情報提供の進化が切り拓く“医療の未来”
―Astellas Medical Netリニューアル特別対談―

リアルとデジタルの融合で生まれる新しい価値

早稲田大学理工学術院先端生命医科学センター(TWIns)教授
医療法人社団DEN 理事長
宮田 俊男先生

アステラス製薬株式会社日本コマーシャルプレジデント(営業本部長)
筒井 泰博

より高速に情報を送受信できる5G*1や膨大な情報を瞬時に分別できるAI*2。情報工学の飛躍的な進歩を武器に、膨大なデータからより的確な、かつ効率的な治療を提供する新しい医療の試みが始まっています。医療を取り巻く環境が急速に変化する中、患者さんに提供できる医療の価値をより高めていくためには何が求められるのか―本シリーズでは、情報の収集とその利活用のパイオニアである先生方にご登場いただくとともに、科学の進歩を患者さんの「価値」に変えるというVISIONの実現を目指すアステラス製薬の取り組みを紹介します。

今回は、厚労省技官として数々の医療制度の刷新に携わり、現在もご自身のクリニックでICT*3を活用した新しい医療に取り組む宮田俊男先生と、情報提供の担い手としてのMR育成に取り組むアステラス製薬の筒井営業本部長にお話しいただきました。

*1 5G…5th Generation Mobile Communication System;第5世代移動通信システム
*2 AI…Artificial Intelligence;人工知能
*3 ICT…Information and Communication Technology;情報通信技術。通信技術を活用したコミュニケーション。

1.日本の製薬企業の方向転換に期待

筒井泰博(=以下、筒井) 宮田先生、本日はよろしくお願いします。弊社は世界中の人々がより健康でより良い生活を送ることができるよう、革新的な治療法を常に探究し続ける組織作りを進め、アンメット・メディカル・ニーズ*4が高い領域において「価値」をもたらすための取り組みを続けています。

宮田俊男先生(=以下、宮田) 近年の製薬業界は、生活習慣病領域を中心にいわゆる“Me-too-drug”*5があふれ、高血圧や高脂血症、糖尿病等の治療薬開発、あるいは配合剤開発に重点がおかれた開発戦略は大きな転換が迫られていました。私は厚生労働省の医系技官時代から一貫して、国内の製薬企業にはアンメット・メディカル・ニーズや難病などの希少疾患、さらには個別化医療といったテーマに取り組んでいただきたいと願っていました。いまや患者さん個人のデータから期待される有効性や副作用発現の可能性、ゲノムによる適合性などを予測し、適切な医薬品が選択される時代へと移行しつつあります。その点では欧米の外資系企業が先んじていましたので、日本の製薬企業の方向転換を期待していたのです。

*4 アンメット・メディカル・ニーズ…いまだ有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズ
*5 Me-too-drug…改良型医薬品

2.「おかしい」という気づきを、そのままで終わらせない

筒井 宮田先生は厚生労働省技官時代に、未承認薬・適応外薬検討会議の担当をはじめ、薬事法から薬機法*6への改正、PMDA*7の増員やレギュラトリーサイエンス*8の推進、厚生労働省退職後は日本医療政策機構で内閣官房の健康・医療戦略室補佐官も兼任され、AMED*9の設立にもかかわっておられます。我々製薬企業にもかかわる様々な活動をされています。

宮田 今でこそ評価され始めていますが、技官時代はずいぶん文句を言われたものです。でも、私が手掛けたのは、欧米でも行われていることを導入しただけなのです。例えば、米国内の新薬開発の多さの源泉は医師主導の臨床試験であることを知り、日本でももっとやるべきだと考えました。治験の制度についても製薬企業の意見を聞き、数百という箇所を改正しました。

筒井 イノベーションを創り出す前段階には、何か「おかしい」という気づきがまずあるのでしょうか。

宮田 私は大阪大学医学部に入学する前に早稲田大学理工学部を卒業しました。そこで学んだエンジニアリングとは、面倒なことを改善してより便利にするなど、課題を見つけては解決することを目指す学問領域なのです。医療現場というのは閉鎖的なところがあり、多少「おかしい」という気づきがあっても「そういうものだ」で終わりがちなところがあります。私はそれを批判するだけではなく、課題の一つひとつを丁寧に片づけていくという気持ちで活動してきました。私は理工学部出身であることや臨床現場を離れて厚生労働省に転職したことなど、当時としては異端のキャリアを歩んできました。現在は、若い医師がベンチャー企業を立ち上げることもよく見られるようになりましたし、多くの大学医学部が異分野からの編入を受け入れるようになりました。医療界のダイバーシティーが進むのはとても良いことだと思っています。

