インフルエンザQ&A

Q:65歳未満の成人へのインフルエンザHAワクチンの接種の考え方と有効性・安全性について教えてください。

A

健康な65歳未満の成人では比較的良好なワクチン効果が得られますので、インフルエンザHAワクチン接種が推奨されます。この年齢層では、流行株の型、亜型にもよりますが、流行株とワクチン株が一致した場合は60%程度の予防効果が認められます。特に、インフルエンザの重症化リスクをもつ方を介護する人や医療従事者などには接種が推奨されます。また、流行地域への海外旅行前にも接種を検討します。

解説

インフルエンザHAワクチンを接種することで、インフルエンザに罹患した場合の重症化を予防する効果が認められています。特に、次の(1)〜(3)のグループはインフルエンザに罹患すると重症化しやすく、接種による便益が大きいと考えられるため、予防接種法に基づく定期接種(B類疾病)の対象とされています。すなわち、(1)65歳以上の方、(2)60~64歳で、心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活を極度に制限される方、(3)60~64歳で、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方は定期接種の対象者です1)

このように高齢者ならびに特定の基礎疾患を有する方には、インフルエンザの重症化予防を主な目的としてインフルエンザHAワクチン接種が勧められており、定期接種として受けられますが、実はインフルエンザを予防する効果(ワクチン効果)という観点から見ると、それ以外のグループ、すなわち健康な65歳未満の青壮年層においてより良好な成績が示されています。例えば、合計8万人以上を含む多くの臨床試験のレビュー2)によると、16~65歳の健康な人を対象とした場合には約60%という高いワクチン効果が示されています。したがって、健康な65歳未満の成人においてももちろんインフルエンザワクチン接種は推奨されます。米国疾病対策センター(CDC)は、健康な65歳未満の成人を含め生後6カ月以上の接種不適当ではない者すべてに毎年のインフルエンザワクチン接種を推奨しています3)

なお、インフルエンザウイルスは常に少しずつ抗原性を変えています(抗原の連続変異: antigenic drift)が、その結果としてワクチン株と流行株との抗原性が一致しないことがあり、その場合は、ワクチンの有効性は低下します。CDCの近年の調査4)によると、2016/2017~2021/2022の5シーズン(2020/2021シーズンは十分なデータが無い)において、全体でのワクチン効果は29~40%と比較的低めの値が示されています。これはそのような機序が関与している可能性があります。

65歳未満の健康成人の中には、医療や介護に従事している人も多いと思われます。特にインフルエンザの重症化リスクをもつ方を治療・看護・介護する人、すなわち医療従事者や高齢者介護施設の職員などは、感染予防の観点からも毎年インフルエンザワクチン接種を受けることが推奨されます5)。家庭内でも、高齢者や乳幼児の世話をする人は同様に接種を検討します。また、保育所・幼稚園・学校など子どもが多い福祉・教育施設などの職員にも、毎年のインフルエンザワクチン接種が勧められています6)

65歳未満の成人の場合、海外旅行に行かれる方も多いと思われます。渡航前にワクチン接種を検討されることもあると思いますが、インフルエンザHAワクチンについては、季節と旅行先を考慮して検討する必要があります。南半球の温帯地域では4月から9月頃にインフルエンザが流行しますし、赤道周辺の熱帯地域では通年性にインフルエンザがみられます7)。インフルエンザHAワクチンによる感染防御効果の持続期間が接種後約2週間後から約5カ月8)であることを考慮すると、これらの地域に旅行する場合、少なくとも出発前2週間までにそのシーズンのインフルエンザHAワクチンを接種することを検討します。特に、インフルエンザの合併症のリスクをもつ方には接種が推奨されます。また、交通手段の一例として、大人数を乗せた大型客船で流行地域を周遊旅行する場合は、インフルエンザ感染のリスクが高いとされています9)ので接種を検討します。

インフルエンザHAワクチンの副反応として、厚生労働省によると、発赤、腫脹、疼痛などの局所症状が10~20%、発熱、頭痛、悪寒、倦怠感などの全身症状が5~10%にみられますが、通常2~3日で消失します。まれにショック、アナフィラキシーがみられるので、接種後30分間程度は接種した医療機関内で安静にすることが推奨されます1)。そのほか、ギラン・バレー症候群、急性脳症、急性散在性脳脊髄炎などの報告もありますが、因果関係が明らかでないものもあります。結論として、接種不適当者以外の65歳未満の成人に対し、インフルエンザHAワクチン接種は推奨されます。

なお、インフルエンザHAワクチンの接種不適当者とは、(1)明らかな発熱を呈している者、(2)重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者、(3)インフルエンザ予防接種の接種液の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者、ならびに(4)インフルエンザの定期接種で接種後2日以内に発熱のみられた者及び全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者が挙げられています1)。(4)は任意接種では該当しません。

本稿執筆時点で、国民に対する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が、引き続き進められていますが、インフルエンザワクチン接種がなおざりになるようなことがあってはなりません。2020/2021シーズンならびに2021/2022シーズンは、わが国ではインフルエンザがほとんど流行しませんでした。2022/2023シーズンも例年より小さな流行で収束しそうです。しかし、このような2020年以降のインフルエンザ流行の抑制は、COVID-19対策としての国際間を含む人流の抑制やマスクなどの大規模な感染対策の副次的な影響が大きいと考えられます。したがって、最近の感染対策の緩和は、従来のようなインフルエンザの流行をもたらす可能性があります。本稿執筆時点でCOVID-19の流行は比較的抑えられていますが、再流行しないとは限りません。特に、COVID-19の流行が収束していない状況でインフルエンザの流行が始まると、診療上混乱をきたし、また、合併感染により重症化の可能性もあります。インフルエンザワクチンも流行シーズンが始まる前にぜひ接種を受けていただくよう、一般の方々への啓発が必要です10)

( 川名 明彦)

文献

1)厚生労働省: 令和4年度インフルエンザQ&A.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2022.html(アクセス2023年4月26日現在)

2)Demicheli V, et al.: Cochrane Database Syst Rev. 2(2): 1-255, 2018.

3)CDC: Who needs a flu vaccine. https://www.cdc.gov/flu/prevent/vaccinations.htm(アクセス2023年4月26日現在)

4)CDC: CDC seasonal flu vaccine effectiveness studies.
https://www.cdc.gov/flu/vaccines-work/effectiveness-studies.htm(アクセス2023年4月26日現在)

5)厚生労働省: 高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版. 2019年3月.
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf(アクセス2023年4月26日現在)

6)厚生労働省: 保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版). 2018年3月(2021年8月一部改訂).
https://www.mhlw.go.jp/content/000859676.pdf(アクセス2023年4月26日現在)

7)Baumgartner EA, et al.: J Infect Dis. 206(6): 838-846, 2012.

8)予防接種ガイドライン等検討委員会: インフルエンザ・肺炎球菌感染症(B類疾病)予防接種ガイドライン2022年度版. 公益財団法人予防接種リサーチセンター. 2022.

9)CDC: Guidance for Cruise Ships on Influenza-like Illness (ILI) Management.
https://www.cdc.gov/quarantine/cruise/management/guidance-cruise-ships-influenza-updated.html(アクセス2023年4月26日現在)

10)日本ワクチン学会.2022-23シーズンの季節性インフルエンザワクチンの接種に関する日本ワクチン学会の見解.2022年6月23日.
https://www.jsvac.jp/pdfs/JSVAC_2022-23flu.pdf(アクセス2023年4月26日現在)


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