フレイルとその評価 第2回『フレイルの評価法』

監修
大阪大学大学院医学系研究科 保健学専攻 看護実践開発科学講座 老年看護学教室
教授 竹屋 泰 先生

フレイルの診断方法には統一された基準がありませんが、表現型モデル(Phenotype model)に基づくCHS基準(Fried基準)と欠損累積モデル(Deficit accumulation model)に基づくFrailty Indexの2つが主要な評価法です。加えて、日本においては、総合的な高齢者機能評価の手段として基本チェックリストなども用いられます。用いた指標により、フレイルと判定される患者像が大きく異なることがあるため、指標の種類とその特徴の理解が重要です。

CONTENTS

フレイルの評価にはどのような方法があるのか

フレイルの診断には、様々な評価法が用いられますが、アジア太平洋のフレイル診療管理ガイドラインにおいて、妥当性の示された基準や評価法を用いて評価を行うことが推奨されています1)表1)。CHS基準、Frailty Indexの2つが特に主要な評価法とされています。

表1 フレイルの評価法の例

CHS基準(Fried基準)

Cardiovascular Health Study基準。身体的フレイルの評価に用いられる2)。①体重減少 ②筋力低下 ③疲労感 ④歩行速度 ⑤身体活動の5項目が検討される(②④については握力・歩行速度の測定による客観的な数値が必要)。1~2項目が該当した場合はプレフレイル、3項目以上が該当した場合はフレイルと判定する。

J-CHS基準

日本語版のCHS基準で臨床での応用を見据えて改訂されたもの。介護予防事業で用いられている基本チェックリストの質問が取り入れられている3)

簡易フレイルインデックス

J-CHS基準をより簡便に、「はい」または「いいえ」の2択の回答により主観的に評価できるようにしたもの4)

FRAIL Scale

倦怠感、負荷、歩行、疾病、体重減少の5項目が評価対象で、5項目中1~2項目が該当した場合はプレフレイル、3項目以上が該当した場合はフレイルと判定する5)

Frailty Index

複数の領域で構成された30以上の高齢者特有の症状、兆候、問題を検討し、「問題あり」と評価された項目総数の割合によりフレイルを判定する(カットオフ値は0.25とされることが多い)6)

Edmonton Frailty Scale

認知機能、入院歴、健康状態、機能的自立、支援者の有無、5剤以上の服薬、服薬忘れ、栄養状態、うつ、失禁、機能的動作の計11項目を17点満点で評価する7)

Tilburg Frailty Index

性別、年齢、婚姻状況、出身国、教育歴、収入、全体的健康観、疾病、1年間のイベント、居住環境、身体的要素(身体的健康、体重減少、歩行、バランス、聴力、視力、握力、疲労)、精神・心理的要素(記憶、うつ、不安、適応)、社会的要素(独居、孤独、他者からの支援)といった25項目を質問紙票で回答しフレイルの要素を検討する。5点以上でフレイルと判定する8)

基本チェックリスト

日常生活関連動作、運動器、低栄養状態、口腔機能、閉じこもり、認知機能、抑うつ気分といった7つの領域で構成された25項目により評価する。4~7点でプレフレイル、8点以上でフレイルと判定する9)

後期高齢者質問票

健康状態、心の健康状態、食習慣、口腔機能、体重変化、運動・転倒、認知機能、喫煙、社会参加、ソーシャルサポートの10類型(計15問)の質問で構成される10)

VES-13

Vulnerable Elders Survey-13。年齢、健康状態、身体的活動、買い物、お金の管理、屋内での歩行、家事、入浴といった8つの項目について回答し、合計スコア3点以上を脆弱と判定する11)

表現型モデル及びその代表例CHS基準(Fried基準)とは

表現型モデルは、患者さんの状態を「自立」、「フレイル」、「要介護状態」の3段階に分類し、加齢に伴う身体的機能の低下を主とした徴候の集積として捉えたものです6)図1)。