*6 薬機法…医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
*7 PMDA…Pharmaceuticals and Medical Devices Agency;独立行政法人医薬品医療機器総合機構
*8 レギュラトリーサイエンス…科学技術進歩の所産をメリットとデメリット」の観点から評価・予測する方法を研究し、社会生活との調和の上で、最も望ましい形に調整(Regulate)すること。1987年に国立医薬食品衛生研究所副所長だった内山充博士により提唱された。
*9 AMED…Japan Agency for Medical Research and Development;国立研究開発法人日本医療研究開発機構

3.激変する医療DX*10に備え、今から準備を

筒井 私は、行政による大きなイノベーションには2種あると考えています。一つは、瞬時にパラダイムシフトを起こしうるイノベーションです。もう一つは、最初はあまり大きなイノベーションという感覚でとらえられないのですが、1年、2年と新たな規制で物事が動きだすにつれ、「こんなに大きく変わった」と感じるようなタイプのイノベーションです。我々製薬業界の人間も、こうした変化を的確につかむことが大切だと感じているのですが、時間軸はどのようにとらえるべきでしょうか。

宮田 医療政策のスパンは5~10年です。その間に何も準備をしなければ、その都度、激変にさらされたと感じるでしょう。例えば、オンライン診療などもおそらく数年後には多くの医療機関で導入されているだろうと思います。患者さんはオンライン診療に対応する医師を探し、問診の回答を入力する過程で「こういう薬がほしい」と思い、診察時にそれを医師に伝える――MRが医師に情報提供をし、患者さんにその薬が処方されるという従来の流れではなく、患者さん側から医師に薬の要望が出されるという流れが生まれるわけです。

筒井 宮田先生ご自身がオンライン診療に早くから取り組まれ、在宅医療での遠隔モニタリングシステム*11のパイロットスタディに取り組まれています。日本の医療DXをどのようにご覧になっていますか。

宮田 私自身は日本のデータビジネスは、海外の巨大なプラットフォーマー*12に席捲され、すべて取られてしまうのではないかという懸念を持っていたので、オンライン診療を事業としている会社など日本の医工連携を担うベンチャー企業を育てたいという気持ちで取り組んできました。在宅医療についてはご高齢の患者さんのバイタルデータを遠隔でタイムリーに収集・確認し、体温が上がってきたら予定より早く往診するという対応をしています。いち早く体調の変化に対処できるので、実際に私が診た中でも、入退院の回数が減った患者さんもおられ、デジタルを組み合わせた適切な在宅医療は医療費の適正化にもつながるのではないかという感触を得ています。医師にとっては夜間や土日に呼び出されずに済むというメリットもあります。
また、私自身が数年前に立ち上げたベンチャー企業では無料のセルフメディケーションアプリを提供していますが、COVID-19の流行に伴ってダウンロード数が激増しています。こちらは、単に市販薬で対処するというのではなく、受診が必要な患者さんの医療機関へのアクセスを促す仕組みもあります。それが、ゆくゆくはオンライン診療、あるいは対面診療へという流れにつなげたいと考えています。
このような医療DXが広がれば、オンライン診療のクオリティーを向上させるためのIoT*13、例えば遠隔聴診器や皮膚疾患の画像解析システムなどのテクノロジー開発が付随します。つまり、遠隔医療の市場は大きく拡大し、それに伴って医薬品市場も拡大します。数年内にこうした激変が起こるのではないかという雰囲気を感じていますが、一方で不適切な処方や医師・患者双方の“なりすまし”のような問題が生じる可能性もあります。しっかりしたルールを構築した上で適切に進めていく必要があると考えています。

*10 DX…デジタル・トランスフォーメーション。IT(情報技術)の浸透によってもたらされる変革。
*11遠隔モニタリングシステム…自宅や介護施設など、医療施設外から心臓デバイスのデータなど患者の随時情報を医療施設へ送るシステム
*12プラットフォーマー…platformer;インターネット上でサービスの基盤(プラットフォーム)を提供する事業者。国際的巨大IT企業を指す。
*13 IoT…Internet of Things; 「モノのインターネット」。あらゆる物がインターネットを通じてつながることによって実現する新たなサービス。

