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医療経済からひもとく骨粗鬆症治療の重要性

2. 骨粗鬆症性骨折にかかる社会的コスト

【監修】そうえん整形外科 骨粗しょう症・リウマチクリニック 院長 宗圓 聰 先生

高齢化にともない医療費が急増する今、限られた医療・介護資源をその需要に対していかに合理的に活用するかが問われています。ここでは、骨粗鬆症医療の経済的価値の観点から、日本における研究についてお届けいたします。

骨粗鬆症性骨折にかかる社会的コスト

厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、高齢者が要介護となる原因として骨折・転倒は認知症や脳血管疾患に次いで上位を占めており1)、その原因となる骨粗鬆症に対する医療について、医療経済的価値を評価する必要性が指摘されています2)。

1995年の米国のNational Osteoporosis Foundationの調査によると、骨粗鬆症性骨折の直接治療費は137億6,400万ドルで、その大半(63%、86億8,200万ドル)を大腿骨近位部骨折が占めていました3)。骨粗鬆症性骨折の全費用の80%以上を大腿骨近位部骨折の入院費が占めるという報告もあります4)。そして、大腿骨近位部骨折治療後も機能低下が回復せず要介護となる高齢者は後を絶ちません2)。欧米白人の調査では、大腿骨近位部骨折受傷前に歩行または自立生活ができていた患者の半数が骨折後自立して歩けなくなり、日常生活上の介護や支援を長期的に受けるようになり、最終的に1/3以上で介護度や施設入所のリスクが高まったと報告されています5)。日本では年間約12万人の大腿骨近位部骨折が新規発生しており、大腿骨近位部骨折に関わる年間の医療・介護費用は約7千~8千億円と推計されています2)。米国や英国、北欧の大腿骨近位部骨折の発生率は日本の2~3倍にのぼっており2)、骨粗鬆症性骨折にかかる社会的コストは、世界的な課題となっています。

日本における研究の紹介6)

Fujiwaraら6)は、日本の患者データベースより2012~2014年のデータを用いて男女両方を含む50歳以上の骨粗鬆症患者(1,107例)を抽出し、経験した骨折数により骨折歴なし群(693例)、単回骨折群(242例)、複数回骨折群(172例)に分け、骨粗鬆症の臨床および経済的転帰を比較しました。

骨折数と健康関連の生活の質(HRQoL)の関係性については、複数回骨折群は単回骨折群や骨折歴なし群と比べて、HRQoLを有意に悪化させることがわかりました(図1)。単回骨折は身体的サマリースコアに有意な負の影響を与え、骨折数の増加にともない精神的サマリースコアが低下し始めることが示唆されました。さらに、骨折数の増加とともにSF-6D(HRQoLの評価尺度)の有意な低下がみられました。

図1 骨折数と健康関連の生活の質(HRQoL)の関係性※

※ 骨折数によって健康関連の生活の質などのスコアに差が見られるのかを、一般線形モデルを用いて多重比較法としてボンフェローニ補正法を使用して比較。その後、骨折なし群と比較して単回骨折と複数回骨折がそれぞれ、生活の質などのスコアの低さや欠勤などをどのぐらい起こしやすくしているのか相対危険度(Relative risk)を算出。

Fujiwara S et al. J Bone Miner Metab 2019; 37(2): 307-318より改変

仕事の生産性及び活動障害(WPAI)に関する質問票の分析からは、複数回骨折患者は欠勤にともなう損失と動作活動障害にともなう損失が、骨折歴なし患者より有意に高いことが示されました(図2)。一方、生産性低下にともなう損失や総労働損失は有意な差はみられませんでした。

図2 骨折数と仕事の生産性及び活動障害の関係性※

※  骨折数によって健康関連の生活の質などのスコアに差が見られるのかを、一般線形モデルを用いて多重比較法としてボンフェローニ補正法を使用して比較。その後、骨折なし群と比較して単回骨折と複数回骨折がそれぞれ、生活の質などのスコアの低さや欠勤などをどのぐらい起こしやすくしているのか相対危険度(Relative risk)を算出。

Fujiwara S et al. J Bone Miner Metab 2019; 37(2): 307-318より改変

さらに、総労働損失と全国平均賃金から算出した間接費用には骨折数による差はみられませんでしたが、骨折の増加にともなって、直接費用や入院数が有意に増加することが示されました(図3)。

図3 骨折数と間接費用、直接費用、入院数との関係性※

※  骨折数によって健康関連の生活の質などのスコアに差が見られるのかを、一般線形モデルを用いて多重比較法としてボンフェローニ補正法を使用して比較。その後、骨折なし群と比較して単回骨折と複数回骨折がそれぞれ、生活の質などのスコアの低さや欠勤などをどのぐらい起こしやすくしているのか相対危険度(Relative risk)を算出。

Fujiwara S et al. J Bone Miner Metab 2019; 37(2): 307-318より改変

これらの結果から、患者の生活の質を向上させるために、骨折歴のある骨粗鬆症患者の二次骨折を防ぐ管理が必要であることが強調されました。さらに骨折数の増加とともに直接費用がより高額になるため、複数回骨折の発生を減らすことが費用節約に寄与すると考えられました。

しかしながら、骨粗鬆症は、十分に治療されていない例がしばしばみられます。本試験でも、現在薬剤を使用していないと回答した366例のうち、半分以上(53.5%)は過去に骨粗鬆症治療薬の使用経験がありました。また、骨粗鬆症治療薬未使用者のほとんど(84.2%)がこれまでに医師から治療を勧められたことがないと回答していました。これらの結果から、骨折防止と治療に向けた医師と患者のコミュニケーションが不足している可能性がうかがわれます6)。

以上より、二次骨折を防ぐことは、患者の生活の質を維持することはもちろん、社会経済的にも意義のあることだといえるでしょう。高齢化が進む中、これまで以上に骨粗鬆症を積極的に診断し、アドヒアランス向上に向けた患者とのコミュニケーションも重視しながら治療していくことが重要になると考えられます。

<参考文献>

1)厚生労働省ホームページ.2019年 国民生活基礎調査の概況.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/14.pdf)(2021年1月29日閲覧)
2)原田敦ほか. 日老医誌 2005; 42(6): 596-608
3)Ray NF, et al. J Bone Miner Res 1997; 12(1): 24-35
4)Genant HK, et al. Osteoporos Int 1999; 10(4): 259-264
5)Cummings SR, Melton LJ. Lancet 2002; 359(9319): 1761-1767
6)Fujiwara S, et al. J Bone Miner Metab 2019; 37(2): 307-318

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