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Forefront 先端医学情報 生体親和性高潤滑関節摺動面を有する人工股関節の開発と実用化

東京大学大学院医学系研究科関節機能再建学講座 特任准教授 茂呂 徹

生体関節軟骨の表面構造を模した人工股関節摺動面

人工股関節の非感染性の弛みによる再置換術を防ぎ、耐用年数を延長することは重要な課題である。弛みは、関節摺動面から生じる摩耗粉に対する生体の異物反応がトリガーとなって生じるため、摩耗粉に対する生体反応および摩耗粉の発生を抑制すれば、弛みを制御することが期待できる。

生体関節軟骨の表面にはナノメーター単位の親水性リン脂質層が存在し、軟骨表面の保護と水和潤滑の獲得による潤滑機構の改善に寄与している。そこで筆者らは生体親和性と潤滑性に優れたリン脂質化合物・2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine(MPC)ポリマーを用いて、架橋ポリエチレン(HXLPE)ライナー表面に生体関節軟骨と同様の構造を構築する技術を確立した1)。MPCポリマーは、細胞膜表面のリン脂質極性基が配列した構造に着目して開発された、側鎖にホスホリルコリン基を有する化合物で、生体内で異物として認識されず、生体との相互作用を抑制する。これらの特性を活かし、MPCポリマーを表面に導入したさまざまな医療デバイスが国内外で実用化され、20年以上の臨床実績を収めるなど、生体内での安全性と機能性が確認されている。

PMPC処理表面の耐摩擦・耐摩耗特性

筆者らが確立した、紫外線を用いてpoly MPC(PMPC)鎖とHXLPEを化学結合させる処理方法(PMPC処理)1)では、関節摺動面に厚さ約100nmの親水性PMPC層が形成されて潤滑性が付与される()。それにより、処理表面の動的摩擦係数は未処理表面と比較して1/10と、生体の関節軟骨表面と同等の高潤滑表面が形成される2)3)

図 PMPC処理HXLPE表面の模式図

図 PMPC処理HXLPE表面の模式図

(筆者ご作成)

PMPC処理による耐摩耗特性を、2,000万サイクルの歩行(一般的に20年分の歩行負荷と評価される)を模擬した股関節シミュレーターを用いて評価すると、未処理HXLPEに比較して摩耗粉数・体積が1/100以下になるなど摩耗が劇的に抑制されており、試験終了後も表面にPMPC層が残存していた4)。さらに、7,000万サイクルまで延長した超長期のシミュレーション試験でも、摩耗抑制効果が継続していた。また臨床使用を想定し、骨頭径、骨頭材料、PEの架橋程度、滅菌操作、処理範囲、体内で合併症により粗面化した骨頭などが与える影響についても検討を行っており、PMPC処理により高い耐摩耗性を示すという知見を得た5)-8)。

実用化と臨床成績

以上のような前臨床試験と臨床試験の良好な結果を経て、PMPC処理HXLPEライナーを2011年に実用化した。2020年3月末現在、約62,000症例で使用されている。

治験症例は継続調査を行っており、術後5年を経過した68例では再置換術は行っておらず、JOAスコアは術前の43.3点から5年時で94.1点に改善していた9)。X線写真では骨溶解やインプラントの弛みはなかった。ライナーの年間線摩耗量は平均0.002mmであり、未処理HXLPEの年間線摩耗量に関する28本の論文のレビュー10)により導き出された平均値0.042mmと比較して劇的な摩耗抑制効果がみられた。このコホートの症例は最長で13年以上を経過しているが、臨床成績は良好で、術後10年の時点で5年時と同等の年間線摩耗量を維持している。この日本発の独自技術を搭載した人工股関節は、まもなく海外でも実用化される見込みである。

文献

1)Moro T, et al. Nat Mater. 2004 ; 3 : 829-36.

2)Kyomoto M, et al. J Mater Sci Mater Med. 2007 ; 18 : 1809-15.

3)Moro T, et al. Osteoarthritis Cartilage. 2010 ; 18 : 1174-82.

4)Moro T, et al. J Orthop Res. 2014 ; 32 : 369-76.

5)Moro T, et al. J Orthop Res. 2015 ; 33 : 1103-10.

6)Moro T, et al. Biomaterials. 2009 ; 30 : 2995-3001.

7)Kyomoto M, et al. J Biomed Mater Res B Appl Biomater. 2008 ; 84 : 320-7.

8)Moro T, et al. Acta Biomater. 2019 ; 86 : 338-49.

9)Moro T, et al. J Orthop Res. 2017 ; 35 : 2007-16.

10)Kurtz SM, et al. Clin Orthop Relat Res. 2011 ; 469 : 2262-77.

(2021年1月)

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