4.デジタルとリアルの融合による新たなコミュニケーション

筒井 製薬企業の営業部門の重要な使命に、薬剤の適正使用推進を目的とした先生方への情報提供があります。昨年からのCOVID-19の流行によって対面で先生方にお会いすることが難しくなる中で、私達はデジタル活用を含めたさまざまな工夫をこらして情報提供に努めてきました。デジタルの強みとして、先生方の嗜好やニーズをデータから解析することができます。この分析により、先生方から「これが欲しかったんだ」と言っていただける情報を提供できるようになると考えております。ただ、医薬品というビジネスにおいては、デジタル化を進めつつも、双方向のコミュニケーションは不可欠です。そこで、既存のMRに加えて、デジタルとリアルを両立する新たなチャネルとして、2021年4月より「アステラス オンラインMR」を立ち上げました。アステラス オンラインMRは、オンライン面談ツールを用いて各疾患領域担当のオンライン専門のMRが先生方への情報提供を実施します。今後も、デジタルを好まれる先生方にはデジタルで、リアルを好まれる先生方にはリアルで、先生方の嗜好やニーズを検証しながら、デジタルとリアルとが融合した情報提供体制を作っていきます。

宮田 私は、MRは重要なチーム医療のプレーヤーの一人と考えています。開業医を含め、現場の医師は環境の激変にとまどい、不安を感じています。そうした不安も共有して、現場の医療を良くしていきたいという理念をもち、一緒に良い医療を実現していこうという働きかけやコミュニケーションができるMRは、デジタルの時代においても必要とされるのではないでしょうか。常日頃から医療行政や政策の動向など医療に関するリテラシーが高く、かつ現場の地域の医療事情に精通しているMRと意見交換をすることは、医師にとっても非常に有益です。その意味で、リアルで“会ってもらえるMR”の価値は大きいと思います。デジタルと組み合わせながら並行して展開していくのは、非常に理にかなっていると思います。

筒井 製薬企業のみならず、営業職にとって“お客様に会っていただける”というのは非常に重要なことであり、リアルな接点をどうつくるかは営業活動の原点です。薬自体は科学的な評価を経て上市されるわけですが、市販後、我々営業担当者がその本質的な価値を適切にお伝えしなければ先生方に十分ご理解いただけず、その結果もし間違った使い方をされれば、薬本来の価値をお届けすることができません。COVID‐19の流行により、MRが医療機関に伺いやすい環境ではない今、薬の本質的な価値をデジタルとリアルでどう正確にお伝えするか。課題もありますが、これからも工夫をしながら、先生方に“会っていただけるMR”の育成に努めたいと改めて感じました。本日はありがとうございました。

<略歴>

早稲田大学理工学術院先端生命医科学センター(TWIns)教授
医療法人社団DEN 理事長
宮田 俊男先生

東京都渋谷区出身、都立戸山高校卒
1999年 早稲田大学理工学部機械工学科卒業(人工心臓開発の梅津研究室出身)
2003年 大阪大学医学部医学科卒業(3年次編入)
2003年 大阪大学第一外科入局
三井記念病院、大阪厚生年金病院、大阪市立総合医療センター等で外科医としてのトレーニングを積む。
2009年 大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科学特任助教を経て、厚生労働省に入省
課長補佐として主に健康・医療分野のイノベーション政策に従事(再生医療新法や薬事法から薬機法への大改正、先進医療制度の大幅な改革、医療法改正における臨床研究中核病院立案など)。東日本大地震では復旧、復興政策にも尽力。
2013年退官し、日本医療政策機構理事、内閣官房健康・医療戦略室補佐官、国立がん研究センター政策室長等を歴任
2017年 厚生労働省参与
自らも地域医療を推進するため、医療法人社団DENみいクリニック代々木を立ち上げ、地域包括ケアシステムの構築を実践。在宅医療、コロナ禍におけるオンライン診療、PCR検査、コロナワクチン、産業医として健康経営支援にも取り組み、取材多数。
2020年10月より早稲田大学教授 医療政策、臨床疫学、レギュラトリーサイエンス、医工連携等の領域で研究および社会人大学院生の学位指導。
日本健康会議実行委員。日本臨床疫学学会理事。博士(医学)、産業医、外科専門医。

アステラス製薬株式会社日本コマーシャルプレジデント(営業本部長)   
筒井泰博 

1988年早稲田大学教育学部理学科卒業。同年山之内製薬株式会社(現アステラス製薬株式会社)入社。営業所勤務、本社営業戦略部、経営企画部、アステラスヨーロッパ、秘書部長、営業戦略部長を経て、2020年4月より現職。

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