葛谷雅文:フレイル―超高齢社会における最重要課題と予防戦略 フレイルとは―その概念と歴史.葛谷雅文, 雨海照祥(編) 医歯薬出版株式会社, 東京, 2014; 2-6.より作成
 

図1 表現型モデルの概念

表現型モデルによる診断法の代表例がCHS基準(Fried基準)です。厚生労働省研究班によって作成された日本版CHS基準(J-CHS基準)では、介護予防事業で用いられている基本チェックリストの質問が取り入れられています(表2)。この基準では、①体重減少 ②筋力低下 ③疲労感 ④歩行速度 ⑤身体活動の5つの項目を検討し、1~2項目が該当する場合は「プレフレイル」、3項目以上が該当した場合は「フレイル」とされます3)。②は握力、④は歩行速度を測定した客観的な数値を元に判定します。Fried基準でフレイルと判定されるのは比較的症状が進行した高齢者であり、要介護状態の前段階の対象者の評価に適しています。

表2 J-CHS基準における評価項目

Satake S, Arai H. Geriatr Gerontol Int. 2020 Oct;20(10):992-993. © John Wiley and Sons

フレイルを簡便に評価するには

簡易フレイルインデックスは、J-CHS基準に基づき、より簡便にフレイルを評価できるよう開発された評価法です(表3)。5項目、二者択一形式の質問紙で、短時間で簡便にフレイルスクリーニングが可能です。簡易フレイルインデックスは、J-CHS基準の②における握力や④における歩行速度の測定が不要な主観的な評価である点が特徴で、外来診療時や介護予防現場などでの活用が想定されています4)

表3 簡易フレイルインデックスの質問項目

Reprinted from J Am Med Dir Assoc. 2015;16(11): Minoru Yamada and Hidenori Arai,
Predictive Value of Frailty Scores for Healthy Life Expectancy in Community-Dwelling Older Japanese Adults,
e7-11. Copyright 2015, with permission from Elsevier.

近年注目度が高まっている基本チェックリストとは

CHS基準及びそこから派生したいくつかのモデルは、簡便ではあるものの、身体的問題に偏っており、多面的なフレイル全般の評価には不十分な側面があります。その欠点を補うものとして、高齢者を総合的に評価する基本チェックリストなどがあります。
基本チェックリストは、高齢者の生活機能を評価し、要介護状態となるリスクを予測するために、厚生労働省によって作成されたスクリーニング法です9)表4)。日常生活関連動作、運動器、低栄養状態、口腔機能、閉じこもり、認知機能、抑うつ気分の 7 領域・25個の質問に対して,「はい」か「いいえ」で回答する自記式の質問で構成されています。基本チェックリストは、身体的な問題だけでなく、社会的、精神・心理的フレイルについての評価まで包括的に含まれていて、国内外のフレイルに関するガイドラインでも妥当性のあるフレイル評価法として挙げられています。基本チェックリストにおいては、4~7点でプレフレイル、8点以上でフレイルとされます12)

表4 基本チェックリストの質問項目

「介護予防マニュアル改訂版」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-1_1.pdf)を加工して作成

欠損累積モデル及びその代表例Frailty Indexとは

欠損累積モデルは、フレイルを加齢に伴って疾患や障害が蓄積した状態とみなしたものです6)図2)。高齢者特有の症状、兆候、ADL障害、疾患、認知機能障害などに関する複数の項目を検討し、該当するものを判定していきます。

葛谷雅文:フレイル―超高齢社会における最重要課題と予防戦略 フレイルとは―その概念と歴史.葛谷雅文, 雨海照祥(編) 医歯薬出版株式会社, 東京, 2014; 2-6.
 

