0331第68号、健発0331第28号. 2015年3月31日.


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