ご存知ですか?LGBTQの方の健康リスク

監修:よしの女性診療所 院長/産婦人科医、臨床心理士 吉野 一枝 先生

第3回のテーマは「ご存知ですか?LGBTQの方の健康リスク」です。
ご説明してくださるのは、よしの女性診療所 院長の吉野 一枝 先生です。

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ナレーター : こんにちは、「AMNながら聴きラジオ」、シリーズ「寄り添えていますか?LGBTQの患者さん」の第3回をお送りします。
このシリーズでは、すべての患者さんが気持ちよく診療を受けられる医療現場を目指す上で、先生方がLGBTQの患者さんに寄り添ったご診療をするために必要な知識をご紹介します。
ご説明してくださるのは、よしの女性診療所 院長の吉野 一枝先生です。

前回のまとめ

ナレーター : 第2回では、LGBTQの方々が医療機関を避ける理由、そしてその解決策を、待合室/受付を中心にご紹介しました。また、LGBTQだから特別扱いするということではなく、患者さん一人ひとりに対して向き合い配慮することが臨床の基本であることを学びました。

ご存知ですか?LGBTQの方の健康リスク

ナレーター : さて、第3回のテーマは「ご存知ですか?LGBTQの方の健康リスク」です。前回に引き続き、吉野先生に伺います。
LGBTQの方々は、そうでない方と健康状態に差があるとお聞きしますが、どのような健康リスクを持っているのでしょう。

吉野先生 : 精神的な問題を抱える方が多いということは、ご存じの方もいらっしゃると思います。
例えばゲイの男性は、そうでない男性に比べ、自殺未遂のリスクが6倍近く高い、と、国内で実施した調査で示されています*1
また、トランスジェンダーの男女の中72%に希死念慮、つまり自殺したいと思った経験があったとの報告もあります*2

ナレーター : 精神的な問題への配慮が必要なのですね。

吉野先生 : はい。さらに米国では、LGBTQの方々はそうでない方々に比べ、「アルコール依存症」や「喫煙依存症」が重度であるというデータが報告されています*3
この背景には、LGBTQの方々が社会の中で差別され、生き辛さを抱えてしまうことが大きく関係します。
こういった問題がなくなるには、性的指向・性自認が自由で何を選択してもいい、という価値観を社会が認めることが重要であると考えます。

医療機関の受診のしにくさが疾患リスクを高める

ナレーター : 精神的な問題以外に、LGBTQの方々が直面している健康リスクはありますか?

吉野先生 : 海外では、生活習慣病リスクが高いことも報告されています。
例えば、これも米国人を対象とした調査ですが、レズビアンの女性はそうでない女性に比べ、肥満である確率が20%程高く、さらに脳卒中既往を有する確率は2倍近くに上がっていました*4
同様に、ホモセクシャルの男性では、そうでない男性に比べ、高血圧である確率がおよそ20%高く、また心疾患の有病リスクはおよそ40%高い結果でした*4

ナレーター : 精神的な問題だけでなく、生活習慣病のような疾患のリスクも増加しているのは意外でした。
なぜ、疾患リスクが高くなるのか、理由は分かっているのでしょうか?

吉野先生 : LGBTQの方々が特に高血圧や肥満になりやすいというよりも、早期介入が非常に大切であるにもかかわらず、医療機関を受診しにくいことで早期介入ができず、何か疾患があった場合こじらせるということが問題でしょう。
加えて、社会的な差別がストレスとなり、あらゆる疾患の引き金になるということはあると思います。
LGBTQに対する海外の報告では、社会的差別は気分障害や不安障害、あらゆる依存症の発症と関連するとされています*5,6
私たち医療従事者は、患者さんを差別してはなりません。もちろんLGBTQの方々も同じです。ここで、LGBTQの医学的な位置付けを、正確に理解しておきましょう。

医学におけるLGBTQの位置付け

吉野先生 : まず「同性愛」です。1980年台までは疾病とされていましたが、1990年、WHOは国際疾病分類から同性愛を削除しました。
1995年には日本精神神経学会も、WHOのこの見解を尊重すると表明しました。これにより同性愛は日本でも、疾病ではなくなりました。
医療従事者が異性愛を当たり前と考えていると、患者さんのお付き合いしている人が異性であると決めつけた話し方をしてしまいます。
婦人科でも、性行為について問診が必要な時、異性間での性交のことだけを前提にして聞くと現状がわからなくなります。
まずは医療従事者自身の意識を変えないといけません。

ナレーター : 第1回でもご紹介したように、「同性愛」という言葉は「性的指向」を表します。それとは別に「性自認」もLGBTQに関係していました。

吉野先生 : ご指摘の通りです。典型的にはトランスジェンダーの人たちですね。
トランスジェンダーもかつては、「性同一性障害」に分類され、「障害」として認識されていました。
しかし2013年、「性的違和」すなわち違和感、不快感に分類が変わり、「障害」ではなくなりました。
さらに2018年には「性的不合」、つまり「不一致」、「不調和」に分類され、疾病の概念はなくなったわけです。

ナレーター : 現在では、同性愛、トランスジェンダーとも疾病扱いされていない、つまり異常な状態ではないというのが、医学的コンセンサスなのですね。

吉野先生 : その通りです。医療従事者もまず、それを認識しなくてはなりません。

ナレーター : 医療従事者には、LGBTQの方々に対する、偏見や差別意識はないのでしょうか?

吉野先生 : 医療従事者は、患者さんを分け隔てなく診療していただいていると信じています。
でも、どうしても違和感を抱いてしまう先生がいらっしゃるなら、それは悲しいことですね。
「クリニカル・バイアス」、つまり、患者が属するある特定の集団に対し、医師が偏見を持つがゆえに生ずる臨床的判断や態度のゆがみ*7がもしあるようなら、
そういう医師はご自身で診療するのではなく、信頼できる医師に責任をもって紹介することを検討すべきです。

今回のまとめと次回予告

ナレーター : LGBTQの方々が抱える健康リスク、そしてその背景にある差別や偏見、さらに医療従事者として偏見なく向き合う方法についてうかがいました。
次回はLGBTQの患者さんを診察室に迎え入れた際の、コミュニケーションのポイントを取り上げます。
新しい気づきがあるかもしれません。
それでは、次回の「AMNながら聴きラジオ」でお会いしましょう。

出典

*1 Hidaka Y et al. Soc Psychiatry Psychiatr Epidemiol 2008; 43: 752
*2 Terada S et al. Psychiatry Res 2011; 190: 159
*3 Boyed CJ et al. LGBT Health 2019; 6: 15
*4 Jackson CL et al. BMC Public Health 2016; 16: 807
*5 McLaughlin KA et al. Public Health 2010; 100:1477
*6 Yang MF et al.  LGBT Health 2015; 2: 306
*7 Wisch AF, Mahalik JR. J Couns Psychol 1999; 46: 51

まとめ

・LGBTQの人たちでは、それ以外の人たちに比べ上昇している健康リスクがある。
・健康リスクの上昇はメンタルに限定されず、海外では生活習慣病などでも認められている。
・健康リスク上昇の背景には社会的偏見や差別があると考えられる。
・LGBTQは、医学的に異常な状態ではない。
・LGBTQ患者の診療にあたっては「クリニカル・バイアス」を意識する。

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