図2 欠損累積モデルの概念

欠損累積モデルの代表例はFrailty Indexです。Frailty Indexは、多面的な評価をした上で、症状、兆候、ADL障害、疾患、認知機能障害など30以上の項目を特定の領域に偏らないよう組み合わせて選定し、その評価項目総数に対し「問題あり」と評価された項目総数の割合を算出します(障害や問題がある場合は1,ない場合は0)6)。各項目の重み付けは考慮せずに合計した点数を項目数で割った平均値によってフレイルを判定します。Frailty Indexは0.25がカットオフ値とされることが多く、この値を超えるとフレイルとされます13)。Frailty Indexによる診断法は、フレイルがあるかないかの二極分化した考え方ではなく、健康問題の集積度を連続的に表しているのが特徴です。また、評価項目が定められていないため、高齢者の健康状態に応じた適切な領域の項目を選択することが可能です。

表現型モデルと欠損累積モデルの主な違いは

表現型モデルと欠損累積モデルには様々な違いがあります(図3)。表現型モデルは対象を障害のない高齢者に限定した場合の評価に適する一方、欠損累積モデルは対象をどのような高齢者としても評価できることが特徴です13)。また、表現型モデルはあらかじめ評価基準が設定されておりカテゴリー変数で評価されるのに対し、欠損累積モデルでは連続変数で評価できます。表現型モデルは簡便ではありますが、このような理由から、変化の観察を目的とする研究では欠損累積モデルが多く用いられています。CHS基準でフレイルと判定されるのは症状が進行した高齢者であるのに対し、Frailty indexでは比較的症状が軽い高齢者もフレイルと判定されることがあります。一言で“フレイル”と言っても、用いる評価指標により患者像が大きく異なるため、研究結果を正しく解釈するためにはその前提の理解が重要です。

荒井秀典(監修), 佐竹昭介(編). フレイルハンドブック 2022年版. p.44-46 ライフ・サイエンス.

図3 表現型モデルと欠損累積モデルの比較

後期高齢者質問票とは

表現型モデル・欠損累積モデルの他にも、フレイルの状態を評価するためのいくつかの評価法が知られています。
後期高齢者質問票は、高齢者の健康状態に関する①健康状態 ②心の健康状態 ③食習慣 ④口腔機能 ⑤体重変化 ⑥運動・転倒 ⑦認知機能 ⑧喫煙 ⑨社会参加 ⑩ソーシャルサポートの10類型(計15問)の質問で構成された調査票です10)表5)。後期高齢者質問票は、フレイルを評価する目的に加え、高齢者の健康状態を総合的に把握し、各質問に対する回答に応じた保健指導を行い、地域で高齢者の健康を支えることを目的としています。

表5 後期高齢者質問票の質問項目

「後期高齢者の質問票の解説と留意事項」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000557576.pdf)を加工して作成

出典

  1. Dent E, et al. J Am Med Dir Assoc. 2017;18(7):564-575.10.1016/j.jamda.2017.04.018
  2. Fried LP, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56(3):M146-156.10.1093/gerona/56.3.m146
  3. Satake S, et al. Geriatr Gerontol Int. 2020;20(10):992-993.
  4. Yamada M, et al. J Am Med Dir Assoc. 2015;16(11):1002.e7-11.10.1016/j.jamda.2015.08.001
  5. Morley JE et al. J Nutr Health Aging. 2012;16(7):601-608.10.1007/s12603-012-0084-2
  6. 葛谷雅文:フレイル―超高齢社会における最重要課題と予防戦略 フレイルとは―その概念と歴史.葛谷雅文, 雨海照祥(編) 医歯薬出版株式会社, 東京, 2014; 2-6.
  7. Rolfson DB, et al. Age Ageing. 2006;35(5):526-529.10.1093/ageing/afl041
  8. Gobbens RJ, et al. J Am Med Dir Assoc. 2010;11(5):344-355.10.1016/j.jamda.2009.11.003
  9. 「介護予防マニュアル改訂版」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-1_1.pdf
  10. 「後期高齢者の質問票の解説と留意事項」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000557576.pdf
  11. Saliba D, et al. J Am Geriatr Soc. 2001;49(12):1691-1699.10.1046/j.1532-5415.2001.49281.x
  12. Satake S, et al. Geriatr Gerontol Int. 2016;16(6):709-715.10.1111/ggi.12543
  13. 荒井秀典(監修), 佐竹昭介(編). フレイルハンドブック 2022年版. p.44-46 ライフ・サイエンス.

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